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都市域における冬期を中心とした高濃度大気汚染の予測と制御に関する研究

プロジェクト研究の紹介

若松 伸司

 都市域における大気汚染は昭和60年以降、再び悪化の傾向にある。これは主に自動車走行量の増加、交通渋滞、生産活動の拡大等によるものであると考えられており、特に冬期を中心とした窒素酸化物による大気汚染は深刻である。

 我が国における大気汚染対策はこれまでは法律で定められた大気汚染物質に対して個別的に実施されてきた。しかし大気汚染物質は図に示すように相互に密接に関連し合っていることが明らかにされつつある。特に都市域においては発生源の種類が多くその地域的な分布も複雑であるため個別的な大気汚染対策のみでは十分な効果は期待できないと考えられる。

 本研究においては都市域における冬期を中心とした窒素酸化物による高濃度大気汚染問題を複合大気汚染としてとらえ、その生成機構の解明と予測、制御の方法を明らかにすることを目的としている。この特別研究は平成2年度から3年間の計画で実施され、地域環境研究グループの都市大気保全研究チームが中心となって執り行う。

 具体的にはまず生成機構解明のためにフィールド観測と風洞実験が予定されている。窒素酸化物はこれまでの知見ではその約9割が一酸化窒素の形で発生源から放出されると言われている。これが環境大気中においてオゾン、並びにRO2ラジカルと反応することにより二酸化窒素となるわけであるが、これには都市の気象条件と光化学反応が密接に関連する。冬期の都市内部では建造物の影響による都市境界層が形成され、上層は強い安定層となっている。このため大気汚染物質は下層に閉じ込められ、同時に上空の安定層からオゾンが下層へと供給される。一方、炭化水素と窒素酸化物の共存下では光化学反応によりRO2ラジカルが生成する。このため反応と気象、特に上空の乱れ成分の観測も含めた航空機やカイツーンによる立体分布観測が必要である。この種の観測は従来ほとんど行われていない。このような都市の気象条件を風洞を用いて再現し、発生源の分布と環境濃度分布の関連性を明らかにする研究も同時に進める予定である。国立環境研究所では強い安定成層を作り出すことが出来る世界でも有数の風洞を所有しておりこの種のテーマには大きな力を発揮するものと期待している。

 次に重要なのは、大気汚染発生源に関する調査研究である。特に最近、自動車からの大気汚染物質の組成が、車種構成の変化に伴って大きく変化しつつあると言われているが、この点に関してもフィールド観測データを中心とした解析を進めたいと考えている。また発生源の把握に関する研究は、大気汚染予測モデルの構築及び検証、並びに発生源対策手法の検討に当たっては重要となる部分である。これらの結果に基づいて高濃度大気汚染予測のための数値モデルの開発とその応用に関する研究を行う予定である。

 予測モデルの開発に当たっては、フィールド観測及び風洞実験で得られた、都市境界層の内部構造に関する研究成果を正しく取り込めるようなものとするべく理論化を行いたい。

 以上が本プロジェクトの背景、目的、並びに研究概要であるが、個々の基礎研究が、有機的にリンクして応用研究として実用的な機能を発揮するためには、特に地方自治体の研究機関を始めとする関係各位との研究協力や研究交流が不可欠である。

 皆様方のご協力、ご援助を心からお願い申し上げます。

(わかまつ しんじ、地域環境研究グループ・都市大気保全研究チーム総合研究官)

図  都市型大気汚染にかかわる汚染物質の変質過程と相互依存性の概念図