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藻類の増殖に及ぼす銅の影響

経常研究の紹介

冨岡 典子

 富栄養化した湖沼においては藻類の大量発生による水の華(アオコ)が形成され、水質の悪化、悪臭、魚類のへい死、水辺環境の悪化等の多くの弊害をもたらしている。水の華の原因生物である藻類の大量発生については、リンと窒素濃度、温度等が大きく関与していることが明らかとなっているが、鉄、微量有機物質等の因子の関与も示唆され、その発生のメカニズムについてはいまだ不明な点が残されている。一方、藻類の大量発生を抑制する因子として、従来から銅の存在が知られており、アオコの発生防止のために諸外国においては硫酸銅の散布が行われている。銅は植物、動物、微生物にとって必須元素であり、ごく低濃度の銅はこれらの生育に必須である。この銅のラン藻に毒性を及ぼす濃度、その作用機作についてはいまだ詳細な研究がなされていない。本研究では純粋培養したラン藻の MicrocystisAnabaena及び緑藻の Chlorella を用いて、銅がこれら藻類に対して毒性を示す濃度、及び湖沼において銅がアオコの発生に及ぼす影響について検討を行った。

 まず霞ヶ浦でアオコを形成する Microcystis aeruginosa K3A、Microcystis viridis、Anabaena affinisChlorella ellipsoidea の増殖に及ぼす銅の影響について検討を行った。合成培地におけるラン藻の M.aeruginosa K3A、M.viridisA. affinis に対する銅の EC50(50%比増殖速度阻害濃度)はそれぞれ19、23と18nMであった。一方緑藻のC.ellipsoidea に対しては 580nMであり、ラン藻は緑藻の Chlorella に比べて銅に対して著しく高い感受性を示した。また霞ヶ浦の湖水中の銅濃度を測定したところ 17nM(1.1ppb)であった。この値はラン藻の合成培地におけるEC50とほぼ同程度であり、湖水中にはラン藻の増殖に影響を及ぼし得る濃度の銅が存在していることが明らかとなった。湖沼での Microcystis 属ラン藻の発生に及ぼす銅の影響について調べるために、霞ヶ浦の湖水を用いて M.aeruginosa K3Aに対する銅の毒性について検討した。この場合のEC50(54nM)は、合成培地での値 19nMに比べて約3倍高く、湖水中には銅の毒性を減少させる物質が存在していると考えられた。湖水中の銅の毒性を減少させている物質としては、キレート様の物質、鉄などの金属が考えられる。そこでキレート物質の持つ銅の毒性減少効果について検討を行った。その結果、キレ−ト物質であるEDTAやEGTAは銅の毒性を著しく減少させ、その毒性減少効果にはキレート生成定数が大きく関与していた。

 今後は銅の毒性を抑えている物質の解明を行うとともに、低濃度の銅によるアオコの発生の制御の可能性を検討して行きたいと考えている。

(とみおか のりこ、水土壌圏環境部水環境質研究室)