ユーザー別ナビ |
  • 一般の方
  • 研究関係者の方
  • 環境問題に関心のある方
2001年6月25日

大気有害化学物質監視用自動連続多成分同時計測センサー技術の開発に関する研究(革新的環境監視計測技術先導研究)
平成9〜11年度

国立環境研究所特別研究報告 SR-39-2001

1.はじめに

表紙
SR-39-2001 [3.9MB]

 環境中には多種・多量の化学物質が放出されているが、これらの中には発がん性などの毒性を有するものもあり、有害化学物質問題に対する様々な取り組みが始められている。その1つが1996年公布の改正大気汚染防止法による有害大気汚染物質への体系的取組である。234の有害大気汚染物質に該当する可能性のある物質を選び出し、その中でプライオリティーが高いと判断された22物質を優先取組物質に、直ちに何等かの対策が必要と判断された4つを指定物質とし、優先取組物質の事業者による自主管理や指定物質の排出規制などの排出抑制対策がとられるとともに、汚染状況の精密モニタリングが行われている。発がん性などの慢性毒性を有する化学物質のリスク評価には年平均濃度を把握する必要があるが、多数の化学物質について年平均濃度を推定するモニタリングを行うには、多大な労力や費用を必要とする。このような問題を解決する手段として自動モニタリング装置の開発が望まれる。そこで、なるべく多数の有害大気汚染物質を自動連続モニタリングする技術・装置を開発することを目的として本研究を実施した。また、開発した自動モニタリングシステムにおいても精度管理を実現させ、従来の大気汚染常時監視で困難とされてきた膨大なデータの取得とその信頼性の確保を両立させることも合わせて目的とした。

2.研究の概要

(1)キャニスター捕集/GC/MS法による自動連続多成分モニタリングシステムの開発

 有害大気汚染物質の中には様々な性状を有する化学物質が含まれており、それらの全てに対して自動モニタリング装置を開発することは困難であるため、揮発性有機物及び一部の半揮発性有機物を対象として自動モニタリング装置の開発を行った。大気試料の捕集には優先取組物質の手分析によるモニタリングに多く用いられている容器捕集法を採用し、分析法としては多成分高感度分析で必須とされる高い感度に加え、選択性と汎用性を兼ね備えたGC/MSを用いた。自動的に洗浄、試料捕集ができる2つのキャニスターを交互に使い、試料濃縮導入装置を介して、測定局で取り扱いやすい液化炭酸ガスを用いたクライオフォーカス付きのGC/MSで多成分連続モニタリング(通常2〜24時間間隔)する装置を設計、開発した。2つのキャニスターを交互に用いて試料を採取し、一方で分析を行っている間に、もう一方で試料採取を可能にし、連続してモニタリングすることができるようにした。また、手分析法と同様の精度管理を行うために、連続モニタリングを行っている間に標準ガスやブランクの測定を行ったり、装置の動作状況やパラメーターを常時監視して制御やデータ処理に利用するなど、測定結果の精度管理等のデータ処理・チェックを可能な限り自動で行えるように、装置、制御システム、データ処理支援プログラム等を設計した(図1)。標準ガスには米国での容器捕集による有害大気汚染物質測定法用の市販混合標準ガスを用い、試料採取や分析だけでなく、装置の性能チェック、精度管理までを自動的に行うことができ、連続的に汚染状況の変化を把握できるモニタリングシステムを開発した。手分析による測定値との間に相関が得られなかったり、繰り返し分析で値がばらつく物質も一部見られたが、大部分の物質については、自動モニタリングと手分析の測定結果は0.8以上の高い相関を示しており、測定値間の平均値の差も±30%程度の範囲に入っており、十分に実用可能と判断された。最終的には41物質を対象とした自動モニタリング装置が開発できた(図2、3)。なお、現在同型機が、国設局における試験的な多成分常時監視に活用されている。

図1 キャニスター捕集/GC/MS法による自動連続多成分モニタリングシステムの構成
図2 大気試料のクロマトグラム(例)
図3 自動連続モニタリング結果(例)

(2)キャニスター捕集/GC/MS法の適用対象物質の拡張

 自動連続モニタリング装置の開発では、対象物質を市販混合標準ガスに含まれる物質にとどめることにしたが、より多くの有害大気汚染物質の測定を実現するために、適用対象物質の拡張を手分析法によって検討した。物性などから容器捕集法が適用できそうな49物質を取り上げて標準試料を調製し、分析できるかどうか、各種条件下でキャニスター内で安定かどうかなどを検討し、対象物質を絞り込んだ上で、大気試料および標準物質を添加した大気試料についてキャニスターにおける保存性などを調べた。その結果、標準試料の分析でピークが見られなかったり、ブランクが大きいなどの理由から測定できない物質もあったが、31物質についてキャニスター捕集/GC/MS法を用いた手分析による測定が可能であることがわかった。環境濃度の予備的調査を行い、溶剤等として使用されている化学物質を中心に多数の化学物質を環境大気から検出した(表1)。この方法を用いることによって、手分析法でより広範な有害大気汚染物質のモニタリングが可能となったばかりでなく、これらの化学物質を対象とした容器詰め標準ガスが作製できれば、本研究で開発した装置を用いた自動連続モニタリングも実現可能となる。

表1 キャニスター捕集法の適用対象拡張物質とその予備調査結果

(3)アルデヒド類の自動前処理GCによる自動モニタリング法の開発

 アルデヒド類は優先取組物質の中でもその濃度がかなり高いことから、重要なモニタリング対象物質である。しかし、アルデヒド類の主要成分であるホルムアルデヒドやアセトアルデヒドはその反応性や極性のため、GC/MSで直接測定することができず、容器捕集法を適用することも困難である。そこで、特にアルデヒド類を対象とした自動モニタリング装置を別途開発した。アルデヒド類の自動モニタリング法としては、拡散スクラバー反応捕集/HPLCによる方法が開発されているが、多量の溶媒を使用し、廃液量が多くなり、また別途採取してきた試料の測定には不向きである。そこで、これらの問題点を解決する方法として、大気試料をDNPH(2,4-ジニトロフェニルヒドラジン)カートリッジに通して、アルデヒド類をDNPHと反応させて捕集し、誘導体化して生成したヒドラゾンを抽出してGC/FTDで分析する操作を自動で行う方法を開発した。この方法は、カートリッジを繰り返し使える、溶媒の使用量が少ないなど、自動モニタリングへの適用が可能であるとともに、別途採取してきた試料の自動分析にも用いることができる。実験室内の空気とタバコの副流煙を測定して性能を確認した上で、実際の大気試料の自動モニタリングを行い、実用性の検証を行った。本装置は将来的に、誘導体化して分析を行う必要がある他の有害大気汚染物質の自動モニタリングなどにも応用できる。

3.今後の検討課題

 PRTRのパイロット調査では、環境中に放出されている化学物質の多くは大気へ侵入しており、化学物質汚染の状況を点検している環境省の調査でも多くの化学物質が大気から検出されており、有害大気汚染物質のリスク管理は今後の化学物質対策の重要な柱の1つとなる。本研究では、この対策に資するために、多様な化学物質の連続自動モニタリングシステムを開発した。
 しかし、有害大気汚染物質には多様な性状を有するものが含まれており、開発したシステムが適用できるのは揮発性有機物と半揮発性有機物の一部に限定されており、難揮発性有機物や無機物など、性状の異なる有害大気汚染物質の自動連続モニタリングシステムの開発は今後に残された大きな課題である。また、極性の高い物質が捕集容器の内面に吸着されるなど、今回検討の対象とした物質の中にも開発したシステムをそのまま適用できないものもあり、この問題点の解決も今後の課題である。この他、手分析でキャニスター捕集の適用拡張が可能と判断された化学物質については、容器詰めの標準ガスを調製することが自動連続モニタリングに向けての課題となっている。
 アルデヒド類の自動モニタリングでは、低濃度のアルデヒド類をモニタリングするために、大気吸引速度を大きくして試料量を増すなどの高感度化が課題となっている。また、アルデヒド類以外の反応性化学物質を、誘導体化して測定する応用研究も今後の課題である。

〔担当者連絡先〕
国立環境研究所
化学環境研究領域
田辺 潔
Tel 0298-50-2478, FAX 0298-50-2572

用語解説

  • 有害大気汚染物質
     低濃度であっても長期的な曝露によって健康影響が生じるおそれがある大気中の化学物質。十分な科学的知見が整っているわけではないが、大気汚染防止法では未然防止の観点から、これに該当する可能性のある物質として234種類がリストアップされ、そのうち22が優先取組物質、直ちに何等かの対策が必要と判断された4つが指定物質とされている。
  • キャニスター
     大気などの気体試料を採取するステンレス製容器。測定対象物質の吸着や反応を防ぐため、内壁を電解研磨やシリコーンコーティングなどによって不活性化してある。有害大気汚染物質などの大気中の有機物質の測定に広く用いられている。
  • GC/MS(ガスクロマトグラフ質量分析計)
     ガスクロマトグラフィーによる分離と、質量分析による検出を組み合わせた分析法。キャピラリーカラムによる化学物質の高度な分離、それぞれの化学物質に特有のイオンの高感度検出により、信頼性の高い高感度多成分分析法として、熱分解性、反応性などの問題がある場合を除き、広く有機分析に用いられている。
  • クライオフォーカス
     ガスクロマトグラフィーで、カラムの先端付近を液化炭酸ガスや液体窒素で冷却し、導入された試料を局所に濃縮すること。これによって、多量のガス試料の導入や熱脱離による試料導入などにおいて、試料導入に時間がかかってピークが広がってしまうことを防ぎ、良好な分離および高感度を得ることができる。
  • 拡散スクラバー反応捕集/HPLC
     ガス状の分子を透過する膜で作られた内管を有する二重管構造の拡散スクラバー(ガス状物質捕集装置)を用い、中央の管内部を流れる空気中の化学物質を、分子透過性膜を介して外周部を流れる反応溶液に反応捕集し、反応生成物を高速液体クロマトグラフィーで分析する方法。試料空気および反応溶液をそれぞれ常時流しておき、定期的、自動的に反応生成物をHPLC(高速液体クロマトグラフ)で分析することによって、自動モニタリングが行われる。
  • GC/FTD
     Flame Thermionic Detector(FTD)を用いるガスクロマトグラフィー。この検出器は、窒素やリンを含む化学物質を選択的、高感度に検出するため、ガスクロマトグラフィーでこれらの物質を分析する場合によく用いられる。
  • 誘導体化
     測定したい化学物質を反応試薬と反応させ、より測定に適した物質に変えること。通常、反応性が高い不安定な物質を安定な物質に変える、極性が高く吸着しやすい物質を極性の低い物質に変える、検出感度の低い物質を高感度が得られる物質に変えるなどの目的で誘導体化が行われる。

関連記事