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2020年3月27日

非侵襲MR測定を用いた化学物質のヒト発達障害への影響評価法の提案と妥当性の検討に関する研究
平成27~29年度

国立環境研究所研究プロジェクト報告 SR-134-2019

SR134表紙画像
SR-134-2019 [5MB]

 発達障害の増加は社会問題の一つとなっています。この原因として、遺伝的な要因の他に化学物質などの環境要因も疑われていますが、曝露された化学物質による動物の行動異常を議論する評価法が、現在用いられています。しかし、発達障害に関するヒト脳と動物脳との差や、動物実験で得られた結果をヒト脳に外挿する点に課題が残ります。これに対して、ヒト脳を非侵襲に測定できるMR装置を利用すれば、健常人と患者のデータ比較が可能となり、発達障害に関する健康影響指標を見出すことが期待できると考えています。化学物質を曝露した動物でも、この指標に関して類似の応答が認められれば、ヒト脳との差異を少しでも埋めることが期待できます。

 この様な着眼点から、MR装置を用いたヒト脳の非侵襲測定法を開発して発達障害に関する健康影響指標を探索すること、発達障害小動物モデルで同様な応答をするか否かを見出すことを目指して、本研究を進めました。健康影響指標としては、情報連絡路としての役割を持つ軸索が多く存在する白質領域を候補の一つとしました。

 本研究の成果の一つとして、ヒト全脳を灰白質、白質、脳脊髄液の領域に分類して各体積を算出する従来技術を発展させ、ヒト脳の各部位内をこれらの3領域に分類する技術が開発できました。開発した方法を利用して、健常人ベースラインデータと、少数に留まっていますが自閉症スペクトラム障害(ASD)患者データとを比較し、前頭葉領域などで白質体積の減少が生じていることが示唆されました。ASD小動物モデルに関しては、遺伝子改変、薬物投与の両ラットモデルの行動試験による評価を行い、ラット脳形態情報、遺伝子発現などの解析を行いました。

 今後、本研究成果を一層発展させることで、ヒト脳と動物脳での類似応答に関する知見が深まり、発達障害に関する化学物質のヒト脳への影響評価の実現に繋がることが期待されます。


(国立環境研究所 環境計測研究センター センター長 渡邉 英宏)