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上部対流圏から下部成層圏における水蒸気分布の変動要因の解明と気候への影響評価(平成 18年度)
Study on the water vapor variation in the upper troposphere and lower stratosphere, and the climate impact evaluation

予算区分
CD 文科-科研費
研究課題コード
0507CD554
開始/終了年度
2005~2007年
キーワード(日本語)
水蒸気
キーワード(英語)
WATER VAPOR

研究概要

大気中の水蒸気は、主要な温室効果気体でかつ大気化学組成に重要な OH の供給源である。特に上部対流圏の水蒸気は微量だが外向き赤外放射量を左右し、その変動は成層圏の化学組成に影響を与えている。そのため、上部対流圏から下部成層圏における水蒸気の時空間変動を理解することは、現在の気候の形成・維持過程と地球温暖化問題等の気候変動の解明に必要不可欠である。また最近では、高精度のゾンデ観測から成層圏の水蒸気の増加傾向が示され、それが成層圏の寒冷化やオゾン減少をもたらすことが指摘されている。そのため対流圏から成層圏への物質輸送の入口である熱帯上部対流圏での水蒸気変動が注目されている。このように地球環境を理解する上で、上部対流圏から下部成層圏の水蒸気分布とその変動を解明しなければいけないという課題は、IPCC第1次レポートから現在まで指摘され続けている。しかし水蒸気は時空間変動が激しく全球規模での観測が必要とされているにも拘らず、対流圏界面付近の水蒸気は低濃度で観測が困難なため、良質な全球規模データが不足している。そのため上部対流圏から下部成層圏の水蒸気分布とその気候への影響は十分に理解されているとはいえず、より正確な気候変動の解明には、不確定性の小さな水蒸気データとその変動を駆動する物理過程の解明が必須である。そこで本研究では、現在最も科学的に有益として知られる衛星観測データと、現在精密な観測のために開発が進められている水蒸気ゾンデデータを用いて、上部対流圏から下部成層圏の水蒸気の経年変動、季節変動と季節内変動を駆動している要因を全球的かつ定量的に明らかにする。また放射収支や、そこでの水蒸気量に影響を与えていると考えられている上層雲との関係を調べる。さらにこれら放射に寄与するパラメタを用いて、気候、特に放射収支へ及ぼす影響や、気候変動に対する応答を大循環モデル等を用いて定量的に調べることを目的とする。

研究の性格

  • 主たるもの:基礎科学研究
  • 従たるもの:技術開発・評価

全体計画

上記の目的を達成するために、まずは西部太平洋からアジアモンスーン領域における水蒸気変動に着目して研究を進めていく。この領域は、年中活発な積雲対流が卓越していることから対流圏上部への主要な水蒸気の供給域である。北半球冬季においては非常に低温となることから成層圏に入り込む水蒸気量濃度が規定されている領域として知られ、また北半球夏季には、アジアモンスーンにともなった大規模な循環場が成層圏-対流圏間物質交換 (Stratosphere-Troposphere Exchange : STE) に寄与していることが最近の研究から明らかになってきている。しかしながら、その詳細なメカニズムや、定量的な議論は、観測データの不足から明らかにされていない。そこで、衛星から得られた水蒸気と上層雲のデータと最新鋭の水蒸気ゾンデデータ、さらに上層雲との関係を定量的に理解するために、雲ライダー、レーダーデータを用いて研究を行う。

今年度の研究概要

昨年度実施した衛星観測データの解析から、北半球夏季アジアモンスーン域での対流圏から成層圏への湿潤空気塊の主要な流入口が、積雲対流活動が活発な領域であることがわかった [Eguchi, JGR, 査読中]。本年度は、対流活発域での湿潤空気塊の流入量を定量的に評価するために、バングラディッシュのダッカにおいてラジオゾンデ観測を予定している。またダッカの気象局で取得された高層大気観測データの解析を行う。具体的な研究内容を以下に記す。
(1) 高層大気観測データの解析 (平成18年5月〜11月) ダッカ上空の静止気象衛星データの解析を行った結果、プレモンスーン期(3月〜5月)から対流活動が活発となり、対流が対流圏界面に到達していることがわかった。このプレモンスーン期の不安定な状態が、対流活動に伴う成層圏対流圏間の物質交換に影響を与えると考えられる。よって、ダッカの気象局で取得された過去約 2 年半分の高層大気観測データを用いて、北半球春季から夏季にかけてのダッカ上空における気温と水蒸気場の解析を行い、物質輸送の観点から大気安定度の時間変化と物質と対流活動との関係を明らかにする。またデータ解析の結果は次項で述べる観測に反映させる。(2) 現場観測の準備・実施 (平成18年8〜3月) 気球搭載型のラジオゾンデと露点温度計を用いた観測を、プレモンスーン期とモンスーン期にそれぞれ数日間ずつ行う。観測実施までに、観測で必要な測器・機材の発注、整備を行う。またダッカの気象局に赴き、観測測器の設置等を行う。さらに年度内に数回、ダッカの気象局の職員や国内の研究協力者との打ち合わせを行う。

関連する研究課題
  • 0 : 地球環境研究センターにおける研究活動

課題代表者

江口 菜穂