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高CO2環境における光合成誘導反応の生化学的・気孔的制限とその生態学的意義(平成 25年度)
Biochemical and stomata limitations on photosynthetic induction and their ecological role under high CO2 environments

予算区分
CD 文科-科研費
研究課題コード
1213CD003
開始/終了年度
2012~2013年
キーワード(日本語)
光合成,高CO2,気孔,生理生態
キーワード(英語)
Photosynthesis, High CO2, Stomata, Ecophysiology

研究概要

自然環境下では光強度は時間的に大きく変化する。数秒の内に光強度は数百倍も変わる。このような光強度の変化に対して光合成速度も迅速に応答することはわかっている。しかし、その応答過程、メカニズム及び生態学的意義については不明なところが多い。光強度の上昇に応答する光合成速度の上昇過程は光合成誘導反応という。誘導過程では、強光下での最大光合成速度に達していないため光合成速度が制限されている。これまでの研究によって、高CO2環境下では光合成誘導反応が加速するが、加速する要因が充分に解明されていない。そこで、本研究では現在進行中新学術領域の公募研究「高CO2環境下で光合成誘導反応の解明と物質生産への影響評価」の発展として、以下の二つの目的がある。まず、高CO2環境下で光合成誘導反応の加速について気孔による加速と生化学的反応による加速を分別して評価する。次にそれぞれの加速が高CO2環境に順応した植物の光合成物質生産に対する貢献を定量的に評価する。

研究の性格

  • 主たるもの:基礎科学研究
  • 従たるもの:応用科学研究

全体計画

本研究では、以下の主なことを明らかにする。まず、高CO2環境下で光合成誘導反応に及ぼす気孔と生化学的影響を分離し、それぞれが光合成誘導反応過程において光合成速度にどのような影響、どの程度の影響を明らかにする。この目的を達成するため、本研究では光変化に対する気孔開閉反応が異なるモデル植物を利用する。それらは(1)光に対する気孔応答が顕著に異なるポプラ2種、(2)同じ種であるシロイヌナズナの野生株と気孔が開いたままの株、そして(3)完全に気孔のない蘚苔類である。次に、上記の実験結果を利用し、将来CO2上昇した場合、または熱帯林林床のような高CO2濃度環境において、光合成誘導反応が葉の光合成物質生産に及ぼす影響をモデルで明らかにする。

今年度の研究概要

平成25 年度の計画
今年度、基本的な計画(栽培方法、測定方法と解析方法)は、基本的に前年度と同じであるが、実験は同種のシロイヌナズナの野生株と気孔開放のままの変異株、及び全く気孔のない蘚苔類に絞る。ポプラについて、必要によって補足実験を行う。

栽培植物:
今年度は、下記のモデル植物に絞って実験を行う。
同じシロイヌナズナで、気孔が開いたままの変異株と野生株を使う。
また、全く気孔を持たない林床の蘚苔類代表、テヅカチョウチンゴケPlagiomnium tezukae も利用する予定である。

栽培条件:
国立環境研究所の人工光室で、各種の生育環境に近い温度と湿度条件、光強度約500μmol m-2s-1;
CO2 濃度は1000μmol mol-1、700μmol mol-1 と400μmol mol-1 の下で栽培する。

測定項目と方法:
光合成誘導反応:光強度を20μmol m-2s-1 から比較的に弱い強光500μmol m-2s-1 まで上昇させ、1秒の間隔で光合成速度を測定する。光合成誘導反応がCO2 環境に対する気孔の順応を把握するために、生育環境と同じCO2 濃度下で測定するだけではなく、生育環境と異なる他の二つのCO2 濃度環境下での光合成誘導反応の測定も行う。同時に、Ci-A 曲線を求めるための測定を行う。誘導反応に伴う生化学的制限要因の時間変化の測定:上記の光合成誘導反応測定と同じ光強度の変化の元で、適切な時間間隔でRubisco 活性、Rubisco Activase Activity を測定するためのサンプリングを行う。採集したサンプラーは、Rubisco 総量、Initial 活性、Rubisco Activase の量と活性を測定する。誘導反応の関連酵素活性の順応があるかどうかを確かめるため、生育環境と同じCO2濃度、そして異なる別の二つ生育環境のCO2濃度下で、Rubisco のInitial 活性とRubisco Activase 活性を測定する。酵素活性に関する測定は、連携研究者深山浩と冨松元と一緒に進める。葉の特性に関する測定:各CO2 環境下での葉について、葉面積、乾燥重量、C,N 総量。シロイヌナズナとテヅカチョウチンゴケ全体の乾物を測定する。

データ解析:
上記の測定データから、以下の具体的目標に絞って解析する。まず、3 つのCO2 濃度下で測定した光合成誘導反応について、気孔制限と生化学制限の時間変化、そしてそれぞれの制限によって光合成速度の低下量を評価する。後者の評価、既存のモデルを使うが、同時に、Ci の変化を考え、自らモデルの開発も考える。これらの評価結果から、CO2 環境に対する光合成誘導反応、気孔の順応と生化学的な順応を分けて、検討する。つぎに、これらの気孔的、生化学的順応は、どれだけ光合成物質生産への影響をモデルで評価し、生長測定のデータを使って検証する。シロイヌナズナとテヅカチョウチンゴケは、ポプラより全植物体の乾物測定が可能であるので、その検証はより確実にできることが期待される。

外部との連携

連携先:神戸大学、アメリカ・カリフォルニア大学(Davis)

課題代表者

唐 艶鴻