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放射線汚染がアカネズミ個体群の遺伝的多様性および自然選択に及ぼす影響(平成 27年度)
Effects of radiation on genetic diversity and natural selection of the large Japanese field mouse population

予算区分
CD 文科-科研費
研究課題コード
1517CD010
開始/終了年度
2015~2017年
キーワード(日本語)
次世代DNAシーケンス,アカネズミ,放射線,遺伝的多様性
キーワード(英語)
next-generation DNA sequence, large Japanese field mouse, radiation, genetic variation

研究概要

放射線の被ばくによって引き起こされるDNA損傷および変異は次世代へ継承されることで、各個体の劣性遺伝子含有率を高め、集団としての遺伝的頑健性を低下させる。これまでの研究から、放射線地域に生息するアカネズミにおいて、本種の繁殖期にあたる2012年の夏季に捕獲されたアカネズミの体内セシウム蓄積量から算出した内部被ばく線量は平均0.18 mGy/dayを示し、ICRPが提示する放射線影響を考慮すべき目安である誘導考慮参考レベル0.1 mGy/dayを超える値であることが明らかになった(ICRP, 2008; 大沼ら, 未発表)。さらに、酸化ストレスの指標として繁殖期アカネズミの精巣中の8-ヒドロキシ-デオキシグアノシン(8-OHdG)の蓄積、修復酵素の発現量増加が認められた(大沼ら, 未発表)。以上のことからアカネズミの生殖細胞ではDNAの変異を誘発するDNAの酸化が進んでおり、この酸化に伴う変異が次世代に引き継がれることで後代に予期せぬ突然変異が蓄積する可能性がある。そこで本研究では福島県内の放射線汚染地域に生息するアカネズミを対象に、生殖細胞におけるDNAの突然変異を通じてアカネズミ個体群内の遺伝的構造に及ぼす影響を明らかにするため、次世代シーケンサーを用いた全ゲノムSNP解析を行い精子DNAの変異率、集団中の遺伝的多様度の変化および自然選択の有無を明らかにする。

研究の性格

  • 主たるもの:応用科学研究
  • 従たるもの:

全体計画

本研究ではアカネズミを対象に、放射線汚染が生殖細胞での突然変異を通じて集団の遺伝的多様性および自然選択に及ぼす影響を明らかにすることを目的とし、RAD シーケンシング法を用いて以下の研究を遂行する。
(1) アカネズミ個体の精子ゲノムにおける変異の出現頻度解析
精子から抽出したDNA からRAD シーケンス法を用いて配列データを取得し、精子ゲノムにおける変異の出現頻度を算出する。個体の放射線被ばく線量と変異の出現頻度との関係から生殖細胞を通じた突然変異の遺伝リスクを評価する。
(2) アカネズミ集団内の遺伝的多様性評価
肝臓から抽出したDNA からRAD シーケンス法を用いて配列データを取得し、変異の検出を行う。
そのデータから遺伝的多様度の評価を行い、集団内における遺伝子変異の蓄積の有無を明らかにする。
(3) 放射線汚染地域における自然選択の検出
((2)アカネズミ集団内の遺伝的多様性評価)で得られた配列データから、ゲノム上の一塩基多型(SNP)解析を行い、放射線汚染への適応に関与する遺伝子を探索する。

今年度の研究概要

(1)サンプル調整
サンプルは放射線汚染地域として福島県の帰還困難区域内、対照地域として富山県立山町および青森県十和田市において捕獲されたアカネズミデータを用いる。各地域でのアカネズミの捕獲は2012、2013年にすでに実施済みである。各個体の肝臓からDNAの抽出を行うとともに、オス個体の精巣上体尾部中の精子1,000から10,000個を顕微鏡下でガラス針を用いて採取し、DNAの抽出を行う。
(2)RADシーケンス手法の確立
RADシーケンスを行うにあたり、最もデータ収集効率の良い制限酵素を選出するため、2塩基以上の突出末端を生じさせる制限酵素を対象に、アカネズミのゲノム配列の単位長あたりについて、制限酵素消化によって作出される断片数と断片長の度数分布をプログラムを作成して計算し、最も解析効率の良い制限酵素、またはそれらの組み合わせを予測する。予測結果をもとに、効率の良い上位数種の酵素およびRADシーケンスに頻繁に使用されているSbfI、EcoRIなどを用いてシーケンスを実施し、実際に取得可能なデータ量の比較を行い、実験に使用する制限酵素を決定する。
(3)データ解析プログラムの構築
シーケンスデータの解析にはRuby言語を用いてプログラムを構築する。解析プログラムの構成は以下の通りである。?得られたシーケンスデータから配列精度を示すQ30以上の配列を抽出し、そのアダプター配列を除去する。?リファレンスとなるアカネズミのゲノム配列に対し、解析ソフトBLATを用いて配列のアライメントを行い、多型データを検出する。?多型データの位置と塩基をデータベースMySQLに保存する。?各個体において多型データを集計し、変異のある塩基の構成比が4:6から6:4の範囲にあるものをSNPとして位置情報とその塩基配列をデータベースに保存する。精子DNAの配列データについては検出された全変異をデータベースに保存する。

外部との連携

協力研究者:大沼学(国立環境研究所・主任研究員)

協力研究者:遠藤大二(酪農学園大学・教授)

関連する研究課題

課題代表者

石庭 寛子