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生活史行列ビッグデータを用いた植物個体群の比較統計解析(平成 28年度)
Comparative study of demography in plant populations using big data on life history matrices

予算区分
CD 文科-科研費
研究課題コード
1517CD023
開始/終了年度
2016~2017年
キーワード(日本語)
推移行列モデル,ビッグデータ
キーワード(英語)
life history matrices,big data

研究概要

約9 0 0 種の植物にわたる4 0 0 0 行列を保有する生活史行列ビッグデータ( C O M P A D R E )は、2014 年秋に公開され、オンラインで利用可能となる.そのビッグデータを用いて、個体群統計量の種間横断的研究を行う.主に解析すべき項目は
(i)個体群成長率と平均寿命の関係
(ii)各生育段階の滞留率、推移率、繁殖率の感度と平均寿命の関係
(iii)つる植物・多年生草本・木本
における個体の流れ行列の比較(iv)ランダム行列の場合の解析結果との比較、である.これらの解析を通じて、普遍的な植物の動態特性を明らかにする一方、生活史タイプに依存した種間の相違点を把握し、ランダム行列からの進化の方向性について解析することを目的とする.

研究の性格

  • 主たるもの:基礎科学研究
  • 従たるもの:

全体計画

1 .「解析準備:解析に供与する生活史行列の整理・抽出」
この作業は解析を開始する前に行われるが、量が膨大であるため、研究支援の要員を雇用することによって行なう.また、場合によっては、計算加工のためのコンピュータープログラムを開発し、能率化を図る.
( i )信頼できる生活史行列の抽出
過去数十年にわたる生活史行列研究では、特に1970~80 年代において、行列要素の計算に誤りがある場合が確認されている.生活史行列を提供した原論文にあたって、信頼性をチェックする.
( i i )生育段階数の統一
多数種のデータを利用して解析する場合には、ダウンロードした生活史行列での生育段階数のバラツキが種間比較をむずかしくする場合がある.基準とする生育段階数を設定し、すべての生活史行列の加工を行う.

2.「解析1:過去の弾性度解析の検証」
( i )弾性度の計算
整理・抽出された生活史行列とCaswell(2001)に掲載されている弾性度の公式を用いて、各植物種の弾性度を算出する.
( i i )弾性度の集約
生活史行列の各要素を、生存、成長、繁殖の生活史過程に分類して、それぞれに対応する弾性度を合計し、弾性度ベクトルを求める.
( i i i )弾性度ベクトルの図示
弾性度の総計が1になる性質を利用して、三次元正単体(正三角形)上に、各植物種の弾性度ベクトルをプロットする.
( i v )シルバータウンらの研究成果との比較
一年生植物、多年生草本、木本の弾性度ベクトルは、それぞれ三次元正単体上でクラスターを形成し、一定の傾向をもつことを示されている.その結果が今回の多数種を対象にした結果と一致するか、を検証する.

3.「解析2:個体群成長率と平均寿命の関係」
( i )個体群成長率および平均寿命の算出プログラムの作成
個体群成長率および平均寿命を同時に求めることが可能なプログラムを開発する.
( i i )個体群成長率および平均寿命の算出
解析準備によって得られた行列群および作成された計算プログラムを用いて、そのそれぞれの行列より、最大固有値(これが生物学的には定常状態に達した動態の個体群成長率に当たる)を求める.また、Cochran & Ellner (1992),Ohara & Takada(2001)によって与えられた公式を用いて、実生の生育段階の平均余命を求め、平均寿命の指標とする.
( i i i )個体群成長率および平均寿命の分布の検討
算出された個体群成長率および平均寿命の頻度分布を求め、それぞれの分布がいくつのモードをもっているかを把握するとともに、対象植物種の生活史タイプと個体群成長率・平均寿命の関係を調べる.
( i v )個体群成長率と平均寿命の相関係数の算出
個体群成長率と平均寿命の間には負の相関が生じていると予想される.データベースの全種を対象にした場合と、生活史タイプ別にした場合の相関分布を求める.

4.「解析3:感度と平均寿命の関係の解析」
( i )感度の算出プログラムの作成
突然変異や環境の変化に起因する生活史パラメーターの変化によって、どの程度個体群成長率が変化するかを算定する.Caswell(1978)によって求められた感度行列の公式を用いて、各生育段階の滞留率、推移率、繁殖率の感度を求めるプログラムを開発する.
( i i )各生育段階の滞留率、推移率、繁殖率の感度の算出
解析準備によって得られた行列群および作成された計算プログラムを用いて、そのそれぞれの行列より、各生育段階の滞留率、推移率、繁殖率の感度を求める.
( i i i )平均余命と各生育段階の滞留率、推移率、繁殖率の感度の関係
平均寿命の長い植物種において、どの生活史パラメーターが高い感度をもつ傾向にあるかを明らかにする.

5.「解析4:つる植物・多年生草本・木本における個体の流れ行列の比較」
( i )個体の流れ行列の算出プログラムの作成
個体の流れ行列を求めるプログラムを開発する.
( i i )個体の流れ行列の算出およびつる植物・多年生草本・木本間の比較生育段階数を同一にしたつる植物・多年生草本・木本の生活史行列を用いて、個体の流れ行列を算出し、それぞれの間で比較を行う.

6.「解析5:解析1~4の解析結果とランダム行列の場合の解析結果との比較」
( i ) ランダム行列の作成
生育段階間の推移については、0 から1 の間の値をもつランダム行列を、繁殖率分布にはポアソン分布を用いて、仮想の生物のランダム生活史行列を5 0 0 0 個用意する.
(ii)ランダム行列を用いた解析1~4
すでに解析1~4で開発されたプログラムを、ランダム生活史行列に応用し、弾性度ベクトル、個体群成長率分布、平均寿命分布、個体群成長率と平均寿命の相関、感度と平均寿命の関係、個体の流れ行列の算出を行い、解析1~4の結果との比較により、植物に固有な傾向を明らかにする.

今年度の研究概要

【解析1:個体群成長率と平均寿命の関係の解析】
(i)この数値計算において単一のプログラムで結果が求められるようにする.そのため、個体群成長率および平均寿命を同時に求めることが可能なプログラムを開発する.(ii)それぞれの行列より、個体群成長率を求める.また、実生の生育段階の平均余命を求め、平均寿命の指標とする.(iii) 繁殖と生存のそれぞれにはコストがかかり、繁殖率の高い生物種の生存率は低いというトレードオフが存在すると考えられているため、個体群成長率と平均寿命の間には負の相関が生じていると予想される.
【解析2:個体の流れ行列の作成とその可視化】
(i)まず、各植物種の個体の流れ行列を算出する.(ii)個体の流れ行列の要素の総計が個体群増加率になる性質を利用して、三角錐体上に、各植物種の個体の流れベクトルをプロットする。

外部との連携

本研究課題は、北海道大学大学院環境科学院の高田壮則教授が研究代表者である、科学研究費補助金基盤研究(B)「生活史行列ビッグデータを用いた植物個体群の比較統計解析」の一環として行われる。

課題代表者

横溝 裕行

  • 環境リスク・健康領域
    リスク管理戦略研究室
  • 主幹研究員
  • 博士 (理学)
  • 生物学
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