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金属素材の持続可能な循環利用システムの構築(平成 28年度)
Recycling systems of metals towards sustainable use

予算区分
CD 文科-科研費
研究課題コード
1517CD005
開始/終了年度
2015~2017年
キーワード(日本語)
合金成分,不純物,リサイクル,鉄スクラップ
キーワード(英語)
Alloying element, Impurity, Recycle, Iron and steel scrap

研究概要

金属素材は、再溶解によりリサイクルできる循環利用性に優れた素材である。一方で、金属素材の社会中での使用量(ストック量)は、先進国において1 人当たりストック量の飽和が観測されている。将来的には、蓄積された金属素材を何度も循環して利用することが考えられる。しかし、使用済み製品からの金属スクラップ回収時には、他素材の混入が不可避であり、それらが不純物として金属相中に残り、必要とする機能を発現できる素材にリサイクルするのが困難になることがある。さらに、必要な機能を発現させるために、添加された合金成分が、リサイクルにより機能の発現には寄与せず散逸的に不必要な合金成分となることもある。本研究では、将来の持続可能な金属素材の循環利用に向けて、合金成分も考慮した金属素材の循環利用システムの構築を目的とする。

研究の性格

  • 主たるもの:基礎科学研究
  • 従たるもの:

全体計画

鉄鋼材のフローに伴った合金成分の動的SFA、スクラップ中の合金成分の濃度分布も含めた分析、スクラップ回収・リサイクルのモデル化により、現行における意図的添加の合金成分の散逸挙動や不可避的不純物成分の混入挙動ならびにそれらの量を明らかにする。他方、鋼材ストック量が飽和し、蓄積された鋼材を何度も循環利用する将来的に想定される循環利用システムをモデル化する。把握した現状に基づいて、リサイクルにおける意図的添加元素ならびにトランプエレメントの挙動サブモデルを構築し、製鋼時の各成分の分配挙動を勘案し、循環利用システムにおける成分濃度の分布をモデル化する。モデルを用いて、天然資源の新規投入量最小化やシステムの安定性等を目的関数とし、循環利用システムを最適化する。研究計画は、1 現状の把握、2 サブモデルの構築、3 システムにおける最適化の大きく3 つの部分から構成される。

【H.27 年度】
1−1 合金元素の動的SFA
鉄鋼材に随伴して利用される各元素の動的SFA を実施する。本研究では、鉄鋼材の随伴フローとしてのSFA ならびにその散逸に関する挙動を詳細に分析するとともに、各フロー間の整合性研究費6)の担保と評価年の更新を実施する必要がある。具体的には、散逸フローのプロセスを明確にし、起因するプロセスごとに、散逸量や割合を、各元素間で整合を取りながら定量する。

1−2 スクラップ中の合金成分の濃度分布も含めた分析
不純物許容濃度の高い鋼材である鉄筋棒鋼を中心に、試料を採取する。その際、国により不純物濃度やその分布が異なることがわかっており1-3,業績5)、採取国の生産やリサイクル状況ならびに入手可能性の観点から、日本、越国、露国、モンゴル、スーダン、中国、米国、独国、英国を予定する。サンプリングは、先進国においては、試料やミルシートの提供を想定し、それ以外の国においては、現地協力者による採取、日本への送付の後に分析する。

1−3 スクラップ回収・リサイクルのモデル化
使用済み製品からスクラップ回収までをモデル化する。モデル化においては、製品の素材構成、法制度、資源価格、輸送費、人件費等を定量的に考慮する。そのために、従来の知見である実際のフローの推計値を時系列で分析し、各パラメータとの関係性を明らかにする。また、多くの知見が国単位での総量としてのマクロ的挙動であるため、各パラメータとの関係性を確認するために、操業現場でのデータ(各素材単体分離率の操業実績、スクラップ購買契約個票等)を解体事業者、スクラップディーラ、製鋼事業者から提供を受け、ミクロ的挙動を分析し、使用済み製品からスクラップ回収までの不純物まで含めたフローをモデル化する

2−2 合金成分の分配挙動
不純物の混入を含めて天然 資源とは異なる組成や特徴を有するスクラップ等の二次資源のリサイクルを考える上で、製錬・再溶解等のリサイクルプロセスにおける操業条件下(温度・雰囲気など)におけるこれらの情報は有益な情報となる。そこで、二次資源等を対象として、合金成分の製鋼工程での
挙動ならびに、操業条件と分配挙動との関係性について明らかにする。

3−1 将来の鉄鋼材循環利用システム
持続可能な金属資源利用システムに向けた最適化の目的関数や制約となる条件を検討し、設定する。本研究課題では、現状を評価するのではなく、先述のように、素材蓄積量が飽和することが経験的に分かっていることから、その時点までで蓄積されてきた社会中の金属素材を持続的に循環利用する将来的な金属利用システムを評価対象とする

【H.28 年度〜】
1−1 合金成分のSFACo, Sn, Au, Ag, Pd について、他の合金元素と同じ形式に従って動的SFA を実施する。また、ダストやスラグといった併産物に含まれるフローについても考慮する。

1−2 スクラップ中の合金成分の濃度分布も含めた分析
試料の採取国を拡充(タイ、韓国、インドネシア、エチオピア、メキシコ)し、現地での試料の採取ならびに分析を引き続き実施する。また、確立された手法により微量元素分析を実施する。

2−1 意図的添加の合金成分ならびにトランプエレメントの挙動サブモデル
国や時期によりリサイクルシステムが異なること業績が先述のモデルによりパラメトリックに理解されるものの、全てのパラメータは決定できず、実際の元素フローが動的SFA により明らかになるものの散逸フローには不確実性が残る。各国で採取した試料の合金成分分析値から、SFA,リサイクルモデル, 分配挙動と統合することで、合金成分の混入経路が明らかになり、それらの挙動がパラメトリックに理解され、サブモデルが構築できる

3−1 持続可能な循環利用システム
定常状態の評価では時間の次元は考慮されていないが、実際には時間に応じて必要となる蓄積量や価格が変動することが考えられる。変動に対して不安定なシステムは持続可能ではないことを考えれば、時間に応じた変動についても考慮した評価であることが望まれる。また、価格の変動に対するシステムにおける影響は、先述のようにサブモデルの中でパラメトリックに考慮されている。時間軸を包含し、システムの安定性も考慮した発展的評価手法を構築する。サプライチェーンのレジリエンスに関する研究分野4)において発展してきている手法を参考に、サプライチェーンにはない循環利用による影響も考慮し、評価対象システムの設定方法ならびに評価手法を開発する。

3−2 循環利用システムの最適化【醍醐・中島・山末・布施・横尾】
定常的循環利用に対する最適化では、老廃スクラップの配合や、老廃スクラップに混入する不純物量、生産鋼材の不純物許容濃度などのパラメータは、目的関数となる新規投入される天然資源量に対して線形の関係にあるため、線形問題として最適化できる。ただ、先述のように合金成分値を社会全体での平均値で議論せずに濃度分布を持つことを想定するならば、線形問題に変換することはできるものの、生産時の規格値外れヒート率を設定する等の工夫が必要になる。さらには、製品使用年数、鉄鋼材の用途シェアなどのパラメータは、目的関数に対して非線形であるため、数理的に変換をしても線形化できないことが考えられ、その場合は全域的最適値を保証するために探索的最適化手法を適用する。

今年度の研究概要

1-1 データ制約から日本における分析を先行してきた合金成分のSFA では、日本以外の国における分析を進める。また、SFA対象元素の拡充(データ整備)においては、組成分析から得られた結果から各国の違いを説明する可能性の高い元素について、優先的に実施する。
1-2 スクラップ中の合金成分の濃度分布も含めた分析では、試料の採取国を拡充(中国、英国、米国、豪州)し、現地での試料の採取ならびに分析を引き続き実施する。また、従来の分析技術では検出できない極微量元素分析手法を確立し、実施する。
2-1 意図的添加の合金成分ならびにトランプエレメントの挙動サブモデルでは、経済の発展とともにリサイクルシステムが異なることをパラメトリックに理解することと、同じ先進国間、途上国間であってもリサイクルシステムが異なることをパラメトリックに理解することの2つを実施する。
3-1 持続可能な循環利用システムでは、時間に応じた変動に対しても安定的であることが望まれる。1つの変動要因である価格の変動に対するシステムにおける影響も、サブモデルの中でパラメトリックに考慮することで、時間軸を包含し、システムの安定性も考慮した発展的評価手法を構築する。
3-2 循環利用システムの最適化では、定常的循環利用に対する最適化では、老廃スクラップの配合や、老廃スクラップに混入する不純物量、生産鋼材の不純物許容濃度などのパラメータは、目的関数となる新規投入される天然資源量に対して線形の関係にあるため、線形問題として最適化できる。合金成分値を社会全体での平均値で議論せずに濃度分布を持つことを想定するならば、生産時の規格値外れヒート率を設定する等の工夫により、線形問題に変換した最適化モデルを構築する。

外部との連携

【研究代表者】 醍醐市朗(東京大学、准教授)
【研究分担者】 林 英男(都立産技研、主任研究員)、畑山 博樹(産総研、研究員)、葛原 俊介(仙台高専、准教授)、山末 英嗣(立命館大学、准教授)

備考

当課題は、循環型社会研究プログラムにおける重点プロジェクト1および重点プロジェクト2にも関連

課題代表者

中島 謙一

  • 資源循環領域
    国際資源持続性研究室
  • 主幹研究員
  • 博士(工学)
  • 工学,材料工学
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