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海洋島に生息する絶滅危惧鳥類が示す広範囲な移動の進化的背景とパターンの解明(平成 28年度)
Evolutionally back ground and pattern of wide-ranging movement of an endangered bird in an oceanic island

予算区分
CD 文科-科研費
研究課題コード
1618CD019
開始/終了年度
2016~2018年
キーワード(日本語)
海洋島,カラスバト,移動能力
キーワード(英語)
Oceanic island, Japanese wood pigeon, movement capacity

研究概要

 海洋島では鳥類の移動能力が低下することが知られており、これに関する研究は数多く行われてきた。一方、海洋島において移動性を維持している鳥類については注目されておらず、その生態を考慮した保全もほとんど行われていない。
 本研究は、小笠原諸島に生息する絶滅危惧種アカガシラカラスバトColumba janthina nitensを対象とする。分子生物学的手法を用いたこれまでの研究から、アカガシラカラスバトが、複数の島を含む広範囲な移動をすることが示唆された。アカガシラカラスバトの広範囲な移動が、小笠原諸島の特異的な環境に対する適応であるならば、海洋島における鳥類の進化過程を理解する上で重要な知見であり、主に島を単位として行われてきた保全方針の転換を迫るものである。アカガシラカラスバトの移動パターンは、島ごとの食物資源と密接に関わっていると考えられるが、本亜種が食物資源の分布にどのように応答して移動するのかはわかっていない。本研究では、遺伝構造解析により、アカガシラカラスバトの移動能力が小笠原諸島の特殊な環境に適応して進化したのかを明らかにし、自動撮影カメラとGPSロガーを用いた追跡により、本亜種の移動パターンとその決定要因を明らかにする。

研究の性格

  • 主たるもの:基礎科学研究
  • 従たるもの:応用科学研究

全体計画

平成28年度は、野外調査については調査地の選定と予備実験に重点を置く。羽毛サンプルを用いて、MIG-seq法によりゲノム情報の集約解読を行い、得られたデータから遺伝構造解析を行う。得られた結果を形態計測の結果と総合し、アカガシラカラスバトの移動能力の進化的背景について考察する。平成29年度は、自動撮影カメラを用いたモニタリングと、GPSによるトラッキングを実施する。平成30年度は、データの補完とアカガシラカラスバトの出現頻度を決定する要因を推定するための解析を行う。得られた結果を総合し、アカガシラカラスバトの移動パターンと採食場所選択、並びに移動を考慮した生息地の保全策について考察する。

今年度の研究概要

 小笠原諸島の父島、母島、北硫黄島、伊豆諸島の大島、利島、新島、三宅島、八丈島、青ヶ島の各島からそれぞれ約30の羽毛もしくは組織サンプルを採取する。小笠原諸島のアカガシラカラスバトについては、研究協力者であるNPO法人小笠原自然文化研究所が脱落毛を継続的に採取しているので、試料の提供を受ける。伊豆諸島のカラスバトについては、申請者が一部のサンプルを採取済である。不足分については、カラスバトの換羽期と考えられる6月と10月に伊豆諸島各島を踏査し、脱落毛を採取、もしくは山階鳥類研究所や国立科学博物館等からサンプルの提供を受けるなどして収集する。
 採取したサンプルからDNAを抽出し、MIG-seq (Mul1plexed ISSR Genotyping by sequencing: Suyama & Matsuki submitted) を用いてサンプルの遺伝子型を決定する。MIG-seqはISSR領域の塩基配列をゲノムワイドで解読しSNPを検出する方法で、羽毛から抽出した少量のDNAからも大量の塩基配列データが得られるため、SSRマーカーを用いた従来の方法よりも詳細な遺伝構造解析を行うことが可能である。遺伝子型の決定は、研究協力者である陶山佳久准教授 (東北大) の研究室で行う。得られた遺伝子型データについて、ベイズ法を用いた個体レベルのクラスタリング (STRUCTURE: Pritchard et al. 2000 Genetics) とコアレセント理論に基づく島間の移住率推定 (Migrate: Beeril 1999 Genetics) を行い、小笠原諸島の方が伊豆諸島よりも島間の遺伝的差異が少なく、移動頻度が高いか否かを評価する。
 森林総合研究所、山階鳥類研究所並びに国立科学博物館に所蔵されているアカガシラカラスバト及び伊豆諸島由来のカラスバトの標本約50体ずつを用いて形態計測を行う。各標本について、自然翼長、翼差、ふ蹠長、尾長、全嘴峰長、露出嘴峰長を計測し、最長初列風切を記録する。得られた計測値について、主成分分析を行うことで亜種間の差異を説明する形態を特定し、アカガシラカラスバトの方がカラスバトよりも移動能力の高い形態的特徴を持つか否かを評価する。
 動物園で飼育されているドバトを用いて、GPSロガーの装着試験を行い、安全性を考慮した装着方法の最適化を行うと同時に、記録位置と実際位置の誤差を評価する。

 

課題代表者

安藤 温子

  • 生物多様性領域
    生態系機能評価研究室
  • 主任研究員
  • 博士 (農学)
  • 生物学,農学,林学
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