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低炭素研究プログラム(平成 30年度)
Low-carbon research program

研究課題コード
1620SP010
開始/終了年度
2016~2020年
キーワード(日本語)
低炭素社会,温室効果ガス,気候変動リスク,気候変動緩和,気候変動適応
キーワード(英語)
low-carbon society,greenhouse gases,climate change risks,climate change mitigation,climate change adaptation

研究概要

「環境研究・環境技術開発の推進戦略について」(平成27年8月20日中央環境審議会答申)に基づき、低炭素で気候変動に柔軟に対応する持続可能なシナリオづくり、気候変動の緩和・適応策に係る研究・技術開発、及び地球温暖化現象の解明・予測・対策評価に取り組む。

 本研究プログラムでは、以下の3つの課題に取り組む。
(1) マルチスケールの観測体制の展開による温室効果ガス等の排出・動態・収支及び温暖化影響の現状把握と変動要因の理解の深化。
(2) 全球規模の気候予測モデル、影響予測モデル、対策評価モデルをより密接に結びつけた包括的なモデル研究体制の構築と気候変動リスクの総合的なシナリオ描出。
(3) 低炭素社会の実現に向けた道筋提示のための世界を対象とした統合評価モデルの詳細化・検証とそれを用いた政策評価及び国際制度のデザイン。

 (1)については、マルチスケールの温室効果ガス濃度監視体制を国際的に展開し、気候変動影響を考慮した自然界でのフラックス変動応答の観測やそのモデル評価、人為発生源の緩和対策評価体制づくりなどを行う。具体的には、2年程度をかけて、これまで開発してきたアジア太平洋を中心とした広域観測点や測線、地域、また国際的な共同観測活動などを、国環研内の関連する研究活動とも連携しながらネットワークとしてまとめていく。同時に温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT、GOSAT2)事業とともに開発してきた大気モデル、プロセスモデル等を用いてフラックス推定の高分解能化を行い、フラックス変動の大きな地域などを抽出、検出できるようにする。3年目には、気候変動影響や人為的なフラックス変動解析を全球規模で実施できる体制と、都市域、工業地域などのスケールに焦点を当てた解析を重点的に行える体制を構築し、5年目までに、構築された観測体制における温暖化緩和・適応策実施の効果検証や温暖化影響検出に係る精度評価を行うとともに、自然科学的側面からの低炭素社会の実現に向けた提言をより信頼度高く行うための観測解析体制全体における将来に向けた課題を検討する。
 これらを通じて、今後20年程度のうちに温室効果ガス排出削減効果を含む温室効果ガス等の排出・動態・収支の情報や温暖化影響の状況を統合化し、それらの科学観測的情報を緩和・適応策へフィードバックすることで、低炭素社会構築を後押しするための自然科学的側面からの支援に貢献する。

 (2)については、全球規模の気候予測モデル(地球システムモデル)、人間活動を含む陸域諸過程の影響予測モデル(土地利用、水資源、生態系等の統合モデル)、社会経済シナリオの描出と対策評価のモデル(統合評価モデル)をより密接に結びつけた包括的なモデル研究体制を構築し、自然システムと人間・社会システムの間の相互連関・整合性に留意した、対策の波及効果も含む気候変動リスクの総合的なシナリオを描出する。具体的には、3年程度で気候予測モデル、影響評価モデル、対策評価モデル間のモデル結合もしくは統合的な利用を検討、実施し、気候予測、影響、社会経済シナリオと対策実施の効果をそれぞれ他のモデルにフィードバックできる包括的なモデル研究体制を構築するし、5年を目途に、これを用いて気候変動対策の波及効果も含む全球規模の気候変動リスクの総合的なシナリオを描出する。
 これらを通じて、社会の様々な主体との対話を促進することにより、パリ協定で合意された2℃目標(及び努力目標としての1.5℃)の必要性と実現可能性に関する議論に資する。また、気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change。以下「IPCC」という。)の第6次評価報告書に向けた第6期結合モデル相互比較プロジェクト等の国際モデル相互比較及び国際的に組織化された総合的なシナリオ研究に貢献するとともに、2018年の出版が検討されている1.5℃目標に関するIPCC特別報告書に対して初期的な成果に基づき貢献することを目指す。

 (3)については、世界を対象とした統合評価モデルの詳細化や分析結果の評価を通じた統合評価モデルの検証を進め、それを用いて2℃目標(及び努力目標としての1.5℃)の達成に向けた温室効果ガス排出削減経路や対策のロードマップの分析及び政策分析を行うとともに、国内外の統合評価モデルコミュニティ等と連携し、開発したモデルとの相互モデル比較や政策評価結果の比較を実施する。また、モデル分析結果から得られた目標達成に向けて必要とされる政策・対策が実現するような国際制度を設計し、様々なステークホルダーに対してモデル評価の成果も含めた知見や情報を提供する。具体的には、3年程度で世界モデルの詳細化を進め、国内外の統合評価モデルコミュニティ等と連携したモデル相互比較や政策評価を行うとともに、国際制度の設計については、2020年を目標としているカンクンプロセスにおける排出削減量深堀のための方法を検討するとともに、パリ協定で規定されている2023年の第1回グローバルストックテーキングの結果で削減目標が不十分と判断された場合における追加的な手続きを提案する。また、5年を目途に、低炭素研究プログラム全体の成果も踏まえつつ、より頑健な政策ロードマップを定量的、定性的に明らかにするとともに、国際制度については、合意が可能で、さらに長期的に野心的な目標設定のための制度構築を行う。
 これらを通じて、低炭素社会の実現を目指した社会実装の支援に貢献する。

 これらの取組により、既に共有されている長期ビジョンである気温上昇2℃目標について、その実現に向けた温室効果ガス排出経路を科学的な方法を用いて定量化し、低炭素社会の実現に向けた実装に貢献するとともに、長期的な温室効果ガスの排出削減に向けた世界の緩和・適応策などの気候変動に関する政策決定に必要な知見の提供に寄与する。

研究の性格

  • 主たるもの:応用科学研究
  • 従たるもの:政策研究

全体計画

 (1)については、2017年度中に観測点のネットワーク化、フラックス推定の高精度化を進め、2018年度末までにフラックス推定の詳細解析を行い、2020年度末までに緩和策・適応策の効果推定に取り組む。
 (2)については、2018年度末までに気候予測モデル・影響評価モデル・対策評価モデルを結び付けた包括的モデル研究体制を構築し、2020年度末までに全球規模の気候変動リスクの総合的なシナリオを描出する。
 (3)については、2018年度末までに世界モデルの詳細化と政策評価を推進するとともに、排出削減量深掘りのための国際制度の検討を進め、2020年度末までに政策ロードマップの分析および新たな国際制度提案の構築を行う。

今年度の研究概要

 (1)については、二酸化炭素、メタン及び亜酸化窒素の観測に加え、オゾン、CO等の短寿命の気候関連物質の濃度観測やフラックス観測、気候変動影響観測などを継続する。アジア太平洋を中心とした観測ネットワークの構築を継続して行うため、これまで開発してきた国内外の地上観測や船舶観測、航空機観測、温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT)による観測、ジャカルタ、東京などの大都市での観測、またマレーシアでの国際的な共同観測活動などを進展させる。それら観測データと大気モデルを使ったトップダウン法による発生量推定の精度向上を行うと共に、プロセスモデル等を適用したボトムアップ法による発生吸収量推定手法を充実させることで、全球から地域までのマルチスケールでのGHG緩和策評価手法を発展させる。特に、東南アジアでは土地利用変化の進行がGHG収支に与える影響の評価を継続する。さらに、緩和策評価の基礎となる排出インベントリの比較分析を行い、化学的トレーサーを含む観測データ、モデル推定と併せて人為起源排出量の変化傾向とその不確実性を定量的に評価する。

 (2)については、IPCC第6次評価報告書へ貢献するために気候モデルを用いた数値シミュレーションの実施と解析を進め、過去の気候変化の要因を推定するための発展的な数値シミュレーションに着手するとともに、新規および既存のシミュレーション結果の解析を通じて気候感度の不確実性の低減に向けた方策を検討する。また、気候安定化目標達成のためのネガティブエミッション実現と生態系サービス向上のシナジーに注目した対策の可能性を検討するため、気候変動と土地利用の相互作用を考慮して持続可能性を総合的に評価する研究に着手するとともに、陸域統合モデルと地球システムモデルとの結合に取り組む。さらに、影響予測モデルと対策評価モデル(統合評価モデル)の統合利用、最新の社会経済シナリオ(共通社会経済経路とその派生シナリオ)の応用を通じて、気候変動影響・適応策と緩和策の相互作用の評価を引き続き進めるとともに、全球排出経路モデルの高度化をふまえた政策分析を実施する。

 (3)については、産業革命前からの平均気温上昇を2℃未満に抑える2℃目標に加え、1.5℃目標の排出経路の探索、2℃目標と1.5℃目標の経済影響の差異、革新的技術の潜在導入量や社会経済シナリオの差異による1.5℃目標の結果の比較などについて、世界モデルを用いて分析、評価を行う。また、国際モデル比較研究の結果や最新のインベントリ情報を踏まえ、長寿命温室効果ガスと短寿命気候汚染物質の同時対策の評価の改良・拡充を引き続き行う。国際制度の設計の研究では、2018年12月のCOP24で実施される進捗確認のための対話や、パリ協定の下、2020年以降定期的に実施されるグローバルストックテーキングにおける、有用性の高い実施手続き手法を提案し、緩和策評価分析を行う。

課題代表者

江守 正多

  • 地球システム領域
  • 上級主席研究員
  • 博士(学術)
  • 理学 ,地学
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担当者