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2015年7月21日

熱帯・亜熱帯沿岸生態系データベース(TroCEP)の公開について

(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ同時配付)

平成27年7月21日(火)

国立研究開発法人国立環境研究所
 生物・生態系環境研究センター
  主任研究員:井上智美

 国立環境研究所と特定非営利活動法人国際マングローブ生態系協会(ISME)は、世界のマングローブの分布図およびマングローブの構成植物種リストを『熱帯・亜熱帯沿岸生態系データベース: Tropical Coastal Ecosystems Portal (TroCEP)』URL:http://www.nies.go.jp/TroCEP/index.htmlとして公開します。ダウンロードも可能です。
 TroCEPは、熱帯・亜熱帯沿岸生態系の基礎情報を集約して公開することで、本生態系への理解を深め、その保全の推進を目指すものです。世界のマングローブ植物の分布に関する情報を、学術論文・本・報告書・現地調査等様々な情報源をもとに整備し、一括して公開するのは世界でもほとんど例のない取り組みです。今後はサンゴ礁、藻場、干潟などの分布情報についても整備を進めて行く予定です。

1.熱帯・亜熱帯沿岸生態系について

 マングローブ、干潟、海草藻場、サンゴ礁などで構成される熱帯・亜熱帯沿岸生態系は、多種多様な生物が生息・分布する豊かな生態系です。しかし、ここ数十年の間に、開発等に伴う土地利用変化によって世界の沿岸生態系は大きな変貌を遂げました。マングローブにおいては現存量の1-2%が毎年消失しているとされています(文献1)。熱帯・亜熱帯沿岸生態系の現状と変化を正確に把握するためには、生態系・生物の分布などの基礎情報を収集・整備することが急務です。

 

2.Tropical Coastal Ecosystems Portal (TroCEP:トロセップ)の整備・公開について

 TroCEPは、これまで別々に取り組まれることの多かったマングローブ、藻場、干潟、サンゴ礁、といった生態系を一連の熱帯・亜熱帯沿岸生態系としてとらえ、それらの分布情報や生物・生態系に関する科学的な知見など、様々な基礎情報を集約して公開することで、熱帯・亜熱帯沿岸生態系への理解推進を目指すものです。

3.今回公開するデータについて

 今回公開を行うものは、マングローブのある世界123カ国・領土の内、111カ国・領土のマングローブ分布図と、国・領土別のマングローブ植物種リストです。

3.1マングローブ分布図

 マングローブの分布域は、年々減少していることもあり正確には把握されていませんが、World Atlas of Mangroves(文献2)では123の国・領土にまたがり、その面積は約152,360 km2とされています。TroCEPでは、世界のマングローブ分布域を地図上で示し閲覧できるようにしました。
 分布図の元になっているデータは、ISMEと様々な国際機関(ITTO注1, FAO注2, UNEP-WCMC注3, UNESCO-MAB注4, UNU-INWEH注5, TNC注6)が2005年~2010年に国・領土ごとにGIS(地理情報システム)で整備したものです。分布図の約半分は、衛星画像をもとに作成され、残りは様々な機関や専門家から提供されたデータをもとに作成されています。これらのデータを、国立環境研究所とISMEが2012年~2015年にかけてGISデータ形式で全球統一作業を行い、さらに海岸線をスペースシャトルのミッションで作成・公開されている地形データSRTM-3から作成した全球統一海岸線に合わせて更新しました。

図1.マングローブ分布図の配置。緑の枠で囲った範囲の詳細分布図を掲載している。
図2
図2. (例)ボルネオ島のマングローブ分布図。緑色の部分がマングローブ分布域を示す。

3.2マングローブ植物種リスト

 マングローブを構成する植物は、木本植物からシダ植物まで多岐にわたります。TroCEPでは、World Atlas of Mangroves(文献2)で整理されている74種の植物について、世界中の学術論文、報告書、本、ウェブサイト、現地調査結果等をもとに、植物種ごとの分布地点情報を整理し、情報源の情報と共に掲載しています。更なる情報を収集整備中で、今後は定期的に更新していく予定です。このシステムにより「いつ、どこで、どの種が存在していたか」過去から将来にわたって情報を得ることが可能です。

図3. 樹種ごとの分布地点リストのトップ画面。上部に属、下部に種の一覧があり、クリックすることで分布地点リストに移動することができる。
図4.(例)オヒルギ(Bruguiera gymnorhiza)の分布地点リストの一部。国・領土より詳細な地点情報がある場合はlocality列に記入している。また、右列には、情報源の情報を記載している。

4.データベースURL

Tropical Coastal Ecosystems Portal
URL: http://www.nies.go.jp/TroCEP/index.html
(言語:英語)

5.プロジェクトメンバー

国立研究開発法人 国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター 
 主任研究員   井上智美
 センター長   山野博哉
 高度技能専門員 勝又聖乃
 高度技能専門員 戸津久美子
 高度技能専門員 林文
 高度技能専門員 松崎紗代子
特定非営利活動法人 国際マングローブ生態系協会
 理事長     馬場繁幸
 理事      Hung Tuck CHAN
 事務局長補佐  大城のぞみ
 主任研究員   貝沼真美
 研究員     毛塚みお

※国立環境研究所と国際マングローブ生態系協会は、マングローブ生態系に関する研究を推進するための連携・協力に関する基本協定書を2013年に締結し、TroCEPプロジェクトを中心に連携を行っています。


6.問い合わせ先

国立研究開発法人国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター
井上 智美
電話:029-850-2655
E-mail: tomomi.inoue (末尾に@nies.go.jpをつけてください)

7.参考文献

1.FAO. 2007. The World’s Mangroves 1980-2005: A Thematic Study Prepared in the Framework of the Global Forest Resources Assessment 2005, FAO Forestry Paper 153, Rome.

2.Spalding M, Kainuma M, Colins L. 2010. World Atlas of angroves. ITTO, ISME, FAO,UNESCO-MAB, UNEP-WCMC and TNC, Earthscan, UK, USA.

※World Atlas of Mangrovesは、世界のマングローブ生態系分布を集大成した図版集です。フルカラーでマングローブ林に生息する多様な動植物の写真や描画と共に、マングローブ生態系の分布情報、マングローブ生態系の利用や減少の原因等についても詳述されています。英語版のほかに、フランス語版、スペイン語版が出版されています。

8.用語

1.ITTO: The International Tropical Timber Organization(国際熱帯木材機関)

2.FAO: Food and Agriculture Organization of the United Nations(国際連合食糧農業機関)

3.UNEP-WCMC: United Nations Environment Programme-World Conservation Monitoring Centre(国際連合環境計画-世界保全モニタリングセンター)

4.UNESCO-MAB: United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization-Man and the Biosphere Programme (国際連合教育科学文化機関-人間と生物圏計画)

5.UNU-INWEH: United Nations University-Institute for Water, Environment and Health(国連大学水・環境・保健研究所)

6.TNC: The Nature Conservancy(ザ・ネイチャー・コンサーバンシィ)

9.熱帯・亜熱帯沿岸生態系の生態系の例

写真1. ミクロネシア連邦ポンペイ島 マングローブ(奥)とサンゴ(手前)
写真2.沖縄県西表島 マングローブ(ヤエヤマヒルギ)の森

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