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2017年8月28日

福島県避難指示区域内および周辺の鳥類出現分布データの公開について

(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ、福島県県政記者クラブ同時配付)

平成29年8月28日(月)
国立研究開発法人 国立環境研究所
生物・生態系環境研究センター
   主任研究員    深澤圭太
  准特別研究員    三島啓雄
 高度技能専門員    熊田那央
 高度技能専門員   戸津久美子
福島支部
     研究員    吉岡明良
 

 国立研究開発法人国立環境研究所(以下、国立環境研究所という。)では、原発事故後の環境変化に伴う避難指示区域内外の鳥類のモニタリングを2014年より実施しています。鳥類は種ごとに異なる鳴き声を発するため、音声を録音することで種ごとの出現頻度を知ることができます。そこで、避難指示区域内とその周辺の52地点に録音機を設置し、録音された鳴き声を判別して出現した鳥類の種類を記録しています。原発事故は社会の関心が非常に高く、社会に開かれた「オープンサイエンス」の観点から、本研究では、一般の野鳥愛好家の方々にも参加いただくイベント「バードデータチャレンジ」を通じて一部のデータを得るとともに、得られたデータ自体を「データペーパー*1」という形態で公開しました。
 公開したデータから計算した種ごとの発見されやすさの分布は、Webサイト「KIKI-TORI MAP」(URL: http://www.nies.go.jp/kikitori/contents/map/)にて地図上でご覧いただくことが可能です。今回公開したデータは2014年度のもので、引き続きモニタリングを継続して新たに得られたデータを追加・更新していく予定です。今後、避難指示解除前後の鳥類相の変化についてのデータを蓄積することで、人間活動の急速な変化が生態系に与える影響を検証できると考えられます。

*1 研究データ自体を学術論文とする出版形態。第三者の研究者による審査を受けて受理された後、データがオンライン上で一般に公開されます。

1.背景

 東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故により、福島県東部の一部の地域では避難指示区域(帰還困難区域、居住制限区域、避難指示解除準備区域)が設定され、耕作等の人為的な営みが停止しました。その後、居住制限区域、避難指示解除準備区域の大半においては、除染などの生活環境の整備が行われ、避難指示が解除されましたが、耕作放棄や除染活動などによる急速な環境変化は生態系を大きく変化させる可能性があります。この地域は農地や森林を主体とする景観を有し、人と自然が共生してきた歴史を持つため、環境変化に対して生態系がどのように変化していくかを把握しておく必要があります。
 鳥類は異なる餌資源や生息環境を利用する多様な種からなり、環境変化の影響を検出しやすいことや、バードウォッチングや環境教育の題材などを通して人とのかかわりも深いことから、生態系の変化を把握するための指標種として適していると考えられます。そこで、国立環境研究所では2014年より避難指示区域内とその周辺で鳴き声の録音による鳥類の定点調査を実施しています。調査により録音された音声に含まれる鳥の鳴き声を聞き分けて、種ごとの出現頻度を記録しています。
 近年、研究活動やその成果を多くの人々にとってより開かれたものにしていく活動である「オープンサイエンス」の重要性が認識されています。それを構成する要素には、一般に公開されたデータ「オープンデータ」や研究活動における市民参加「シチズンサイエンス」などがあります。原発事故に関連する研究は社会の関心が高いため、オープンサイエンスを推進することの重要性が特に高いと考えています。そこでこのたび、モニタリングで得られた鳥類の出現分布データをデータペーパーとして出版してオープンデータとしました。なお、データの一部は一般の鳥類愛好家の方々のご協力のもとで音声種判別を行うシチズンサイエンスの取り組み「バードデータチャレンジ」を通して整備されました。現時点では2014年度のデータを公開しておりますが、現在も調査は継続しているため、今後新たに得られたデータを追加して更新していきます。

2.方法

 鳥類の録音調査を避難指示区域内およびその周辺の公共用地(小中学校や公民館など)の屋外52地点にて、各市町村の許可を得て行いました(図1)。各調査地点には2014年5月中旬から7月中旬にかけてタイマーによる自動録音が可能なICレコーダーを設置し、鳥類のさえずりが活発な日の出前後の20分間、電池が切れるまで毎日録音しました。
 得られた音声データは1分ごとの「サンプル」に分割し、サンプルに出現した鳥類の種名を記録しました。得られたデータの量は膨大ですべて種判別することは困難であったため、1地点あたり約8日分のデータについて種判別を行いました。
 このうち、一部の音声サンプルは一般の鳥類愛好家の方々にご参加いただいて種判別を行うイベント「バードデータチャレンジ」にて種判別を行いました。このイベントはシチズンサイエンスの一環として、福島県内の日本野鳥の会連携団体と共催で2015年度より毎年実施しているものです。バードデータチャレンジの詳細については、深澤ら(2017)およびWebサイト「野鳥のこえからわかること(http://www.nies.go.jp/kikitori/)」をご覧ください。

3.成果の概要

 2014年度は7,138サンプルの種判別を行い、68種の鳥類が確認されました。公開したデータは、種判別を行った全サンプルの種組成を位置情報、日付と時刻等の情報とともにタブ区切りテキストファイルとして記録したテーブルと、地点ごとの避難指示区域のカテゴリのテーブルからなります。データファイルの構成は下記の通りとなります。

サンプルの種組成 (NIES_FTEM_acousticbird_pa.txt)の図
地点の避難指示カテゴリ(NIES_FTEM_acousticbird_evacuation.txt)の図

なお、データペーパーにおいては、世界の生物多様性情報を共有するための標準的なデータ規格「ダーウィン・コア・アーカイブ」形式のデータも提供しています。
 データサーバーの準備ができ次第、データは下記のWebアドレスからアクセス可能となります。
http://db.cger.nies.go.jp/JaLTER/ER_DataPapers/archives/2017/ERDP-2017-05
なお、データはクリエイティブ・コモンズ*2(CC BY 4.0*3)を付与しており、出典を明記すれば営利目的か否かを問わず、データの加工・再配布・二次利用が可能となります。
 また、データペーパーの受理に先立ち、モニタリングデータを地図上で可視化するWebサイト「KIKI-TORI MAP (http://www.nies.go.jp/kikitori/contents/map/)」も2017年5月より公開しております(図2)。このサイトでは、地点ごとの出現種数や種ごとの出現頻度をご覧いただくことができます。

*2 著作物やデータを公開する作者が、「ある条件のもとでそれを自由に使ってよい」という意思表示をするための条項に関する国際標準。
*3 クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの一種で、出典を明記すれば営利目的か否かを問わず、データの加工・再配布・二次利用が許可されるというもの。

録音調査地点の地図
図1 録音調査地点の地図(■)。赤、橙、黄緑の網掛けはそれぞれ2014年5月時点の帰還困難区域、居住制限区域、および避難指示解除準備区域。
モニタリングデータ可視化Webサイト「KIKI-TORI MAP」のインタフェース
図2 モニタリングデータ可視化Webサイト「KIKI-TORI MAP」のインタフェース (Maptiles by MIERUNE, under CC BY. Data by OpenStreetMap contributors, under ODbL)

4.今後の展望

 データを公開することはデータの二次利用を促進することにつながるとともに、第三者による研究結果の検証を容易にすることが期待できます。今後モニタリングを継続していくことで、避難指示区域とその周辺の急速な自然環境変化に対する鳥類の変化を明らかにすることが可能になると考えられます。そこから得られた知見は地域の復興の中で自然共生社会を実現していくための戦略作りに生かすことができると考えられます。

5.参考情報

 今年度は、10月14日(土)に福島県西白河郡で「バードデータチャレンジ in 白河」を開催します。ご案内は下記Webサイトにございます。
http://www.nies.go.jp/whatsnew/20170714/20170714.html
ご興味ある方はふるってご参加ください。
 国立環境研究所では、今回出版された鳥類のモニタリングデータと同様に、自動撮影カメラによる哺乳類のモニタリングデータについてもデータペーパーとして公開しており(Fukasawa et al. 2016)、下記URLからどなたでもアクセスすることが可能です。
http://db.cger.nies.go.jp/JaLTER/ER_DataPapers/archives/2016/ERDP-2016-03
また、そのデータは、下記URLのWebGISサイト「BioWM
(http://www.nies.go.jp/biowm/contents/fukushima.php?lang=jp)」にて地図上で可視化することが可能です。

発表論文

Fukasawa K, Mishima Y, Yoshioka A, Kumada N, Totsu K (in press) Acoustic monitoring data of avian species inside and outside the evacuation zone of the Fukushima Daiichi power plant accident. Ecological Research.

参考論文

深澤圭太・三島啓雄・熊田那央・竹中明夫・吉岡明良・勝又聖乃・羽賀淳・久保雄広・玉置雅紀 (2017) バードデータチャレンジ:録音音声の種判別における野鳥愛好家・研究者協働の試みとその課題. Bird Research 13:A15-A28.
Fukasawa K, Mishima Y, Yoshioka A, Kumada N, Totsu K, Osawa T (2016) Mammal assemblages recorded by camera traps inside and outside the evacuation zone of the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant accident. Ecological Research 31(4), 493

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