研究成果

カエルの感染症・カエルツボカビの上陸

カエルツボカビとは?

・カエルツボカビ症はカエルツボカビ菌が原因となる両生類特有の新興感染症で、近年、世界中で両生類野生個体群が激減している原因の一つとされます。
・本菌は真菌の一種で1998年に中米で初めて確認された一属一種の新種です。
・遊走子という胞子が水の中で泳いでカエルの皮膚にたどり着き、遊走子嚢(新しい遊走子を形成するつぼ状の器官)を形成して増殖します。増殖の際にカエルの皮膚のケラチンを摂食します。
・カエルツボカビに感染したカエルは皮膚が硬化し、皮膚呼吸が出来なくなったり、体温調整や浸透圧調整ができなくなり、皮膚の生体防御機能も低下して、2次的感染を引き起こすなどして衰弱死します。
・これまでに北米、中米、南米、ヨーロッパ、アフリカ、オーストラリア、ニュージーランドで感染が確認されており、特に中南米やオーストラリアでの被害が著しいとされています。一方、これまで日本を含むアジア地域では感染が報告されていませんでした。
・カエルツボカビの起源はアフリカに生息するアフリカツメガ工ルではないかと考えられています。その理由として、このカエルがカエルツボカビに対して高い抵伉性を有していること、そして古くから実験用に世界中に移送されており、世界中に菌をばらまくことができたと考えられること、があります。



カエルツボカビ疑惑個体検査体制フローチャート PCR検査の概要

カエルツボカビのDNA検査

・2006年12月に麻布大の字根有美博土によって、輸入ペット用力工ルから、このカエルツボカビの感染が日本で初めて確認されました。カエルツボカビの上陸は日本のカエルの絶滅をもたらすのではないかと多くの学者が心配しました。
・そこで、国立環境研究所では、麻布大学と共同で国内のカエルの検査体制を発見後わずか1ヶ月で整えました。ペット用や実験用のカエルを扱う業者や、愛好家、展示施設、地方自治体、そして環境省の協力を得て、日本中の室内で飼育されているカエルや、野外のカエルの感染状況をこの検査体制で調へることができるようになりました。
・麻布大では、実際に病気になった個体を解剖して調べる病理検査を行い、国立環境研究所では生きたカエルから菌の有無を調べるDNA検査を実施しています。
・DNA検査はカエルの皮膚を綿棒でぬぐってやり、その綿棒からDNAを抽出して、PCRという方法によって、カエルツボカビのDNAを増やして感染を確認します。
・これまでに日本全国の室内飼育個体1,000個体以上、野生個体2,000個体以上の検査を実施しています。室内飼育では特に外国から輸入される個体の感染率が高いことが分かりました。また野外のカエルからもわずかですが感染個体が確認されました。
・検査で検出されたカエルツボカビのDNAを詳細に調べた結果、DNAの塩基配列にたくさんの変異があることが判明しました。



カエルツボカビPCR検査画像 カエルツボカビDNAの系統画像 カエルツボカビの分布拡大プロセス・イメージ

カエルツボカビはどこからやってきたのか?

・カエルの種類や生思場所ごとに詳しくカエルツボカビDNAの分布を調べてみると、まず海外から輸入されているカエルからは主にA型という、海外で病原体として猛威を振るっているものと同じものが見つかりました。

・一方、カエルツボカビを世界中にばらまいた主犯格とされるアフリカツメガ工ルからはC型やV型という別のタイプしか見つかりませんでした。
・野外からは様々なタイプのカエルツボカビが見つかりました。特に日本全国に分布する普通種のアマガ工ルや、沖縄のヤンバルの森にしか生息しない固有種のシリケンイモリから、危険なタイプとされるA型のカエルツボカビが発見されました。
・さらに驚くべき結果は、オオサンショウウオという日本固有の希少種からもカエルツボカビが見つかったことです。しかも感染している個体には特に異常は認められず、死亡も確認されませんでした。
・DNAの配列からカエルツボカビのこれまでに見かった系統間の遺伝的関係を見てみると、オオサンショウウオの系統は、他の系統とは異なる独立した系統であることが高い確率で支持されました。
・もっともたくさんの系統を背負っていたのは外来種であるウシガ工ル野生個体でした。
・オオサンショウウオにもカエルツボカビが感染していて、さらに感染個体が元気に生きていることから、このカエルツボカビはかなり古くから日本に生息していたと推測されます。
・また、外来種であるウシガ工ルがカエルツボカビの重要な運び屋である可能性も示されました。
・以上の結果から、カエルツボカビにも高い遺伝的多様性が存在し、その起源や分布拡大ルートについては慎重に調べていく必要があると考えられました。
・いずれにしても、世界中にカエルツボカビを運んだのは、やはり人間だと考えられます。



カエルの未来と人間の未来

・カエルツボカビの感染大の問題は両生類という生物全体の存続に関わる重大事ですが、そこには生物多様性と人間の安全な生活に対する危機が示唆されています。
・カエルツボカビを急速に世界中に蔓延させたのは、経済のグローバリゼーションによる人とものの移送量の急速な増加です。
・恐らくカエルツボカビにも本来の生息場所があり、そこで自然宿主と共生関係のもと、カエルツボカビは平和に暮らしていたと考えられます。
・その共生関係を破壊して、菌を世界中に持ち込んだことで、菌は新しい生息場所を求めて、今まで出会ったことのないカエルに感染して病害を発生させているのです。
・AIDSやSARSなど人間にとって脅威となる新興感染症の原因ウイルスも同様に人間が森林を破壊することで、それらのウイルスの自然宿主である野生動物と人間が接触することにより感染が始まったとされます。
・生物多様性と自然環境の破壊が思わぬ危機をもたらすことをカエルツボカビは示しています。

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