ユーザー別ナビ |
  • 一般の方
  • 研究関係者の方
  • 環境問題に関心のある方

バイオ・エコエンジニアリングの研究をめぐって

 バイオエンジニアリングとエコエンジニアリングは,それぞれ「高度処理浄化槽」や「水耕栽培による水質浄化」といったかたちで,これまで日本で技術開発やその適用・普及が進められてきました。そして,現在世界各国への展開の道筋がつくられつつあります。これらの技術は単独でも水質浄化に効果を発揮してきましたが,環境への負荷が小さくかつ資源循環型で,さらに低コスト,低維持管理の技術・システムが求められるなか,両者の優れた面を融合化した国立環境研究所発のバイオ・エコエンジニアリングが注目を集めています。

霞ヶ浦に隣接された国立環境研究所の「バイオ・エコエンジニアリング」研究施設の写真
霞ヶ浦に隣接された国立環境研究所の「バイオ・エコエンジニアリング」研究施設

日本では

 東京湾,伊勢湾,瀬戸内海を対象に窒素・リン除去の規制強化を打ち出した第5次水質総量規制でも,バイオエンジニアリングとしての高度合併処理浄化槽,下水処理の高度化,エコエンジニアリングを利用した人工干潟の構築,水生植物等の機能強化技術が対策のメニューとしてあげられました。今後は,これらを融合した技術の開発が期待されています。こうした中,農林水産省は生態工学を活用した環境修復技術として,農村地域の住宅からの生活排水を農業集落排水処理施設で処理した後,その放流水をさらに浄化するため植栽・土壌浄化,酸化池等と組み合わせたバイオ・エコエンジニアリングの融合化技術の開発に取り組んでいます。この事業は,「生態系活用型処理施設」と位置づけられ,平成12年度から高知県土佐町,同野市町,岐阜県加子母村など全国19のモデル実証試験地区で取組みが始まっています(図7)。この事例はバイオ・エコエンジニアリングの実用化に取り組んだ日本で初めてのケースです(これには国立環境研究所が全面的に協力しています)。

図7

国立環境研究所では

 国立環境研究所では,バイオ・エコエンジニアリングの技術開発と適用に向けて,いくつかの国際プロジェクトを進めています。主なものとしては,JICAのプロジェクト技術協力としての「太湖水環境修復モデルプロジェクト」,環境省の国産技術移転プロジェクトとしての「紅楓湖・百花湖水環境修復モデルプロジェクト」があります。

 このうち太湖水環境修復モデルプロジェクトは2001年度から5年間の計画で実施されているもので,富栄養化が著しく進行している中国・太湖の水環境を修復することをめざし,バイオ・エコエンジニアリングによる生活排水対策としての窒素・リン除去技術の開発と,開発した技術の普及に必要な構造,維持管理,性能等の基準づくりなどを行うのが目的です。

 太湖の北岸にある無錫市に図8のようなバイオ・エコエンジニアリング施設を設置しました。バイオエンジニアリングを利用した高度処理浄化槽,エコエンジニアリングを利用した水耕栽培植物による浄化,土壌を活用した浄化,微生物からなる生物膜を活用したコンパクト湿地浄化などのシステムが組み込まれています。また,これらのシステムを活用した技術開発を行うことにより中国の国情に適したバイオ・エコエンジニアリングシステムを構築することが可能となります。中国の富栄養化の進行の著しい太湖はもちろんのこと,他の湖沼の水環境修復に大きく貢献するものと期待されています。

 この他には,文部科学省科学技術振興調整費による「有毒アオコの発生防止国際ネットーワーク創り」プロジェクトも進めています。有毒アオコの顕在化が懸念されている中国や韓国,オーストラリア,フィリピン,インド,インドネシア,ベトナムなどアジア・太平洋地域の国を主な対象に,以下のようなバイオ・エコエンジニアリンングの国情に適したシステム技術開発とネットワークづくりを実施しています。(1)汚濁負荷発生源の質・量の調査解析,(2)有毒アオコの分解に役立つ微生物の特性解析,(3)有毒藻類の毒素生産特性の分子生物学的解析,(4)ばっ気拡散・循環法を併用した溶藻性細菌による藻類異常増殖抑制技術開発,(5)再資源化可能な水耕栽培植物の最適組み合わせによる高度浄化エコエンジニアリングシステムの開発,(6)高度簡易分散型の生活系排水・汚泥処理バイオ・エコシステムの技術開発。

 さらに,国立環境研究所では,研究の中核施設として霞ヶ浦湖畔に「バイオ・エコエンジニアリング研究施設」の整備を進め,2002年9月にオープンしました。ここでは,以下に挙げるプロジェクトを推進していきます。

(1) 液状廃棄物の環境低負荷・資源循環型環境改善技術システムの開発に関する研究

(2) 生活排水処理システム浄化槽の窒素除去の律速因子となる硝化細菌の迅速測定・高度処理・維持管理技術の開発

(3) 新世紀枯渇化リン資源回収型の総量規制対応システムの技術開発

 

 なお2000年に開かれた日中韓3カ国環境大臣会合では「淡水(湖沼)汚染防止プロジェクト」が合意され,それと同時にこのプロジェクト技術開発の中核機関としてバイオ・エコエンジニアリング研究施設が位置づけられました。

図8