ゴミ焼却の熱とCO2を工場で活用する「LCCN」の社会実装に向けて

藤井 実(社会システム領域 室長)
2024.5.31

 廃棄物(ゴミ)の焼却熱をエネルギーとして化学工場や製紙工場などで使い、発生するCO2もプラスチックの原料として利用することで、素材の製造から廃棄までの一連の過程(ライフサイクル)におけるカーボンニュートラルを実現しようとする新たな仕組み「LCCN:Life Cycle Carbon Neutral」の社会実装に向けた準備が進んでいます。
 なぜ今、リサイクルではなく廃棄物の焼却熱とCO2を利用するLCCNの仕組みを進める必要があるのでしょうか?国内外でLCCNの社会実装に向けた準備を加速させようとする藤井実室長に聞きました。

ふじい・みのる
博士(工学)。東京大学大学院工学系研究科修了。同研究科での助手を経て、2003年に国立環境研究所に研究員として入所。2017年から現職。名古屋大学大学院環境学研究科と東京大学大学院新領域創生科学研究科の客員教授、高度資源循環・デジタル化推進協議会会長などを務める。

1. プラスチックの生産から廃棄までのカーボンニュートラルを実現

「LCCN:Life Cycle Carbon Neutral」とは何か教えてください。

 まずは背景の説明をさせてください。社会の脱炭素化を考える際、再生可能エネルギー(再エネ)による発電を前提とした電化に注目が集まることが多いのですが、素材の生産から廃棄の過程において、どのようにカーボンニュートラルを実現できるかを考えることも重要になっています。

 現状、使用済みのペットボトルについてはペットボトルにリサイクルする仕組みができていますが、分別されたその他のプラスチックの半分近くはプラスチックには戻っていません。食品や紙などが付着しているプラスチックは、リサイクルできずに焼却されているものも多いです。カーボンニュートラルな社会を実現させようとすると、それらもきちんと循環させて、CO2が出ないかたちでもう一度、プラスチックに戻すことが必要になります。
 
 LCCNは、リサイクルできない廃棄物を燃やすことでプラスチックなどをつくるためのエネルギーを生み出し、一方で焼却時に発生するCO2を回収して原料としてプラスチックを作ることで資源として炭素を循環させ、生産から廃棄までのプラスチックのライフサイクル全体で、カーボンニュートラルを実現することができる仕組みです。LCCN(Life Cycle Carbon Neutral)と名付けたのもそのためです。

現在、ゴミの焼却熱はどのように利用されているのでしょうか?また、CO2をプラスチックの原料とするというのは、どういうことですか?

 焼却炉で発生する熱の大半は発電に用いられていますが、発電効率は高くありません。LCCNではリサイクルが難しい廃棄物(混合プラスチック、雑紙、ゴム、皮革などの雑多な可燃物)を焼却し、蒸気を熱のまま高効率に活用します。プラスチックを製造している化学工場などでは大量の蒸気を使用しているのですが、蒸気を長距離輸送するのは難しいため、コンビナートのそばに大規模なゴミ焼却炉を建設し、そこで発生する焼却熱を活用してもらうことを考えています。

 また、焼却時に発生するCO2は煙突から回収し、再エネで作った「グリーン水素」と反応させ、メタノールやエタノールを作ります。それを原料としてもう一度、プラスチックを作ることができます。

図1 カーボンニュートラルなプラスチック循環経済のイメージ。LCCNプラントが化学工場にプラスチックの原料となるCO2と、工場を動かすための蒸気を供給する。図中のCNはカーボンニュートラル、CCUは分離・回収したCO2の有効利用(Carbon dioxide Capture and Utilization)を意味する。

2. 焼却炉のボイラーからの蒸気供給は、焼却発電に比べて約2倍の効率

ゴミ焼却炉の熱は温水プールで利用しているのだと思い込んでいました。

 地元に還元するため、焼却炉の脇に温水プールを設置し、地元の方に安く利用してもらっている自治体は多いです。焼却熱で温水を作るのも悪くはないのですが、もったいない使い方ではありますね。これからは再エネの供給も増えていくので、太陽光パネルで昼間発電した電気の余剰分を使って、給湯しても良いかもしれません。

 温水であれば、空気の中にある熱エネルギーを集めて水を温めるヒートポンプ給湯器(例えばエコキュート)を使うのが効率的です。ヒートポンプは温度差のある熱をくみ上げる装置なので、産業用の100℃以上の蒸気を供給するとなると効率が悪くなりますが、温水を製造するのは得意です。

焼却発電も「もったいない」使い方なのですか?

 効率的ではありません。ゴミを燃やしたときに出るガスには塩化水素等が含まれているので、ボイラー配管の腐食を防ぐために、最高で450℃程度までしか蒸気温度を上げられず、発電効率は最大25%ほどにとどまります。対してガス火力発電所などでは1600℃の燃焼ガスで発電しており、発電効率は60%を超えます。加えて、再エネが普及し、焼却発電による電気が売れなくなる時代がやがて到来しそうですね。

 一方、焼却炉のボイラーから蒸気供給をする場合、約90%の熱を最小限のロスで有効に使えます。化学工場などで使う蒸気は現在、化石燃料を燃やして作っているのですが、それとあまり遜色ない効率です。焼却熱を蒸気として供給することで、エネルギー効率は発電より2倍以上良くなります。

図2 廃棄物で発電・天然ガスで蒸気供給した場合と、廃棄物で蒸気供給・天然ガスで発電した場合のエネルギー効率の比較。廃棄物焼却で発生する蒸気を効率的に利用することで、社会全体のエネルギー利用効率を向上させることができる。

コンビナートに蒸気を供給するには、どのくらいの量の廃棄物が必要なのでしょうか?

 小さな規模でも蒸気供給は可能ですが、効果は蒸気量に比例します。効果を大きくしたければ蒸気量を増やす必要があり、1カ所のコンビナートで、1日に5000トン以上のゴミを焼却できると理想的です。コンビナートによって事情は大きく異なりますが、5000トン焼却すれば、1時間に1000トンの蒸気を消費している化学コンビナートであれば、必要な蒸気の半分くらいをカバーできるかもしれません。自治体によって差はありますが、1日に1人0.7~0.8キロほどの焼却対象ゴミを出しているので、5000トンであれば600~700万人分のゴミが必要という計算になります。

3. LCCNによるCO2の削減効果は年間1500万トン以上

ゴミを燃やす場所を変えるだけで、CO2を削減できるのですか?

 CO2の削減効果は大きいです。化学産業全体では、プラスチック製造のためなどに年間約6000万トンのCO2を排出していますが1)、LCCNによって焼却炉から蒸気供給が行われるようになれば、年間約2000~2500万トンの排出を減らすことができます。仮に現在の各自治体の焼却炉における焼却発電でCO2の年間排出量を500万トン削減できているとしても、社会全体でさらに1500~2000万トンの削減効果が見込まれます。なお、ゴミの輸送距離の増加に伴うCO2排出は、削減効果に比べるとはるかに軽微です。

 将来、再エネ由来の電気が豊富になり、電気を蒸気に変えてどんどん使えるようになれば、廃棄物から蒸気供給する仕組みの意義は薄れるかもしれませんが、過渡期である現在、そして2050年を過ぎてもしばらくは、意義のある仕組みだと考えられます。

ゴミを燃やすのではなく、素材の利用を減らしたり、リサイクルを進めたりするべきではないでしょうか?

 ヨーロッパ各国では、焼却熱の工場での利用が既に一部の地域で進んでいますが、ゴミを燃やすべきではないという意見も同時にあります。しかし、質の良いリサイクル製品を作ろうとすると厳密な分別が必要で、ポリエチレンならポリエチレンだけ、さらに言えばポリエチレンにも種類があって一種類だけを集めるようなことが必要になります。リサイクル製品の質を高めようとすると、残渣が多く出てしまうというジレンマもありますし、リサイクルのための材料を集めるために、わざわざゴミを多く出すようになっては本末転倒です。

 カーボンニュートラルを達成するには、元と同じ製品に戻せる「水平リサイクル」ができていることが重要です。しかし、例えば家庭から出る食品の容器包装プラスチックの中では、それができているのはペットボトルと白色トレーくらいに限られがちです。リサイクルの可能性は大きく、今後も継続してシステムや技術を改善していくことで、リサイクルによる恩恵はさらに大きくなりますが、いくら頑張ってもリサイクルできない物はありますし、無理に質の悪いリサイクル製品を製造して、あっという間にゴミになってしまったのでは意味がありません。

写真1 使用済みの容器包装プラスチック。異物の混入もあり、さまざまな色のプラスチックが混ざっているため、再利用してもくすんだ色のプラスチックになりがちで、用途が限られる場合がある。
2012年3月、埼玉県本庄市で藤井室長が撮影

 素材の利用そのものを減らす努力はずいぶんされています。レジ袋もだいぶ使わなくなりましたし、ペットボトルも薄くなりました。ただ将来、プラスチックの利用削減がどの程度進むのかは不透明です。しかし、LCCNの仕組みであれば素材変更があっても問題ありませんし、広域からゴミを集めてくる仕組みなので、量が減ってきたら集める範囲を広げれば量を確保できます。燃やさなくてはならない物をすべて引き受けてカーボンニュートラルに処理できるLCCNは、現実的な落としどころなのではないかと考えています。

焼却時に出るCO2は本当に回収できるのですか?

 焼却時に出るCO2については、90%程度は回収できることが実証されています2)。現在燃やしているゴミには紙や食品も混ざっていて、半分はバイオマス由来のゴミなので、その分はカーボンニュートラルなCO2だと考えることができます。それも含めてCO2を90%回収してプラスチックの原料として利用できるようになれば、LCCNの工程に関してはCO2の排出量はむしろ、ネガティブ(マイナス)になると言えます。

 CO2の回収技術自体は昔からあって、炭酸飲料に添加しているCO2は工場の排ガスなどを使っています。ただ、使い道はそれほど多くはないので、焼却炉から出るCO2の回収はほとんど行われてきませんでした。焼却炉にCO2の回収装置を付けて、例えば近くの温室にCO2を提供したとしても、植物が吸収するのは一部だけですし、植物もやがて分解されてCO2になります。このように、既存の回収・利用方法ではカーボンニュートラルにはなりません。

4. 焼却炉用の土地確保とゴミの広域輸送が課題に

まさに今必要な仕組みのように思いますが、なぜLCCNの事業化は進んでいないのでしょうか?

 焼却熱の産業での利用については、2016年ごろから提案してきました。コンビナートの中に大規模な焼却炉を建てるよう提案するようになったのは、2021年ごろからです。自治体や企業の方を訪ねて、LCCNの説明を重ねてきました。2020年に菅義偉前首相が「カーボンニュートラル宣言」を打ち出して以降、風向きが変わりました。廃棄物処理の広域化も含めて、肯定的に受け止められることが増えました。

写真2 川崎スチームネットの蒸気配管。JERA川崎火力発電所が発電に部分的に使用した後の蒸気を、隣接する千鳥・夜光地区に集積する複数の工場に供給している。各社がボイラー等で蒸気を作り出すのと比べて、年間約 2.5 万 t の CO2排出量を削減できている。
2019年1月、川崎市で藤井室長が撮影

 既に実現可能性調査を実施した地域もあります。ただ、一定規模の焼却炉の建設には最低でも2ヘクタール(1ヘクタールは100m×100m)以上の土地が必要で、土地探しが難航しがちです。将来的には、産業構造の変化等で生じる工場跡地などに建てることが可能だと思います。
 
 地元住民の反発も予想されます。焼却炉の排ガス処理は環境基準値を下回るように完璧に行われますし、コンビナートの中であれば、居住地域とも離れてはいますが、ゴミの広域移動が問題です。ゴミを大量に積んだトラックが行き来するのは嫌ですよね。対策としては、港直結のコンビナートの利点を生かし、廃棄物を海から船で運び込むことが考えられます。

 日本では焼却炉の建設までに、最短で8年程度かかるのも問題です。環境アセスメントが終わるまでに約6年、実際の建設に約2年です。大規模な焼却炉の建設には数百億円の投資が必要ですが、LCCNの実現可能性が明らかでなければ、企業は他のCO2削減対策を講じる必要が出てきますので、LCCNへの投資自体が見送られかねません。

ヨーロッパでは焼却熱の工場での利用が進んでいるとのお話でしたが、アジアではどうなのでしょうか?

 韓国では既に、焼却熱の工場での利用が進んでいます。一方で、新興国の中には経済的な事情で焼却炉がほとんどない国もあります。そうした国ではゴミが焼却されないまま、ゴミ捨て場に捨てられることが問題になっています。

 焼却熱を蒸気として工場に供給すると、焼却発電に比べて倍以上効率が高いと話しましたが、効率が高いということはエネルギーの販売収益も上がるということです。今は全く価値のない廃棄物ですが、LCCNの仕組みを通じてエネルギーとして最大限に利用できることが分かってくれば、途上国でも焼却炉を導入しやすくなり、問題の解決にもつながると思いますので、ぜひ普及させたいですね。インドでは既に、実現可能性調査を実施し、インドネシアやタイ、中国でもLCCNの普及に向けた相談を始めつつあります。

今後の具体的な見通しを教えてください。

 なるべく早い段階で、自治体や蒸気を利用する企業、産廃事業者、調査研究機関などが参加する「圏域動静脈連携カーボンリサイクル推進会議(仮)」を立ち上げたいと考えています。コンビナートや大規模工場が立地する地域と、そこに廃棄物を供給する圏域を対象にして連携を進めながら、一刻も早く、LCCNのモデル事業となるような事業を実現させたいです。

 今、寿命を迎えた焼却炉を従来型の焼却発電施設に建て替えてしまえば、LCCNの導入は進みません。時間との勝負です。皆で協力し、カーボンニュートラルな未来につながる筋道を作っていければと思います。


(聞き手:菊地奈保子 社会システム領域)
(インタビュー撮影:成田正司 企画部広報室)

参考文献

1)一般社団法人日本化学工業協会. “化学業界における地球温暖化対策の取組み~カーボンニュートラル行動計画2022年度フォローアップ調査報告~”. 経済産業省ホームページ. 2023.
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/chikyu_kankyo/kagaku_wg/pdf/2022_01_04_01.pdf

2)特別区長会調査研究機構. “令和5年度 調査研究報告書「特別区におけるCO2の地産地消に向けて~清掃工場のCO2分離・活用と23区の役割~」”. 特別区長会調査研究機構ホームページ. 2024.
https://www.tokyo23-kuchokai-kiko.jp/report/docs/6fcb3ad193d6cb0d45e827cbb0b0466e26cd56b9.pdf

もっと詳しく知りたい人のために

藤井実. “持続可能でカーボンニュートラルな素材の生産と利用方法に関する考察”. 公益財団法人自動車リサイクル促進センターホームページ. 2022.
https://www.jarc.or.jp/renewal/wp-content/uploads/2022/10/contribution_004.pdf

藤井実. “循環経済とカーボンニュートラルを両立する循環的エネルギー利用(日本環境共生学会第24回(2021年度)学術大会 公開シンポジウム資料)”, 日本環境共生学会ホームページ. 2021.
https://jahes.jp/images/%E5%9B%BD%E7%92%B0%E7%A0%94_%E8%97%A4%E4%BA%95%E6%A7%98.pdf