論文情報
Using waste to supply steam for industry transition: Selection of target industries through economic evaluation and statistical analysis
(廃棄物処理施設から産業界への蒸気供給:経済分析および統計分析によるターゲット産業の選定)
著者: Seiya Maki, Satoshi Ohnishi, Minoru Fujii, Naohiro Goto, Lu Sun
発行年: 2022
掲載誌: Journal of Industrial Ecology, Volume 26, Issue 4, August 2022 , Pages 1475-1486
DOI:10.1111/jiec.13270
キーワード
データ包絡分析, 産業クラスター, 産業共生, 必要産業集積, 蒸気供給, 廃棄物からのエネルギー回収
論文の紹介
地球温暖化を防ぐため、幅広い分野で世界的な取り組みが求められています。廃棄物処理の分野についても例外ではありません。日本では、温室効果ガス排出削減策の一つとして、処理施設でごみ焼却時に発生する熱をエネルギーに変換し、活用しています。この「エネルギー回収」が近年注目されていますが、一般的な方法はいわゆる「ごみ発電」で、経済効率性・エネルギー効率性は必ずしも高くありません。
一方、エネルギー効率が良いと考えられる廃棄物処理施設から近隣産業への蒸気供給は、ほとんど行われていません。理由として、経済性が不透明なことが挙げられます。収益性に基づいて蒸気を供給する価値がある産業を分類し、どのような産業であれば採算性があるかを把握することが必要です。
そこで本研究では、蒸気を供給する対象として適した産業について、産業規模とエネルギー需要から計算した経済性に基づいて10のクラスターに分類した上で、廃棄物処理施設からの蒸気供給事業の可能性を検討しました。研究には、著者が愛知県を対象に過去に行った蒸気供給の経済分析の結果を利用しました。手法としては、廃棄物処理場からの蒸気供給先として適した産業を特定するため、五つのプロセス ①蒸気供給による純益の推定②需要側産業のクラスタリング③データ包絡分析および回帰分析による適切な産業の選択④混合産業クラスターの決定木分析による選択⑤廃棄物処理場からの蒸気供給対象に対する適正産業の選択——を用いて分析を行いました。
エネルギー効率については、同じ資源の投入量(本研究では製造品出荷額)に対し、データから統計的に最大となる数値との比較を行い、各産業のデータがどのくらい効率的であるかを分析する「データ包絡分析(DEA)」を適用して評価しました(図1)。特定の大型工場が存在する場合にしか採算性が見込めず、収益性の判断が難しかった愛知県における繊維産業のように、対象とした地域のデータだけでは蒸気供給による採算性が見込めるかどうかを判断できなかったり、損益分岐点がはっきりしなかったりする産業についても確認を行うため、特定の製造品出荷額に対するエネルギー需要を統計的に求める「回帰分析」を適用しました。また、複数の産業が混合しているクラスター2とクラスター10においては、データ包絡分析のスコアをもとに分類を行うルールを作成し、蒸気供給対象として適した産業がどのようなものかを推定しました。
この結果、パルプ、繊維、土石窯業、鉄鋼の4産業が、蒸気供給産業として適していることが分かりました。パルプ産業はクラスター10の混合産業に含まれるもので、決定木と呼ばれるデータ中の分類ルールを作成する方法を用いて、より細かい特徴を抽出して採算性に効く特徴を確認することで分かりました。研究ではそれぞれの産業について、経済効果を得るために必要な企業数も算出しています。また、開発した手法を他地域に適用することで、蒸気供給事業を実施していない廃棄物処理場の中で、実際には事業可能性がある施設を確かめることができるようになると考えられます。
本研究が廃棄処理場からの蒸気供給事業普及の一助となり、よりエネルギー効率の高いエネルギー回収法の普及の手助けとなることを願っています。