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研究者に聞く!!

Interview

植弘崇嗣(左)と内山政弘(右)の写真
植弘崇嗣(写真左)
環境研究基盤技術ラボラトリー上級主席研究員

内山政弘(写真右)
大気圏環境研究領域大気動態研究室 主任研究員

 地球温暖化という環境問題に対応するには、エネルギー問題として側面からのアプローチが不可欠——企画部門に在籍していた2人の研究者の議論が基となり、新たなクリーンエネルギー開発の挑戦が始まりました。クリーンエネルギーの生産技術として移動式の洋上風力発電というシステムに実用化の道筋をつけた、2人の研究者の開発にまつわるエピソードを織り交ぜながら、新しい発電システムの全容を紹介します。

自然にやさしい セイリング型風力発電のモデルを設計

1.2人の「雑談」から生まれた海上風力発電

  • Q: 最初にお2人の研究歴について、お話をうかがいたいと思います。
    植弘: 2人とも化学の出身で、2年ぐらい違うのですが、ちょうど東大の宇井純さんが公害原論などをなさっていた頃で、公害問題にはそれなりに興味をもっていました。私は博士課程に行った後、ポスドクや予備校の先生をやって、この研究所へ来たのが1979年の1月です。大学時代は錯塩(色が付く金属の化合物)を研究対象としていましたが、研究所では主に環境分析です。そういう意味でいうと、洋上風力発電とは何も関係ない……。

    内山: 私は理学部の化学で触媒化学を専攻していましたが、大気汚染を研究している講座の助手として就職しました。今も主に大気汚染の問題を扱っています。この研究所では研究者が企画に関する仕事に携わることがあります。私が企画部門配属となった時に植弘さんが同部門の国際室に居られ、1年間、環境問題全体について議論をしていました。 
  • Q: 専門の研究を離れて、企画の仕事をされるというのは、新しいことを始めるという点で有益なのではないでしょうか。植弘さんと内山さんのように、研究分野の異なる方が出会って話をされたことが、洋上風力発電の構想につながっていったわけですね。
    内山: 企画を離れた後も、植弘さんの部屋を訪ねては議論をしていました。その時の話題の中に、自然エネルギーでも大規模に取り出すと、環境に悪影響を与える可能性があると言うことがありましたが、風車は環境への負荷が最も少なそうだとの結論になりました。後は単純な技術論です。風力発電は広大な面積を必要とする。どこに求めるか。洋上しかない。浅い所は魚の産卵場所であったり、海水浴場だったりする。そういうところは使わずに思い切って外洋に出る。洋上を移動して風の条件のよいところで発電し、台風がきたら避難する。具体的にはどんな技術を使えるかと言う雑談を1年ぐらいやっていました。

    植弘: 平成14年(2002年)に、この雑談からのアイデアに理事長が調査費を認めてくださったことからスタートし、平成15年度(2003年度)に環境省で石油特別会計を活用した技術開発を実施することになり、そこに組み入れられました。

    内山: 大きな研究費が獲得できるとはまったく思っていませんでした。しかし、研究を始めるとなると定量的な目標設定をしなければなりません。計量の単位としてEPRを用いることにしました。技術的には日本が開発していたメガフロート(超大型浮体式構造物)に風車を載せればそれで一件落着だろうと、安直に考えていました。私たちはコアな技術をもってないので企業、大学の協力を仰ぎました。たとえば、それまでに洋上風力発電を研究されていたJOIA(日本海洋開発産業協会)さんに行って、「今度、予算が付いてこういう研究始めたのでよろしくお願いします。ついてはこういうものの設計お願いします」とか。外に出てみたらわかったのですが、意外と国立環境研究所という看板が大きい。「国立環境研究所です」と言って企業に行くと、向こうも専門の技術者が出てきて対応してくださる。共同研究をお願いした造船や重工業の業界からすると、われわれの予算はとても小さいのですが夢の技術として面白いからと優秀な人材に参加してもらえました。
  • Q: それはやはり夢のあるアイデアだったからでしょうね。
    植弘: そうですね、風車メーカーさんは、日本は陸上の風車のマーケットが小さいのであまり売る気はないが、これがちゃんと実現できるのであれば、話は別だと言ってくれました。何かの解決に向けて新たなコンセプトを出していくことが大事なのだと思います。
  • Q: 今後のエネルギー問題を解決する上で、どのような方法ならどれくらいのEPRが実現できるかという点については、わかっていたのでしょうか。
    植弘: 洋上に進出するに当たって、洋上の自然エネルギーについての概要は把握しました。普遍的に存在し大きなエネルギーを獲得できるのは、現時点では風と太陽光が双璧だと判断しました。太陽光発電のパネルについては、われわれが始めた2003年ごろには薄膜型のパネルがほとんどなくて、EPRが非常に悪かった。当時は、薄膜型パネルをつくるためにかかるエネルギーを回収するのに、3年から5年かかるといわれていたのです。風車については、ヨーロッパやアメリカでは実用化されていました。風車をつくるために必要なエネルギーよりも風車が生み出すエネルギーの方がずっと大きいというデータはあり、風車は1つの答えだと思ったのです。そこで、実際に自然エネルギーだけで日本が生きていけるかどうか考えてみようという気になりました。

    内山: たとえば、アラビア半島の砂漠に太陽光パネルを並べれば人類に必要十分なエネルギーが取れるという議論がありました。しかし、反射で宇宙に戻っているエネルギーの10数%もエネルギーを取ってしまった時、半島の気象がどう変わるかは、たぶん、わからないで議論していたと思います。その点、風のエネルギーは、最終的に地表面で熱エネルギーになってしまうので、大規模に取ってもそんなには地球環境に影響を与えないだろうと考えました。
洋上風力発電システム、浮体システムの設計図

  • Q: 日本でどのくらいの洋上風力発電が行えるかを議論する場合、EEZ(排他的経済水域)の面積を考えると、かなりの資源量があるということになりますね。
    植弘: 水深が100m、1000m、1万mと深くなるごとに高い風速が得られる海域面積が増えていきます。6000mを超えるようなところまで使うという前提に立つと、平均風速7m以上の海域はEEZ面積の40%を超えています。EEZ面積は陸地面積の約10倍ですから、40%ということは、日本の陸地面積の4倍になります。
  • Q: 洋上に浮かべる構造としては、当時、日本にはメガフロートの技術があったということですね。
    植弘: ところが、メガフロートは波の静穏なところに置くものとして考えられていたので、風があるところは波も荒いはずなので使えないことがわかりました。新たに設計し直さなくてはいけなくなりました。
  • Q: 浮体の形が長方形型から、すごく細長い形になりました。これはどうしてなのでしょうか。
    植弘: 動き回る浮体の制御を考えると、浮体の数は減らしたい。そのためには1浮体当たりなるべくたくさんの風車を載せたい。ということで、長方形の浮体上に風車を陸上よりも密に千鳥配置に並べてみました。ところが、風洞実験をやってみると風下の風車が風上の風車の影響を受けて発電量が半分以下になってしまうのです。「それなら風車の搭載数を減らすか」ということになるのかもしれませんが、浮体へ載せる風車の数を減らすというのは、どう見てもおもしろくありません。浮体はもともと3つの胴体があるようなものだったので、それを分断して縦につなげばいいのではないかということになりました。風車の配列も1列にしました。粗設計の段階で、このようにしても強度にそれほどの変化が起きないということが大体わかっていました。
  • Q: この構造物を移動させる方法ですが、ヨットのような帆がついています。どうしてこのような方法になったのですか。
    植弘: 動き回る浮体にしようというコンセプトはあったのですが、それについては、大阪大学の高木先生に、ヨットのように揚力を使うことで移動できるかどうか検討いただきました。風車でつくったエネルギーの15%くらい使えばなんとかなりそうだというところがスタートでした。スクリューで回してもよかったのですが、東京大学の木下先生が、国立環境研究所がやるならやっぱり帆船にしよう、ということでセイリング型になりました。

    内山: 風車の高さは羽根のトップまでが140mで、帆はそれと同じくらいの高さにしてあります。あれだけ巨大な帆をどうコントロールするかというのはずいぶん議論になりました。

    植弘: 三菱重工さんが帆の台座として提案してきたのは、戦艦大和の主砲の砲台回転の設計図でした。
  • Q: 風車でつくった電気で海水を電気分解して水素をつくるわけですね。
    植弘: 最初は、蓄電池を考えましたが、今の性能の大体10倍の能力がないと足りないことがわかりました。それなら、化学エネルギーに変換しようということになり、技術的にも容易な水素をターゲットにしました。浮体上で水素の形に変換して消費地に送るというのが、基本的な考え方です。ただし水素をつくるに当たって、塩水を電気分解すると、陽極にとんでもない量の塩素が出てきます。2人とも化学出身でしたので、塩素の出ない電解システムを考えようかということになりました。ところが調べてみたら、既にあったのです。

    内山: 研究テーマが1つなくなってしまいました(笑)。

    植弘: 東北工業大学の橋本先生が、海水を電気分解しても陽極に塩素ではなく酸素が出てくる電極を開発しておられました。早速お会いして、砂漠に太陽電池を並べて電気をつくり、海岸まで送電して海水を電気分解して水素をつくり、その水素とCO2を反応させてメタンにするというお話をうかがいました。大学の屋上で、実際に太陽電池で発電して海水を電解して水素をつくり、CO2と反応させてメタンにして燃焼させるまでのテストプラントも稼動させておられました。それは非常にインパクトがありました。橋本先生はエネルギー問題に関しても熱心で、なんとかして自然エネルギーをやらなくてはいけないとおっしゃいます。その強い意志には感銘を受けました。

    内山: 橋本先生は水素は扱いにくいのでCO2と反応させてメタンに転換して使用することを提唱されています。

    植弘: 水素をつくるためには水の電気分解でつくりますね。1分子のCO2と4分子の水素から1分子のメタンをつくるのですが、その時に水が2分子できるのです。だから水を電気分解してつくった水素の半分がまた水に戻ってしまう。つまり半分くらいロスをしていることになる。ですからこのやり方はできれば使いたくないというところはあります。

    内山: ただし、社会のインフラ全体を考えた時に、メタンは天然ガスですから、そのまま自動車の燃料にもなります。
  • Q: EPRをもう少し上げる工夫というのはできるものなのですか。
    植弘: 水の電気分解で水素にする時のエネルギー効率はたぶん90%を超えるような値で、これをメタンにするともとのエネルギーの70%になる。そのメタンを輸送するためのエネルギーを考えるともう半分。EPRは5割は上がるかもしれないけれども、2倍にはならないでしょう。

    内山: システムの設計をしてみて、製造時のエネルギーの大半は浮体の鋼材の製錬に使われる事がわかりました。設計者からすれば、開発初期は安全なモノ、頑丈なモノを設計します。運用して実績を積めば鋼材の厚さは1割、2割くらいは減らせるかもしれません。

2:国家プロジェクトで取り組まなければ実現は困難

部分模型を用いた水槽実験の写真
部分模型を用いた水槽実験
  • Q: 火力発電や原子力発電の資源が枯渇して自然エネルギーを使わざるを得ないという議論について、話をお聞きしたいと思います。
    内山: 発展途上国もそれなりにエネルギーを使うということを前提にした橋本先生の分析では化石燃料も、ウランも50年後には枯渇する。もちろん、それよりもっと早い時期に価格が暴騰し燃料として使えなくなる。橋本先生曰く、「自分たちの孫の時代ではなくて、子の時代にエネルギーがなくなる」ということです。

    植弘: 石炭はどこまで掘るかということですが、日本にもまだたくさんある。それでも、あと200年ももつと思っている人はいないので、持続可能な社会をつくるという観点からいえば、太陽のエネルギーを使うべきです。洋上風力発電も最初は届かないかなと思ったのですが、机上とはいえ設計してみると何とかなりそうなので、最後はここに逃げ込めばある程度発電はできそうです。ただ、まだEPRは20です。システムが一生(100年)稼働し終わった後に浮体がなくなってしまうわけではないので、それを原料としてもう1回システムをつくると、EPRは今の2倍以上よくなります。今のところ、鉄鉱石から計算しているので、くず鉄からこれがつくれるという計算するとずいぶんよくなる。
  • Q: これから解決すべき次の技術的な課題としてはどんなことがありますか。
    植弘: それもありますが、社会の中でこういうものをつくるということを理解してもらうことが非常に大事です。造船メーカーさんはうまくいかなかったプロジェクトがたくさんあって、国家プロジェクトはやりたくないと思っているみたいです。そういうことも含めて、これはやったほうがよさそうだと思ってもらえるように、どういうプレゼンをしていくかを考える必要があります。
  • Q: 内山さんどうですか。
    内山: 洋上風力を基幹エネルギーとして考えると、ここで考えたような発電システムが1000台規模で必要になる。現在の日本の造船能力でも数艘/年くらいしかつくれない。そうすると、かつて海軍工廠で計画的に軍艦を造船していたようなシステムを考えないと必要な量はつくれない。
  • Q: 国立環境研究所でそういう壮大な構想を打ち上げたというのは画期的なことなんじゃないでしょうか。
    植弘: どちらが画期的かというと、脱温暖化2050プロジェクト(注)も画期的だと思います。2050を打ち上げてくれたから、たとえばこういうのが出て来ましたよね。あれがないと、本当に20%にしなくてはいけないの、80%にしなくてはいけないのと議論して、ぐちゃぐちゃになるところです。本当に80%にしなくてはいけなくなるとすると、自然エネルギーをもち込まないことにはできないですね。
  • Q: ほかのエネルギー、太陽電池パネルとか、ほかのものと比べた時にはどうでしょうか。
    植弘: 洋上にどういう形で太陽パネルを張るかという技術的な議論はしてないのですが、洋上では太陽光パネルなら同じ面積で風車の1.5倍程度の発電ができる。ただし、風車の場合は基部だけに浮体があればよいのですが、太陽パネルの時にはその全面にわたって浮体をつくらなくてはいけません。もちろん、薄いものでいいし、枠組みだけでいいので、重さでは軽いものが出てくるだろうと思っています。相当広い面積、全エネルギーを太陽パネルで賄うとすると陸地面積の10%、EEZの1%に展開することが必要となります。

    内山: 現状の発電単価とEPRが反比例しているとすると、EPRからみた時に、太陽光パネルは風力の1/4の効率です。
  • Q: 地熱エネルギーの可能性はどうでしょうか。
    植弘: たくさん出ている所で使うのは、環境問題を解決しながらやればあると思います。環境問題は2つあって、1つは景観問題、もう1つは地熱に伴なって出てくるヒ素等の有害物質をどうするかという問題。それからメンテナンスとして、水蒸気を取り出すパイプはかならず詰まるのでその詰まりをどうするか。それらをすべて考えた時に、果たしてEPRがいくらになるか。今のところ、発電単価は高いですね。基幹エネルギーとして地熱を大々的にやるのは難しいといえます。
  • Q: どうもありがとうございました。



(注)平成16年度~20年度に行われた地球環境研究総合推進費戦略的研究開発プロジェクトとして実施。2050年までを見越した日本の温室効果ガス削減水槽シナリオ等を提示することを目的としている

コラム

  • EPRとは
     EPRはエネルギー産生システムの性格を評価する最重要指標の1つです。あるシステムが生産するエネルギー(Eout)とシステムの製造・維持・運用・廃棄に必要なエネルギー(Einp)の比(Eout/Einp)として定義されます。EPRが大きいほど投入エネルギーに対して大きなエネルギーを得られることになります。それぞれのエネルギーはシステムの製造に係る原材料の採掘から、稼働期間を終えて廃棄に至るまでの全ライフサイクルを勘定しますが、個々の技術の選択や技術革新によりEPRが変動することもあるため、その比較には注意が必要です。
図1 様々な発電システムのエネルギー収支比(EPR)
  • 有限なエネルギー資源
     地球に埋蔵されているエネルギー資源にはウラン(原子力)のように46億年前の地球誕生時に宇宙塵から集まったもの、石炭・石油(化石燃料)のように数億~数千万年前の太陽エネルギーを生物活動により地球に蓄積したものがあります。これらのエネルギー資源は、再生産されない資源であり、利用すると無くなってしまいます。しかしながら、グラフに示されるように、現代社会はこれらのエネルギー資源を大量に消費しています。

     国際エネルギー機関(IEA)のデータでは、これら資源を現行と同じように消費し続けた場合の確認埋蔵量は、石油42年分、天然ガス60年分、石炭122年分、そしてウラン80年分とされています。今後の新たな資源の発見や生産手法の変化など、予測が難しい面が多々ありますが、今世紀から次世紀には資源を使い切ってしまうおそれがあります。

     また、資源が枯渇する以前に、資源生産コスト(経済的だけではなくエネルギー的観点も含めた)が、資源から回収できる利益よりも大きくなって、「資源はあっても、使わない。使えない」状態になってしまうことも危惧されます。その時期は枯渇時期よりもずっと早くなるという議論もされています。
図2 世界の一次エネルギー消費(資源別)の推移
  • 風車の設置可能台数
     日本近海では北欧の海に比べて遠浅の海が少なく、陸棚と呼ばれる水深200m以下の浅い海があまりありません。このため、北欧の陸棚で大規模に行われている着底型の洋上風力発電は日本の非常に限られた海域にしか適用できません。さらに係留型の洋上風力発電を比較的容易に設置できる水深500m以下の浅海域も限られています。

     日本近海で洋上風力発電が陸上風力発電に対して優位となる風況の良い(年間平均風速の大きい)海域を探すと、係留型でも不得手とされる水深1000m以上の海域を有効に利用できるシステムが必要です。

     年平均風速が7m/sを超える海域では設備利用率が40%を超えるため、1MWの風車を2,500台設置すればフル稼働の100万kWの火力や原子力発電所と同等の年間発電量を確保できます。
図3 日本のEEZ(排他的経済水域)の水深と風車設置可能台数
  • 海洋現象や気象に耐えて長期間使用できる浮体構造を求めて
     浮体については、研究の初期段階では、いかだ型の浮体上に風車を3列に並べることを考えていましたが(図4)、前列の風車による風の流れが後列の風車に影響を与えることから、横長浮体に風車を1列に並べることにしました。浮体構造としては、波浪の高い外洋を航行するため、水面下にローワーハルがあるセミサブ型(半潜水型)を選択しました。揚力を受け持つストラットの断面積が小さくなり、波から受ける力を小さくできます。研究段階の半に、強度不足が判明したため、アッパーハルを設けることにした。これにより、強度が求められる横桁部に高張力鋼を用いれば、降伏強度、疲労強度を満足する、長期耐用が可能な浮体をつくる見通しが立ちました(図5)。
図4 研究初期段階で考えていた5胴タイプ
図5 最終案となった2胴タイプ
  • 浮体の性能を評価するためのポーラー曲線
     今回設計した浮体は、巨大な帆船と考えることができますが、帆船としての性能を評価するのがポーラー曲線(図6)です。風は図の上から下向きに吹いているとして、帆船がどの方向にどの位のスピードで航行できるのかを表しています。左右対象なのは浮体に前後がないからです。赤の実線が風車で発電し、電動モーターは使わない時の性能で、風上への航行は無理ですが、風と垂直方向には4ノット(約2m/s)を超えるスピードで航行できます。また、緊急時に風車による発電を停止して電動モーターも活用して走ると、風上45度の方位でも9ノット(約4.6m/s)程度で航行可能です(青破線)。
図6 ポーラー曲線
  • 気象予報を用いて1年間の運行をシミュレーションする
     太平洋上で良い風を求めながら帆走した場合、どれくらいの発電量が得られるのか、1年間の気象予報を使ってシミュレーションしてみました。6日間先までの風と波の予報値を用い、浮体が壊れない波の高さとより多くの発電量が得られるように操舵するという条件で、1年間コンピュータ上で仮想的に航行させてみました。その結果、年間発電量は280GWhとなり、設備稼働率として約58%の値を得ることができました。これは、固定地点に留まっていては得られない高い値です。
図7 気象予報を用いた1年間の運行シミュレーション結果