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将来温室効果ガス観測ミッション構想に関する調査検討(令和 5年度)
Study on the concept of a future greenhouse gas observation satellite mission

予算区分
BY 環境-委託請負
研究課題コード
2323BY004
開始/終了年度
2023~2023年
キーワード(日本語)
リモートセンシング,衛星観測,温室効果ガス
キーワード(英語)
Remote sensing,Satellite observation,Greenhouse gas

研究概要

 環境省、国立環境研究所(以下、NIES)、宇宙航空研究開発機構(以下、JAXA)の合同プロジェクトである温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(Greenhouse gases Observing SATellite; GOSAT)は2009年の打ち上げから14年が経過した現在も運用中であり、ほぼ継続して全球の二酸化炭素(CO2)とメタン(CH4)の濃度とフラックスプロダクトを提供している。GOSATは世界初の温室効果ガス観測を目的とした衛星であり、GOSATによるプロダクトによって温室効果ガスの全球、領域規模での挙動に関する研究は大きく進展した。また、GOSATの打ち上げ以降、アメリカのOrbiting Carbon Obaservatory-2 (OCO-2)、ヨーロッパのSentinel-5P搭載のTROPOspheric Monitoring Instrument (TROPOMI)など、温室効果ガスをターゲットとした衛星プロジェクトが進行し、地域別の温室効果ガス濃度の吸収・排出量の把握が全球的に可能になるなど、成果を上げている。さらに、GOSATの後継機であるGOSAT-2は2018年に打ち上げられ、現在運用中、加えて、令和5年6月に閣議決定された「宇宙基本計画」ではGOSATシリーズの第3世代である温室効果ガス・水循環観測技術衛星GOSAT-GW(Global Observing SATellite for Greenhouse gases and Water cycle)の2024年度の打ち上げに向けて、開発を着実に進めることが示されている。衛星観測は温室効果ガスを観測する上で非常に強力なツールであり、温室効果ガスの動態のさらに精緻な把握やその気候変動へのインパクトの見積もりなどの科学的な側面、気候変動政策に関する意思決定などの行政的な側面の両面から継続的なデータの提供が今後も求められる。令和5年6月に決定された「宇宙基本計画工程表」では、カーボンニュートラルの実現やグリーン成長に貢献するため、衛星データ公開等を通じた各国の気候変動対策や民間企業における衛星データの利活用や情報発信を促進するとともに、衛星データについて民間企業や学識経験者等を交えた議論のうえ、民間企業におけるビジネス活用・気候変動に関する科学の発展への貢献を目指し、さらに国際的な動向を踏まえた温室効果ガス観測衛星の後継機の検討を進めるとしている。
 本業務では、GOSAT-GW定常運用終了後を見据え、GOSATシリーズの第4世代で必要となる衛星本体や衛星搭載センサーの仕様の検討を科学的側面から行う。検討にあたっては将来の衛星による温室効果ガス観測に科学的に要請される物理量やその量・質の分析を行った上で、その実現のために必要となる衛星やセンサーの仕様提示に向けたミッション要求・ターゲットの設定・整理を行う。さらに、整理したミッション要求・ターゲットが科学的側面、行政的側面、ビジネス的側面のそれぞれに与えるインパクトの整理を行う。また、将来の更なるGOSATシリーズによる他国との連帯及び、国際的な観測精度検証体制強化の検討を目的として、インド共和国を候補とした地上観測装置設置についての現地調査を行う。

研究の性格

  • 主たるもの:技術開発・評価
  • 従たるもの:

全体計画

 人工衛星による温室効果ガス観測は2009年のGOSATの打ち上げ以降、大きな成果を上げており、これらの全球的な挙動の把握や点排出源のモニタリングに必須なものになってきている。GOSATシリーズはGOSAT以降、2018年に2号機(GOSAT-2)が打ち上げられ、GOSAT, GOSAT-2ともに現在運用中である。2024年度には3号機としてGOSAT-GWが打ち上げ予定であり、運用期間7年を予定している。これによりGOSATシリーズは20年以上に亘って二酸化炭素とメタンのカラム平均濃度プロダクトを提供可能である。各国が2050年までのカーボンニュートラルを目指す中で衛星による継続的な温室効果ガス濃度のモニタリングは益々その重要度を増し、GOSAT-GWの運用終了後も同様の観測の継続が求められることが予想される。
 国立環境研究所はこれまでGOSATシリーズの高次データ処理やプロダクト配信を担っており、温室効果ガス濃度解析アルゴリズムや吸収排出量推定手法などの科学的側面に技術的な強みを持つ。本業務ではこれまでの技術的な蓄積や実績を踏まえ、GOSAT-GWの運用終了後の2030年代に必要となる衛星プロダクトやその実現可能性の検討を行う。検討の際には国立環境研究所内のGOSATプロジェクトメンバーや温室効果ガスの専門家に加え、国内外の有識者にも意見の聴取を行い、ターゲット候補の選定を行う。

 また国立環境研究所は、GOSAT及びGOSAT-2プロダクトのデータ質を明らかにする検証解析を継続し、これらのプロダクトの公開及び更新毎に検証結果を取りまとめる重要な業務を行っている。同時に、海外を含むTotal Carbon Column Observing Network (TCCON)サイトやCOllaborative Carbon Column Observing Network (COCCON)サイトの設置・運用を行い、GOSATシリーズプロダクトの検証に必要な地上観測データの作成を行っている。更に、温室効果ガス観測における衛星及び地上国際コミュニティにおいても、頻繁に密接な交流を継続してきている。本業務では、これまでの検証解析、地上観測、国際的な枠組みへの参加の経験を踏まえ、インド共和国に検証観測装置を設置する地点候補のリストアップと優先付けを行い、現地視察を実施し、今後TCCONやCOCCONサイト設置に必要な現地情報を収集し整理を行う。

今年度の研究概要

将来温室効果ガス衛星観測ミッションのターゲット設定
 GOSATやOCO-2、TROPOMIなど、現在、温室効果ガスの鉛直平均濃度を観測するための人工衛星が多数運用されている。また、GOSATの3世代目であるGOSAT-GWやCO2Mなど、将来打ち上げを予定している人工衛星ミッションも複数進行中である。このような、現在運用中もしくは計画中の温室効果ガス観測を目的とした人工衛星ミッションについて、公開されている情報を基に観測対象、観測方式、空間分解能、観測波長帯、波長分解能などの整理を行う。また、整理に当たっては業務開始時に環境省から提供する「令和3年度将来温室効果ガス観測ミッション構想に関する調査検討業務」(以下「令和3年度業務」という。)での将来の温室効果ガス観測手法・排出量推計方法(案)の検討結果、「令和4年度将来温室効果ガス観測ミッション構想に関する調査検討業務」にて整理した環境政策目標(案)を参考にする。
 次に、科学的な重要性、現状の課題、他衛星との差別化、おおまかな実現可能性などを踏まえてターゲットの選定を行う。ターゲットの候補の選定は以下のようなプロセスを見込む。
(1) NIES衛星観測センターメンバーとNIES内の温室効果ガスを研究対象とする研究者を中心とした検討会を開催し、2031年度に以降観測対象としたい物質、地域や現行の人工衛星データによる温室効果ガス観測濃度プロダクトへの要求や課題などの聞き取り、観測方法の検討などを行う(3回程度)。
(2) 国内有識者を招集し、?の検討結果を踏まえたうえで意見の聞き取りを行い、ターゲット候補の検討を進める(2回程度)。また、気象学会、大気化学討論会に参加し、関係者から聞き取りを行う。
(3) OCO-2サイエンスチーム会合、AGU Fall Meeting に参加し、OCO-2、TROPOMI、CO2Mなどの他国の温室効果ガス観測衛星ミッション関係者などから聞き取りを行い、ターゲット候補の選定のための参考情報とする。

インド共和国における地上遠隔計測装置設置に向けての現地調査
 本業務を実施するに際して、関係協力機関及び温室効果ガス衛星観測及び地上観測コミュニティと情報交換に関しては、インド共和国の状況を熟知している研究者であるMahesh Kumar Sha氏(The Royal Belgian Institute for Space Aeronomy, BIRA-IASB)を中心に情報交換を行うこととしたい。Mahesh Kumar Sha氏は、BIRA-IASBの研究員で、温室効果ガスの地上観測及びTROPOMIのXCO、XCH4検証に関する研究を実施し、引き続きCO2Mの検証に関わっている。インド出身であることから、インド共和国の上記の特殊性を含むあらゆる状況を熟知し、温室効果ガスの地上観測を目指してインド共和国の研究者と交流を始めており、TCCON準拠の観測機器ではないが現有のFTSを移設して試験観測を試みている。このため、情報交換及び現地調査における専門家として最も適任であると考える。
これまでの予備的調査をもとに、検討対象とする地点候補の例を下記に示す。
・New Delhi 在インド日本大使館
・NainitalのAryabhatta Research Institute of Observational Sciencesが運用している地点
・Kolkata 22.9630° N, 88.5242° E
・Navrangpura 23.06741°N 72.5121°E
・Bhopal 23.285832°N 77.275654°E
 上記地点候補について、関係協力機関及び温室効果ガス衛星観測及び地上観測コミュニティ及びMahesh Kumar Sha氏と情報交換を行い、優先順位付けを行う。
優先順位付けに際し、
・どの様な観測機器を設置することが適切か
・カウンターパートの研究分野、遠隔計測による温室効果ガス観測機器の理解度と経験
・設置・運用まで必要な時間
・取得されたデータの提供の可否
等を確認する。インド共和国には温室効果ガスの地上直接観測は展開されており、その地点に設置できれば極めて有効であるが、一方で遠隔計測による温室効果ガスの理解度や経験が不十分な場合も想定され、設置後の運用が滞ることがあるので、注意が必要である。
優先順付けを行った結果を環境省及び国立環境研究所の関係者に共有し検討を行い、現地調査地点を決定する。
現地調査に際しては、Mahesh Kumar Sha氏を専門家として招聘し、国立環境研究所の担当者及び関係者、インド共和国の実情に詳しい支援業者(※)と共に、現地調査チームを立ち上げて、2週間程度の期間、3ヶ所程度に対して、実施することとする。
調査項目は、仕様書に記載された下記の事項について行うこととする。
TCCON又はCOCCONの観測機器の設置と運用が可能かの観点で、
・現地の機関の周辺の地形、交通網、治安等の周辺情報
・機関の設置候補の地点、建物、電源、空調等のインフラ
・人的リソース、現地人材の運用・メンテナンスに必要な基本的なスキルや適性等
・機器を設置・運用しデータの提供を受けるための条件及びこれに関する協定締
結に必要な項目等
なお、調査を効率的に行うことが出来るように、また、収集した情報が劣化しないように、調査開始前、調査中(地点毎に)、調査終了後に、打合せを行うこととする。

関連する研究課題

課題代表者

染谷 有

  • 地球システム領域
    衛星観測研究室
  • 主任研究員
portrait

担当者