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2018年3月1日

乾燥・半乾燥地域における環境脆弱性及び適応策に関する国際ワークショップ開催報告

平成30年1月18日(木)に乾燥・半乾燥地域における環境脆弱性及び適応策に関する国際ワークショップがつくばで開催されました。

集合写真

世界の陸地の約40%を占める乾燥・半乾燥地域では、気候変動および自然災害に加えて、急速な人口増大と経済発展に伴って水・エネルギー・食料の間のトレードオフとステークホルダー間の競合関係が益々深刻になっています。その結果、これらの地域における水・物質循環のバランスが崩れ、環境の脆弱性が顕在化しつつあり、それに対する適応策・適応技術オプションを提案することが急務だと考えられます。このような背景で、関連研究機関や国際組織と研究交流を深め、共同研究の可能性を検討するために、国立環境研究所(NIES)は、平成30年1月に乾燥・半乾燥地域における環境脆弱性及び適応策に関する国際ワークショップを学園都市・つくば市にて開催しました。中国科学院、モンゴル科学院、アメリカコロラド大学など関連研究機関、および国内の東京大学大学院、筑波大学大学院などの関連研究機関から約35名の研究者が参加され、中国内陸部やモンゴル、中央アジアなどアジアの乾燥・半乾燥地域を対象に、水資源や陸域生態系の脆弱性評価および適応策に関する研究発表と総合討論を行いました。

ワークショップでは、NIESの原澤英夫理事より開会挨拶の後に、Future Earthアジア顧問委員会委員長、中国科学院のBojie Fu院士とFuture Earth日本ハブの春日文子事務局長が基調講演を行いました。それぞれ、Global-DEPとFuture Earthの動向および最新の進展について紹介されました。その後、三つのセッションに分けて研究発表が実施されました。

セッション1においては、乾燥・半乾燥地域の脆弱性について3名の研究者から研究発表がありました。まず、中国科学院西北環境生態資源研究分院のTao Wang院長が「中国の乾燥・半乾燥地域における砂漠化及びその影響要因」について解説しました。続いて、中国科学院新疆分院のXi Chen副院長より「中央アジアにおける生態系環境の脆弱性」に関する発表があり、中央アジア5カ国で構築された観測ネットワーク及びデータベースを紹介し、新たな観測サイトの設立および共同研究を呼びかけました。最後に、モンゴル科学院地理・地球生態学研究所のOchirbat Batkhishing教授より「モンゴルの土壌劣化及びその影響要因」について最新の研究成果が紹介されました。

セッション2において、脆弱性に対する適応策について5名の研究者から研究発表がありました。最初は、アメリカコロラド州立大学生態学と持続性研究科のDennis Ojima教授から、「乾燥・半乾燥地域における気候変動に適応するためのコミュニティの関与」を題目にいくつかの実践的な研究事例を用いて、様々なスケールでの意思決定プロセスや適応オプションの策定に関する研究成果が提示されました。また、東京大学緑地創成学研究室の大黒俊哉教授は、長年中国やモンゴルなどの地域で進められてきた研究を中心に「北東アジアの草原地域の非平衡環境における持続可能な土地管理」について研究発表を行いました。続いて、中国科学院農業資源研究センターのYonghui YANG教授より「中国北部の農業生態系における節水技術と植栽制度の調整」について、中国科学院地理科学と資源研究所のSuocheng Dong教授より「中国-モンゴル-ロシア経済ベルトにおけるグリーン発展計画」についての研究発表がありました。最後に、NIESの広域影響・対策モデル研究室の高橋潔室長が「日本の適応計画を支える研究活動」について紹介しました。

セッション3において、脆弱性評価に資する統合的アプローチについて4名の研究者から研究発表がありました。まず、NIES衛星観測研究室の松永恒雄室長より「GOSAT衛星シリーズによる乾燥・半乾燥地帯における温室効果ガス排出量のモニタリング」に関する研究成果が紹介されました。続いて、筑波大学流域管理研究室の奈佐原顕郎准教授より「JAXA高分解能衛星データを用いた土地被覆変化と土地劣化の検出」について、NIES地域環境研究センターの岡寺智大主任研究員より「乾燥・半乾燥地域としてのモンゴルにおける水・エネルギーのネクサスに基づく評価」に関する研究発表がありました。最後に、同研究センターの王勤学主席研究員より「乾燥・半乾燥草原地帯における環境容量及びその脆弱性の評価---モンゴルを例として」の発表があり、温暖化に伴う永久凍土の融解が牧草地の脆弱性に及ぼす影響及びその適応策に関する研究成果が紹介されました。

総合討論では、本ワークショップの主旨である乾燥・半乾燥地域において直面する環境脆弱性の問題、有効な適応策及び今後の研究協力の在り方について活発な議論を行いました。その結果、下記の共通認識を得られました。

  • 乾燥・半乾燥地域では、人々が多くの環境脆弱性問題(例えば、砂漠化、土地退化、土壌流失、河川や湖沼の枯渇、氷河や永久凍土の融解等)に直面させられています。
  • 気候変動は、この地域の水・物質循環の変化をもたらし、環境の脆弱性に大きく影響を及ぼしています。また、水・エネルギー・食料の間のトレードオフの影響で、環境が益々脆弱になっています。これらの脆弱性に対して、有効な適応策の提案が急務です。
  • これらの脆弱性や適応策に関する研究を推進するため、各国の研究者の間の協力関係を一層強化し、共同で戦略的研究を推進することが必要不可欠です。
  • 乾燥地の生態系管理(特に、牧草と家畜バランスの管理、水資源需供バランスの管理、水・エネルギー・食料間のトレードオフ管理およびグリーン開発など)は、持続可能な開発目標(SDGs)を実現させるために重要な措置だと考えられます。
  • 今後、各国の研究者との共同研究を一層強化させ、成果をFuture Earth、A-PLAT、GAN、Global-DEPなどの国際的なプログラムやプラットフォームを通して世界に向けて発信し、地域の人々や政策決定者、そしてステークホルダーに貢献します。

総合討論の後に、NIES地域環境研究センターの高見昭憲センター長の閉会挨拶では、今後国際的な研究協力と国際的な交流の必要性が強調されました。懇親会においては、NIESの渡辺知保理事長が、講演者全員と会談し交流を深め、国際的な研究取り組みをより一層深めると同時に、研究機関間での研究協力による新たな道が拓かれることに期待を寄せられました。

国立環境研究所 地域環境研究センター 王勤学

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