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2012年11月30日

「ギャップを埋める」とは?

 今日(11月30日)の夕方、アティーヤCOP18/CMP8議長とオブザーバーとの対話の機会があったので、私も出席してきました。COP/CMPでは、議長や議長国の果たす役割がとても大きいので、議長が交渉の現状をどのように認識しているのか、また、どのように会議を成功に導こうとしているのかを聞きたかったからです。残念ながら、具体的な話は聞けませんでしたが、会議を成功させたいというアティーヤ議長の熱意は感じられました。

写真1
写真1:オブザーバーと対話するアティーヤ議長

 さて、今日は、「ギャップ」についてお伝えしたいと思います。各国の発言を聞いていると、「ギャップを埋める」とか「ギャップは拡大している」というフレーズがよく出てきます。「ギャップ」とは何を指すのでしょうか?

 ここでいう「ギャップ」とは、先進国及び途上国が掲げている2020年の温室効果ガスの排出削減目標/削減行動をすべて足し合わせても、地球全体の気温上昇を2℃までに抑えるのに必要な排出削減量に比べると、とても大きな隔たりがあるということを意味します。

写真2
写真2:COP18開会総会の様子(写真提供:(公財)地球環境戦略研究機関・気候変動グループ)

 COP18のタイミングに合わせて、いくつかの国際機関等がこの「ギャップ」の問題に関連する報告書を公表しました。これらは各国の発言の中でも引用されています。今日は、そのうちの2つをご紹介したいと思います。

 1つ目は、国連環境計画(UNEP)による「排出ギャップ報告書2012年版」(The Emissions Gap Report 2012)です。UNEPは、2010年、2011年と同様の報告書を公表してきています。

2011年版及びそのお披露目のサイドイベントについて、昨年の記事で紹介しています。

 2012年版はこれをブラッシュアップしたものです。この報告書には、以下のようなことが書かれています。

 ■現在の地球全体の温室効果ガスの排出状況はどのようになっていますか?

 -現在の排出状況は、地球全体の気温上昇を2℃より下に抑えるための2020年の排出レベルよりかなり高く、また今も増え続けています。

 ■2020年時点での「ギャップ」はどうなりますか?

 -各国の2010年の排出実績及び各国が提出している排出削減目標/行動に基づく2020年の排出見込と、地球全体の気温上昇を2℃より下にとどめる削減を達成するための排出経路とを比較すると、2020年における両者の「ギャップ」は8~13Gt-CO2となります。最も排出量が少なくなるケースでも、昨年度版の報告書の6Gt-CO2と比べ2Gt-CO2増加しており、「ギャップ」は拡大しています。

 -地球全体の気温上昇を2℃より下に抑えるためには、2020年より前に、地球全体の温室効果ガスの排出を減少傾向に転じさせなければなりません。

 ■2020年までに「ギャップ」を埋めることはできますか?そして、どのように埋められるでしょうか?

 -「ギャップ」を埋めることは、技術的には可能です。2020年の削減ポテンシャルは17±3Gt-CO2です(内訳は発電2.2~3.9Gt、産業1.5~4.6Gt、運輸1.7~2.5Gt、建物1.4~2.9Gt、廃棄物約0.8Gt、森林1.3~4.2Gt、農業1.1~4.3Gt)です。

 -この「ギャップ」は、現在、気候変動交渉でとりあげられている問題を解決することで埋めていくことができます。たとえば、他国の取組み度合等を条件としたより厳しい目標値を採用する(2Gt)、森林吸収源・クレジットを含まないより厳しい算定方法を採用する(3Gt)、京都議定書第1約束期間の余剰カウント分を少なくする(1.8Gt)、オフセットやCDMのダブルカウントを避ける(1.5Gt)、などが挙げられます。

 -国家レベルでも地方レベルでも、政策行動をとる国は増えてきており、これらは排出削減に効果をあげてきています。これら政策のほとんどは、気候変動への対処を第一の目的としたものではありません。つまり、世界全体で多くのセクターにおいて排出削減策を講じることは、「ギャップ」を埋めるだけでなく、同時にコベネフィットをもたらします。

 2つ目は、世界銀行が公表した、「熱を弱めよ-なぜ4℃上昇した世界は避けられなければならないか」(” Turn Down the Heat Why a 4℃ Warmer World Must be Avoided”)です。

 この報告書では、先進国及び途上国が掲げている、2020年の排出削減目標/削減行動がすべて実現されたとしても、2100年の気温は産業革命以前と比較して、およそ20%の可能性(likelihood)で4℃以上に達するとされています。また、排出削減策が十分に実施されなければ、2060年代にも4℃上昇の可能性があることが指摘されています。

 この報告書では、4℃上昇した世界について、以下のように記されています。これらを踏まえると、4℃上昇は受容可能なものではないとしています。

 -強烈な熱波、食糧資源の減少、生態系・生物多様性の喪失、生命に危機を及ぼす水準の海面上昇が生じます。2℃上昇した場合と比べ、異常な気温上昇、熱波、豪雨、干ばつのリスクは大きく高まります。

 -影響の大きさに不確実性があることを踏まえると、4℃上昇した世界に適応できるという確証はありません。

 -リスクは均一ではなく、貧困層への影響は特に大きく、格差がさらに広がる可能性があります。

 そして、この報告書では、4℃上昇を避けることはまだ可能であり、多くの研究において温度上昇を2℃以内に抑制するような排出パスは技術的・経済的に実現可能であると述べられています。

 「ギャップ」の問題については、あちこちで言及されていますが、主に議論されているのは、強化された行動のためのダーバン・プラットフォーム(ADP)です。ADPでは、2020年以降、国際社会が気候変動問題にどう取り組んでいくかについて、2015年までに合意することになっています。ダーバン会合では、各国の排出削減レベルを引き上げるための作業計画に合意することになりました。これまでの会議では、2020年以降の枠組みづくり(ワークストリーム1)と、2020年までの目標の引き上げ(ワークストリーム2)の2つのテーマについての議論が続けられています。今回は、これからADPがどのように議論を進めていくかについて決定することになっていますが、交渉は難航しているようです。

執筆:久保田 泉
(国立環境研究所 社会環境システム研究センター)

※全国地球温暖化防止活動推進センター(JCCCA)ウェブサイトより転載

※国連環境計画(UNEP)による「排出ギャップ報告書」については、国立環境研究所の甲斐沼美紀子、花岡達也が2010年版より執筆者およびレビューアーとして貢献しています。