HarmoNIES No.6
ごみにまつわる社会のしくみを見つめる
ごみにまつわる社会のしくみを見つめる
心に届くサポート制度「ごみ出し支援」を通して
ここ日本でごみを出す時のルールを説明しよう。日本では平均で10から20世帯毎に集積所が設けられている。住人はごみを持って歩いて、または車に載せてその場所まで出しに行く。分別のルールは自治体によって少しずつ違うし、それぞれ出す曜日や頻度も違う。そんななか、高齢になり日々のごみ出しが難しくなる人が増えているという。
キーワード:ごみ出し、ごみ集積所、自治会、地域コミュニティ、超高齢社会
”まるで、目の前で困っている言語の違う人のために
希少言語を熱心に学ぶ心優しい隣人のようだ。”
ここ日本でごみを出す時のルールを説明しよう。日本では平均で10から20世帯毎に集積所が設けられている。住人はごみを持って歩いて、または車に載せてその場所まで出しに行く。ごみの分別ルールも細かく定められている。燃えるごみ、燃えないごみ、プラスチック、ペットボトル、空き缶、紙ごみなど、分別のルールは自治体によって少しずつ違う。それぞれ出す曜日や頻度も違う。そんななか、高齢になり日々のごみ出しが難しくなる人が増えているという。
高齢者にとってごみ出しって大変?
遠い人だと500メートル以上離れていることもあるという集積所に、重いごみを持って出しに行くのは恐らく誰にとっても面倒だ。ましてや高齢になり若い頃のようにいかなくなると、ごみを運んでいる間に転んで怪我をしてしまったり、ルールがわかりにくかったりしてごみ出しがとても億劫になることもある。気力を無くしてごみを溜め続けてしまう場合さえあるという。そして日本はいま、人口の3割近くが65歳以上という超高齢社会である。高齢人口はまだまだ増加し続けている。
高齢者のごみ出しのように、環境と社会の両方に関わる課題を研究しているのが多島良さんだ。今回は、高齢者のごみ出しを自治体職員や地域の人々が助ける「ごみ出し支援」の仕組みに関する研究について、お話を伺った。多島さんは、社会・環境問題に取り組むためには個人のがんばりだけではなく、公共の仕組みを作ることがカギなのではないか-という思いに至りこの分野の研究に注力するようになったのだそうだ。
どんな仕組みがあると助かる?
多島さんは、ごみの管理に関する社会のルールや仕組みや、そのなかで暮らす人々の行動について、調査・分析し、社会・環境問題の解決に繋がる制度を探っている。高齢者のごみ出し支援もそうして着目した改善策の一つだという。多島さんによると、まず現状を把握し、また解決策としてどんな仕組みが有効か、その根拠とともに探るところから研究が始まるのだという。
人知れず丁寧に重ねられる努力
高齢者のごみ出し支援制度を理解するために初めに多島さんが行ったのは、担当職員や地域の声を丁寧に拾うアンケートや聞き取り調査であった。調査する前には自治体と連携して入念な準備をする。この準備が良い研究成果には必須であり、調査に協力してくれる方々の理解と協力を得ることにつながるのだそうだ。調査の目的は高齢者のごみ出しについて現状を知ること、どんなサポートがあると良いか解決策を探ることであると丁寧に説明し、得られた結果は自治体に発信し改善に向けて活用することを伝える。調査に先立って、「こんなサポートが重要かもしれない」「支援の時にこんな課題が生じていないだろうか」という想定を整理し、的確な質問を投げかけられるようにする。
そのような準備と説明により、知りたいことに応えるような回答をもらえたという。拾い上げた情報は、統計的に分析したり、公共政策学の概念やセオリーに沿って解釈したり、研究者ならではの様々な方法で実態を分析することで、その意味を論理的に説明できるようになる。この作業を経て、ごみ出しだけでなく、地域のつながりや福祉といった様々な地域社会の課題を解決する方法としてごみ出し支援制度の輪郭があらわになり、改善案を提示できる形になるのだそうだ。
一市民が自分でそんな作業をするのはとてつもなく大変だろう。調査前の準備といい、調査後の手間のかかる作業といい、誰かの目に留まるものではないかも知れないけれど、丁寧に努力が重ねられている。まるで、目の前で困っている言語の違う人のために希少言語を熱心に学ぶ心優しい隣人のようだ。
多島さんのしていることはそれだけではない。研究成果を取りまとめた後も、制度立ち上げに役立つ情報や、制度を持続しやすくするための情報提供をしている。 例えば、既に導入している自治体の具体事例を共有し、地域住民の協力を得て自治体の負担を軽くできた実例や、住民に安心感を持ってもらう方法を提案したりしている。
心がほっこりする効果
ごみ出し支援の効果として、こんな声も届いている。「高齢者世帯の生活にハリが出た」「一人暮らしの見守り効果で安心感を持ってもらえたし実際に命を救えた」。「ごみ屋敷の防止につながった」というものもある。気遣ってくれる誰かがいると思うだけでも元気になれるものだ。孤独を感じているかもしれない高齢の人たちの心に気遣いや声かけが届くとき、心がほっこりするに違いない。研究者として一歩引いた立場ながら、地域の人々の顔を思い浮かべながら研究する多島さんの情熱は多くのほっこり効果を生み出している。
研究のこれから
ごみ出し支援の導入例
(写真1、2、3)。
災害ごみの処理にも社会の仕組みがとても重要
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