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環境ホルモン研究の今後

 今回の「環境儀」ではダイオキシンを題材に,“環境中の「ホルモン様化学物質」の生殖・発生影響に関する研究”を取り上げました。ダイオキシンを含む環境ホルモンは,人や生態系に影響を及ぼす恐れがあることが指摘されていますが,科学的にはまだ未解明な点が多いのも事実です。このため日本を始め世界各国もこれらに対する研究を進めています。

世界では

 世界中でいろいろな研究が行われています。米国では14の関係省庁・研究機関で構成される内分泌撹乱化学物質関係省庁ワーキンググループ{座長,環境保護庁(EPA)}を設置し,施策の調整・情報交換などを図りつつ,この問題に取り組んでいます。英国では1995年レスターにおいて開催されたワークショップの勧告,国民からの意見などを踏まえて,環境省の外庁である環境庁が2000年3月に,環境中に存在する環境ホルモンを低減する新たな戦略を発表しています。

 また経済協力開発機構(OECD)が1997年,加盟国の活動を調整し,環境ホルモンの試験方法を開発するために,ワーキンググループ(EDTA) を設置し,以後毎年,会合を開いています。欧州委員会(EU)の科学委員会(CSTEE)が今後の研究の必要性,国際協力,国民への情報開示などについて議論し,報告書を発表しています。EUではこれを受け,短期的,中期的,長期的にとるべき戦略を1999年に発表しています。

国内では

 国内の動きとしては環境省がこれらの物質について,優先してその内分泌撹乱作用の有無,強弱,メカニズムなどを解明するための調査研究を推進することを,1998年5月に発表された「環境ホルモン戦略計画SPEED'98」で提言しています。2000年度からは政府のミレニアムプロジェクトにも取り上げられ,試験研究を進め,内分泌撹乱作用が疑われている約70の物質のうち,優先順位の高いものから有害性評価を行うことを決めました。

 そして2000年度においては12物質を優先してリスク評価を実施することとなりました。一方,文献調査,信頼性評価およびエストロジェン様作用を検証するための試験を実施した結果,スチレン2量体・3量体およびn-ブチルベンゼンの2物質については,現時点においてリスクを評価する必要はないとしています。また,環境中でのこれらの物質の検出状況や,野生動物などへの影響に関する実態調査をより進め,環境ホルモンに関する調査研究の内容を情報公開しています。さらに正しい理解を促進するため,地方公共団体,大学の研究会や関係学会,環境NGOなどとネットワークを組み,パンフレットの刊行,講演会やシンポジウムの開催を行っています。

 さらに環境省以外でもこの問題に取り組んでいます。厚生労働省ではとくに食品,飲料水などの安全性の確保,経済産業省では,化学品の安全性評価など,国土交通省では全国の一級河川や港岸における魚のメス化や汚染物質の検出状況,農林水産省では農林や水産の場に対する環境ホルモンの分布や農薬の評価,文部科学省では環境ホルモンの作用メカニズム等,広範囲の調査研究が行われています。各分野の行政を担当する省は,連携を密にし,これらの問題への対策や各種施策に取り組んでいます。

 また,環境ホルモンについて,世界で初めてそれを専門に取り扱う学会(環境ホルモン学会)が生まれ,2000名を超す会員による活動が行われています。

国立環境研究所では

●環境ホルモン総合研究棟が活動開始

 2001年3月,国立環境研究所に環境ホルモン総合研究棟が竣工しました。これは内分泌撹乱作用に関して,質の高い調査研究を進めて行くための拠点として設置されたもので,今後の環境ホルモン問題解明に向けて,一層取り組みを強化していきます。

●施設の概要

 環境ホルモン研究棟は4階建てで,1階は主として水生生物への影響を研究するエリアで,淡水魚(とくにメダカ),カエル,無脊椎動物や海産の巻貝等への影響の研究を行います。2階は化学部門で,環境ホルモンの正確な微量分析法,生物試験法,効率のよい環境ホルモンの評価方法,さらには環境中での汚染状況の解明,分解処理技術の開発等を行います。3階には,試験管理室と会議室があり,4階は健康影響に関する動物実験を行うエリアと情報センター機能を持つエリアがあります。

 付属する大型計測機器としては,MRI(磁気共鳴イメージング),高分解能NMR(800MHz),LC/MS/MS(液体クロマトグラフ質量分析計)が整備されます。MRIはヒト観測用としては最大磁場強度(4.7テスラ)のものであり,高い分解能をもって人間の精巣や脳を直接観察できます。

●研究内容

 国立環境研究所は環境ホルモン総合研究棟を始め,研究本館Ⅲ棟(ダイオキシン関連)等の諸施設を活用し,環境ホルモンに関する以下の研究を進めていきます。

○内分泌撹乱化学物質の新たな高感度分析法の開発,受容体結合性や培養細胞等を用いた生物検定法の確立,またダイオキシンについては簡易な迅速分析法等の開発

○内分泌撹乱化学物質の環境中の分布,生物蓄積等の環境動態の解明

○巻貝,メダカ,鳥類等の野生生物の繁殖への影響の解明

○内分泌撹乱化学物質やダイオキシンのリスク評価と,リスク評価のための動物と人との種差の検討

○ダイオキシンのような難分解性の内分泌撹乱化学物質の分解処理技術の開発

○内分泌撹乱化学物質の環境リスクの管理のための情報システムの開発,地理情報を含む総合データベースおよび対策決定プロセスの検討