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研究者に聞く!!

Interview

鑪迫典久の写真
鑪迫典久
環境リスク研究センター環境曝露計測研究室 主任研究員

 米国では、1995年に、化学物質を特定しないで、生物の応答反応を利用して排水等を規制するWET(Whole Effluent Toxicity)システムが施行されました。市民が直感的にわかりやすい安心指標であることから、日本でも導入をいち早く提案し、率先して活動しています。何もない状態の中で、生物実験に必要なメダカやミジンコの飼育用水槽の設計から始められたという、鑪迫(たたらざこ)さんの今日までの研究成果をご紹介します。

日本版WETでヒトにも生態系にもやさしい環境水を目指す

1.生物実験に必要な設備を1から作り上げる

  • Q: 最初に大学時代のご研究の経歴からお話をうかがいたいと思います。
    鑪迫: 東京大学農学部の林産学科で、リグニンの生物分解に関する研究をしていました。その後王子製紙に入社しました。そこでキノコの遺伝子組換えをやっていたのですが、入社4年目に、つくばにある製紙会社5社が集まって作られた研究所に出向しました。当時、米国では1995年からWET(Whole Effluent Toxicity)が施行されるという情報が入っており、製紙業界は対象になると予見して研究することになったのですが、生物系出身の私にまずメダカを飼う命令が下りました。
  • Q: 今から見ると、ずいぶん先行していたわけですね。
    鑪迫: そうなのですが、95年に米国で施行されても、日本では全く動きがありませんでした。その間、私は日本中の製紙会社の工場を回り、工場排水と周辺河川の生態調査をしていました。そしてなぜか、国立環境研究所に来ないかと誘っていただいたのです。
  • Q: 環境研究所もそういう研究を始めたいと考えていたわけですか。
    鑪迫: いいえ。排水ではなく、内分泌かく乱化学物質でした。
  • Q:環境ホルモンがちょうど話題になっていた頃ですね。
    鑪迫: そうです。SPEED'98(内分泌かく乱化学物質問題への環境庁(当時)の対応方針である環境ホルモン戦略計画)が出て、内分泌かく乱化学物質によって魚が性転換するとか、ワニや鳥などの異常が取りざたされていましたが、実験室でうまく再現できない。そこで、メダカのような小さな生き物を使った試験が必要と考えられ、水生生物試験ができる研究者を探しておられたようです。環境研究所に来てから最初にした仕事は、メダカの流水式曝露装置の設計でした。
  • Q: その装置を設計する時には、当然今までやってこられたことが役に立ったわけですね。
    鑪迫: 民間にいる時から構想はありました。全てオリジナル設計で、材料から吟味して作りました。内分泌かく乱化学物質は微量でも生物に影響し、身近な物質の中にも存在しているので、それらが入りこむ可能性を究極まで減らしました。そこまでやらなくても、という意見もありましたが、誰かが実際にやって結果を出してみる必要があり、それは国立環研究所くらいしか多分できないだろうと思ったので、日本国内でこれ以上のものはないというレベルまでやってみました。水槽はガラス製で、接着剤を使わずに一体成形したものです。洗浄も極力界面活性剤を使わず、熱湯でやります。容器や器具にもプラスチックは使用していません。
  • Q: 当時、そのくらい非常に清浄な環境で環境ホルモンのテストをするという施設は欧米にはあったのですか。
    鑪迫: 米国のダルースにEPA(環境保護局)の研究所があって、そこに同様の施設があります。でもそこの研究者が、うちの装置を見に来て「負けた」と言いましたよ。
  • Q: そうすると世界最高。
    鑪迫: かもしれません。競争相手が少ないですから。

2:世界に認められた生物試験法を実現

写真2点 流水式連続曝露装置の外観(左) ミジンコを取りだしているところ(右)
  • Q:その試験で確かめた結果はどうだったのでしょうか。
    鑪迫: 化学物質によっては内分泌かく乱の影響を確実に示しています。今、日本では内分泌かく乱化学物質問題は終わったように思われていますが、単に話題になっていないだけで化学物質が消えたわけではありません。私たちの周りに内分泌をかく乱する作用を有する物質はまだたくさんあるでしょう。
  • Q:試験をして、結果的に内分泌をかく乱する作用があるとわかった物質はどのくらいあるのでしょうか。
    鑪迫: SPEED'98では、65物質の候補の中から36を調べて環境省がメダカに内分泌をかく乱する作用があると公表した物質は、ビスフェノールA、ノニルフェノール、オクチルフェノールとDDTの4物質です。人によってたった4つという人と、4つもあったのかという人がいます。受け取り方の違いでしょう。当時(1998年)は新しい概念に対する考えやデータが整理されないまま、内分泌をかく乱する物質の候補リストができて、検証する前にメーカーがリストに載っただけで製造を停止したりしたために、社会的な不安や、経済的損失が広がりました。その後、誤解を招くリストを作るのをやめ、2005年から2010年までの間、リストを作らないでどうやって内分泌かく乱化学物質を絞りこむかという妙な議論になって、ちょっと寄り道したかもしれません。2005年から何をやってきたかというと、生物は死なないけど子孫に影響を及ぼすかもしれないという内分泌かく乱化学物質の特徴を鋭敏に検出できる試験法の開発及び見直しをしました。そして、世界の生物試験方法を標準化しているOECD(経済協力開発機構)に日本で行ってきたメダカやミジンコの試験などを提案しました。試験法の必要性が認められた上で、複数の国で同じ化学物質を同じ試験方法でやって結果を相互比較するというリングテストを数回行い、再現性、普遍性、信頼性が確かめられるとOECDのリストに登録されます。昨年までに、やっとメダカ2つとミジンコ、カエルの試験が1つずつ、全部で4つの試験法がOECDのリストに載りました。今まで化審法もそうですが、試験法は、欧米で作ったガイドラインに従っていました。近年は、日本が主導的に提案して、発信したものが採用されているんです。日本も新しい試験方法の開発に貢献できたと自負しています。
  • Q:メダカを使ったのはどうしてですか。
    鑪迫: 世界で試験に使っている小さな魚は、米国のファットヘッドミノー、ヨーロッパのゼブラフィッシュ、そしてアジア系のメダカの3種が有名です。それらを使って試験をやってみると、メダカが優れているところがいくつもありました。例えば、メダカだけが遺伝子でオス、メスが判定できるのです。内分泌をかく乱するような化学物質を与えると、魚は性転換したりするのですが、メダカ以外の魚はオスがメスになったのか、メスがオスになったのか正確にはわかりません。ところがメダカを使うとオスの遺伝子を持っているのに外見がメスになるといった判定ができ、化学物質の影響だと考えることが出来ます。
  • Q:メダカの試験法というのも最初のものからだんだんと改良されているのでしょうか。
    鑪迫: SPEED'98当時から比べると改良されています。以前は女性ホルモン様物質の検出(メス化)に特化していましたが、OECDの専門家会議の中でオス化もわかるような仕組みに変えています。メスの機能(卵を産めるか)への影響も判断に加えています。今、OECDに提案しているのが、母親(父親)から曝露を開始して、その卵がまた母親(父親)になって、そこから産まれた卵がまた大人になるかを観察する、3世代にわたる試験です。SPEED'98では2世代まででした。多世代の影響を人間で調べると大変ですが、メダカでは半年で調べられます。
  • Q:次に、ミジンコの試験法についてお話ください。
    鑪迫: ミジンコは全くホルモンの形がヒトと違います。しかし地球上の生き物の95%は無脊椎動物で、そのほとんどは昆虫ですが、昆虫のホルモンの脱皮ホルモンと幼若ホルモンはミジンコも持っています。だからミジンコを使って調べた結果というのは、ヒトには当てはまりませんが、昆虫とかエビ・カニには通用する可能性があるわけです。
  • Q:ミジンコのホルモンはどうやって発見されたのですか。
    鑪迫: 偶然幼若ホルモンをミジンコに与えてみたのです。ミジンコは通常メスが交尾せずにメスを産んで繁殖していく単為生殖をします。エサが豊富にあって、環境の良い実験室内だとオスはほとんど産まれてこない。化審法のミジンコ繁殖試験も、原則としてオスが出ないという前提で作られています。ところが、幼若ホルモンを与えてみたら、生まれた子供が全部オスになってしまったのです。昆虫のホルモンでミジンコが生む子供の性が偏るという発見を、世界で初めて2002年に国際学会で発表しました。
  • Q:国内での内分泌かく乱物質についての研究はどの程度進んでいるのですか。
    鑪迫: 内分泌かく乱物質だけどうして特別扱いにするかというと、現在の化審法で使われている生物試験は、その個体が生きるか死ぬかに重点が置かれています。でも内分泌かく乱は次の世代が存続するかがポイントです。子供が作れるかとか、その子供がさらに子供を作れるかを調べる必要があります。そのような指標は既存の試験法にないので新しい試験法を作りましょうという事になりました。試験法が出揃うまでにはあと数年かかるでしょうが、試験法ができたら、今度は何を対象に調べるかというスキームを作ります。これは一般化学物質の規制でいい、これはひょっとしたら世代をまたぐ試験をやった方がいいだろう、というスキームを作るわけです。
  • Q:最初は、人間に対する毒性というところから色々な規制が出てきた。今は広く生態系まで考えなくてはいけないという時代の流れでしょうか。
    鑪迫: 気付かないうちに生物が絶滅していくのは、生きていけないからではなく、繁殖できない環境要因が大きいでしょう。死体が転がっていれば気が付きますから。日本は遅れているとは言いませんが、ヨーロッパの方はヒトじゃない生き物に対する保護意識が非常に強い。日本はまだヒト中心ですが、これからはそこが重要だと思いますね。持続可能な生態系という考えは重要だと思います。

3:日本版WET導入に向けて着々と準備

写真2点 生物試験で使用する試験生物種(左) 曝露試験の様子。親ミジンコを移し替えてから仔虫の数を数える(右)
  • Q:実際に米国でWETが始まったということをお知りになった時、どんなふうにお考えになられましたか。
    鑪迫: かなり割り切ったやり方だと思いましたね。日本は化学物質をちゃんと分析してから同定していくのに対して、WETは何も同定しないで、どうやったら減らせるかという対策に行くんです。必ずしも原因が明確にならなくても、毒性影響さえなくなればいい。つまり物質の規制ではなくて影響の規制なんです。その概念は全く新しくて、そこが多分日本人はなかなか受け入れ難いかもしれません。
  • Q:先生ご自身は、WETについては、どのように考えられて、どのような行動をされていらっしゃるのでしょうか。
    鑪迫: まず自分ができるところからやろうと思い、WETで使う生物試験ができる体制を準備して、次に協力してくれる民間企業を探しました。幸いにもいくつかの企業が協力してくれて、WETが導入されたらどうなるかというシミュレーションを一緒にやってみて、データを3、4年分くらい貯めました。また環境省内の若手の勉強会に呼ばれてWETについて話をしたところ、検討だけでも始めようという気運が高まり、大気水局の若手の人たちが種をまいてくれて、そこの予算に乗ったのをきっかけに動き出したんです。環境省主催の委員会では、事務局を担当し、学識経験者を集めて懇談会を開いて、WETをやる必要性、運営形態などを議論して頂き、EPAから関係者を呼んで講演会を開いたりもしました。今年は、日本に導入するにあたって、米国のWETをそのまま利用するには不具合のある部分とか、科学的に古くなっているところを全部直して最新型の日本版WETを作ろうと、マニュアル作成を始めます。来年はWETのリングテストを予定しています。それには、協力してくれるラボが不可欠です。実験設備や実績のある研究機関や企業に集まってもらい、新しいプロトコルでリングテストをやる予定です。それが終わったら実践テストを予定しています。詳細はまだ何も決まっていませんが、例えば県や政令都市単位で、PRTR(環境汚染物質排出・移動登録制度)事業所を対象にして、数十か所を一斉に調査してみたいと思っています。興味を持ってもらってどんどん広げていければいいと考えています。
  • Q:日本でやるとして、技術的にはどんな手法が考えられますか。
    鑪迫: 生物試験は米国を参考にして短期慢性毒性試験というのを検討中です。ニセネコゼミジンコの繁殖試験がその1つです。それを日本にも導入したいと思っています。魚類は、WETに関してはメダカよりもゼブラフィッシュの方が扱いやすいです。卵の孵化までメダカだと10日程度かかりますが、ゼブラフィッシュは3日程度で孵化し、稚魚が泳ぎ出すまで1週間の観察で済みます。藻類の試験は化審法とほとんど同じ試験を検討しています。来年3月に生物試験法マニュアルのドラフトができる予定になっています。

4:WETで地方の環境研究所を活性化

  • Q:仮にバイオアッセイをやって、それで影響が出た場合には、このWETのシステムはその後、どういうふうなことをやるのですか。
    鑪迫: 結果から何らかの改善をした方が良いと思われる事業所には通知をして、改善をしてもらうように促します。改善の方法としては、既に米国で用いられている毒性削減評価(TRE:Toxicity Reduction Evaluation)や毒性同定評価(TIE:Toxicity Identification Evaluation)の方法が参考になると思います。どこまでガイドラインに書き込むかはこれから決まっていくでしょう。必ずしも物質を同定せずに、生物試験の結果を参考にしながら毒性影響を削減する方法なので、ある程度の経験と知識が必要になります。
  • Q:改善手法まで示す点が従前の物質の規制とちょっと違う発想ですね。
    鑪迫: 改善は企業の体力、経済効果、社会貢献度や企業のポリシーに照らし合わせて好きなやり方でやってもらいます。行政は「改善しました」と報告を受けた時に、再検査して、何らかの承認の印を与える。承認をもらった企業はどんどんPRする。市民はそれを聞いて、「あの企業の排水は環境負荷まで考慮して、野生生物にもちゃんと気を使っている」とみてくれるので企業のステータスも上がるし市民も安心を得られます。
  • Q:WETが日本に導入されるとすると、実際に試験する機関、例えば自治体だとかそういった所になるのですか。
    鑪迫: 地方自治体の地方環境研究所に最初の段階の生物試験をやってもらえないかと考えています。地方の活性化にもなりますし、実際に地元で環境測定をやっているところですから、やり方さえ教えてあげれば出来ると思います。最初は3つの試験のうちの1つだけでもいい。例えば、3県で別々にひとつひとつ手分けしてやって、結果を纏めてはどうだろうか。民間の環境コンサルタント会社にも協力してもらいます。だからある段階から、教育とか研修が主要になるかもしれません。
  • Q:日本の場合は、公害があった頃はずいぶん問題があったにしても、今いろんな面で解決していますね。ただこの部分はまだ残っていたということなのでしょうか。
    鑪迫: そうです。通常の事業所排水は、CODなどの排水基準を順守していますが、生物影響の観点では、大きな影響を与える排水もあれば、あまり影響を与えない排水もあります(図6参照)。今、世界では、5000万種化学物質が登録され、ここ1年間で1000万種増えています。日本でも、年間300~400種が新たに登録されています。ですから、そのひとつひとつについて、生物への影響を確認することは、お金も時間もかかり、現実的ではありません。そこで、未知や未規制の化学物質に対して、とりあえず環境影響を大ざっぱに見るWETのようなやり方と、PRTRとか化審法での、特定の化学物質の規制を両立させないと、管理が間に合わなくなるし、複合影響についてもWETのような手法を用いないと対応できないでしょう。今、河川を調べると、医薬品の風邪薬とか抗生物質等が検出されます。それが上水にも入っているので、みんなそれを飲んでいるのではないかと心配して、大きな問題になっています。それらの規制は厚生労働省で検討しているようですが、それは排出基準の規制になります。排水として放流された後の評価はやっぱりWETの様な手法を使うしかないだろうという気がします。
  • Q:今後ご自身としてはどんなふうにやっていきたいとお考えですか。
    鑪迫: 環境ホルモンの時の大騒動と、いつの間にか鎮まったのを間近で見て知っていますので、慌てないで、利害関係のある人たちの合意も得ながら、winwinでやらなければいけないと思っています。環境省だけではなくいろいろな省も関係してくる。WETはリスク予知(Risk Prediction)のための手法で、あくまでも環境負荷の可能性を示しているにすぎません。しかし、これがもっとも大切なことですが、野生生物と共存しながら市民が安心して暮らせるための仕組みになれば良いと考えています。ゆっくり、着実に広げていこうと思っています。
  • Q:どうもありがとうございました

コラム

  • 無脊椎動物を用いた試験法の概要(オオミジンコ繁殖試験)
図1 ミジンコを用いた試験法
 化学物質による雄仔虫の発生の有無を調べることによって無脊椎動物の内分泌かく乱の影響(幼若ホルモン作用)を明らかにする試験法が、OECDテストガイドライン211のANNEX7として採用されました。従来の仔虫数減少だけによる有害性評価は、仔虫に雄が増えた場合の有害影響を正当に検出できていませんでした。簡易な幼若ホルモン作用をもつ化学物質のスクリーニングに用いることもできます。
  • 幼若ホルモン様物質によるミジンコ仔虫の性比の変化
図2 無脊椎動物の内分泌かく乱の例
 ミジンコに幼若ホルモン様物質(昆虫の幼若ホルモンや農薬など)を投与すると、生まれてくる仔虫の性比が濃度依存的に雄に偏ってきます。何も投与していないときにはほとんど雄は生まれてきません(雄は数千匹に1匹程度)。個体数だけに注目して性を見落としていると、再生産に関与しない雄ばかりになってしまって、次の世代が作れなくなってしまい、いつの間にか絶滅する可能性があります。
図3 ミジンコの雄雌
  • 内分泌かく乱化学物質の影響を確定するための試験法
     日本と米国環境庁が共同で、メダカを用いた内分泌かく乱化学物質の確定試験法を開発しています。3世代にわたり、約半年間の曝露期間を有する試験法です。部分的には幾つかの既存試験法の組み合わせで構成されており、ほとんどすべての観点からの有害性影響を検出できるようになっています。
図4 メダカ多世代試験(multi-generation test)
  • ノニルフェノール(女性ホルモン様内分泌かく乱物質) をメダカに投与した時の精巣の異常
図5 内分泌かく乱の組織学的な観察
 メダカの組織切片の写真です。Aが正常な雄の精巣。Bが正常な雌の卵巣です。CおよびDが、ノニルフェノールを23.5,44.7μg/L投与した時 に現れた精巣卵の写真です。精巣卵というのは、精巣中に存在する卵細胞を指します。化学物質によって雄の精巣がメス化(卵細胞の出現)したことが観察されました。化学物質の濃度に依存して卵細胞の量が増えています。
  • 事業所排水の生物試験の結果
図6 日本版WETの試行
 排水基準を遵守している12か所の事業所排水について、藻類、魚類、甲殻類の短期慢性毒性試験と発光バクテリアの急性毒性試験を行いました。縦軸の数値は、影響のなかった排水濃度(%)の逆数×100(=毒性単位:Toxicity Units)で示しています。棒の長さが長い方が毒性が強くなります。横軸は工場を記号で示しました。D工場はすべての生物に対して影響が大きく、E、Fは藻類に対する影響、H、Lは甲殻類に対する影響が大きいことがわかります。
  • 米国環境庁で行われている毒性削減評価手法の概略
図7 毒性削減評価(TRE:Toxicity Reduction Evaluation)・毒性同定評価(TIE:Toxicity Identifi cation Evaluation)
 事業所排水等に生物影響があると確認された場合に、その影響を削減するための手法としてTREが提案されています。まず最初に様々な情報を収集して、既存の知見から生物影響の原因となる要因を推測し、それらの改善によって影響が削減された場合にはフォローアップに移行します。もし既存の知見で生物影響を削減できなかった場合には毒性同定評価(次の図に示す)に移行します。原因物質(群)が判明したら、原因物質の発生源またはプロセスで対処するか、終末処理を強化して対処するかは事業所の判断となります。影響の削減に成功したら、継続監視に移行します。

 TIEにおける同定とは、原因となる化学物質を単離して物質名を明らかにすることではなく、原因となる化学物質群の物理化学的特徴を明らかにして、それらを除去または無毒化するための方策を探ることを意味しています。
  • 日本版WETの概略図
図8 日本版WETの適用のフロー
 事業所の排水は、まず既存の排水規制をクリアしているかどうか確認します。もしクリアされていない場合は既存の法律が優先されます。現行の規制を満たしている排水に対して生物影響を調べます。その試験結果がある基準値以内に収まっている場合は、問題なしとして、定期的な継続監視を行います。基準を超過している場合には、TRE(毒性削減評価)およびTIE(毒性同定評価)を行うことによって毒性の削減を行い、その効果が確認できた場合には定期的な継続監視に移行します。