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2012年1月31日

研究者に聞く!!

Interview

笠井文絵の写真
笠井文絵
生物・生態系環境研究センター
生物資源保存研究推進室長

 国立環境研究所の藻類コレクションには現在約850種、3000株の藻類と原生動物が保存されており、日本における藻類保存の中核機関として活動しています。このコレクションがいかにしてつくられ、どのような成果をあげてきたか、また今後の課題は何か、長年このコレクションにたずさわってこられた生物資源保存研究推進室長の笠井文絵さんにお話をうかがいました。

藻類の系統を保存する

1: 赤潮やアオコの研究から藻類の総合的なコレクションへ

  • Q: 藻類コレクションが始まるきっかけは何でしたか。
    笠井:藻類コレクションは1983年にスタートしました(図1)。1980年代初めは赤潮やアオコが深刻な環境問題になっていて、当時の国立公害研究所(国立環境研究所の前身)では、生物と水環境という2つの面から、赤潮やアオコがどのようなメカニズムで発生するのか、あるいはどのようにしたら発生を抑えることができるのかといったことを解明するための研究が盛んに行われていました。その過程で赤潮やアオコを作る藻類がたくさん分離され、培養株が作られました。実は、大量発生する藻類を培養するのは難しい場合が多いのです。また、今でこそ様々な培養液が開発され、培養できる種類が増えましたが、当時は培養液から開発する必要があり、当時の日本のコレクションには、このような環境問題に関わる株(この当時は環境問題を引き起こす株が中心)が保存されていなかったのです。当時の研究者はとても苦労されたと思います。そして、それらの株をベースに藻類コレクション(以後NIESコレクションと呼ぶ)がスタートしました。
図1 NIESコレクションの業務が行われている環境生物保存棟
平成14年に完成した新棟(A)はRC3階建て延べ床面積1200m2、隣の旧棟はRC2階建て延べ床面積800m2です。継代培養株の保存(B)、凍結保存室の液体窒素槽(C)。
  • Q: その後、他の藻類もコレクションしていくことになるわけですね。
    笠井:近くの筑波大学は、古くから系統分類学の歴史があり、陸上植物の起源となる藻類の研究が行われていました。その過程で、主にプラシノ藻と呼ばれるグループの様々な藻類が分離され、NIESコレクションに寄託されました。それらは、世界の他のコレクションには余り保存さていないグループであり、NIESコレクションの特徴となりました。それらの株を使ったオルガネラ*のゲノム解析が盛んに行われた時期があり、現在でもDNAデータはよく論文に引用されています。

     また、2002年から文部科学省の「ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)」*が始まりました。その中核機関としての活動の過程で、東京大学、筑波大学、国立科学博物館に保存されていた微細藻類株がNIESコレクションに集約されました。東京大学からは日本の研究者が開発し、光合成研究や遺伝学のモデル生物として古くから使われていた多くの株が移管されました。筑波大学からは、進化のキーとなる「新奇」分類群が寄託され、保存株の多様度が一気に増しました(図2)。これらは、単に「新奇」というだけでなく、生態系の中で重要な役割を果たしており、今後の生物多様性等の研究におおいに貢献する株だと思っています。また、国立科学博物館からは多数のアオコ形成藻(主にミクロキスティス属とアナベナ属)が寄託され、それまでの霞ヶ浦を中心とした株に、新たに日本中の富栄養湖から分離された株が加わりました。
NIESコレクションに保存されている藻類のグループ別構成の図
  •  NIESコレクションには多様な系統が保存されています。アオコ形成藻ミクロキスティス(A)、好塩性のスピルリナ(B)、赤潮形成藻シャットネラ(C)とヘテロシグマ(D)、好熱性のシアニディオシゾン(E)、真核ピコプランクトンのミクロモナス(F)、バイオアッセイに使われるプシュードキルヒネリエラ(G)、有性生殖のモデル生物クラミドモナス(H)、光合成のモデル生物クロレラ(I)、陸上植物の起源となるメソスティグマ(J)、スケールバー=10μm。
NIESコレクションに保存されている藻類の代表種の写真
図2 NIESコレクションに保存されている藻類のグループ別構成(上)と代表種(下)
  • Q: 藻類のコレクションを実施していく上で苦労された点は?
    笠井:私は藻類コレクションのスタートとともに採用されましたが、その当時は、保存株数も少なく、今と違ってまだ多くのことが紙で管理されていた時代です。しかし、当時の室長から、保存株に関するデータは最初から電子化しておくようにといわれました。そこで、保存株を管理するためのプログラムを作ることから始めたのですが、すぐにギブアップしてしまい、結局、教えてもらった人に作ってもらいました。保存株の多くは定期的に植えかえる必要があります。しかも、株によって植えかえの周期がまちまちです。保存株数が少ないとはいえ、それでも植えかえを忘れてしまう株があり、一度も姿を見ないうちになくしてしまった株がありました。それを教訓に、植えかえのスケジュールをパソコンで管理するシステムを作ってもらいました。それは株数が増えた現在、とても威力を発揮しています。

2:藻類は食物網や物質循環で重要な役割を果たしている

  • Q:藻類とはどのような生物なのでしょうか。
    笠井:一般に最もよく知られているのはコンブ、ワカメ、ヒジキといった食用にされる海藻でしょう。イカダモ、ミカヅキモ、ボルボックスという名前を知っている小中学生もいるかもしれません。藻類は「酸素を発生する光合成生物から種子植物、シダ植物、コケ植物を除いたもの」と定義されています。このような漠然とした定義は、藻類がどのようにして形成されたかを物語っているのですが、それについては既に環境儀No.37で河地さんが説明していますので、それを参照してください。進化的な多系統性に加えて、藻類は1ミクロンに満たない微小なピコプランクトンから50メートル以上に生長する海藻まで、大きさも多彩です(図3)。また、NIESコレクションではここで定義されたような藻類だけではなく、それに近縁の無色の従属栄養生物(いわゆる原生動物)も保存しており、それもNIESコレクションの特徴になってきています。
図3 様々な大きさの藻類:微小なピコプランクトンから50mをこす海藻まで
1~2μmと微小で水界の一次生産者として重要なシネココッカス(A)、窒素を固定するアナベナ(B)、直径十数μmでイオウ循環のキーとなるエミリアニア(C)、長径数十μm沿岸域の主要な生産者珪藻(D)、直径が100~数百μmに達するボルボックス(E)、藻体が10cm~1mに及ぶシャジクモの仲間(F)、世界最大の海藻で50m以上にも生長する褐藻マクロキスティス(G)。Gの写真提供:国立科学博物館北山太樹氏
  • Q:藻類が自然界で果たしている役割にはどんなものがありますか。
    笠井:まず一次生産者*としての役割があります。地球上の基礎生産*の半分近くが海で行われているという報告があります。そして海の一次生産者のほとんどすべてが藻類です。その藻類が行う光合成では、太陽エネルギーを使って二酸化炭素と水から有機物が作られ、酸素が発生します。だから、人間が呼吸する2回に1回は藻類が作った酸素を吸っているんだ、といって藻類の重要性を子供たちにアピールした海外のコレクション関係者もいました。

     水界の食物連鎖の始まりは藻類であり、その藻類は動物プランクトンや魚の餌になり、水の中の動物を支えています。もちろん、その魚を人間がたべるというふうに食物連鎖を通して人間の食糧になっているという言い方もできます。また、抗酸化物質であるアスタキサンチン、EPAやDHAといった高度不飽和脂肪酸は、藻類によって作られたり、あるいは一部を藻類によって補填されたりして魚に蓄積するので、水産業の観点からは養殖魚の餌として、そのような栄養価の高い成分を多く含んだ餌藻類の選抜が世界的に行われていたりします。

     一方で植物プランクトンに始まる古典的な食物連鎖のほかに、微生物食物網と呼ばれる溶存有機物やバクテリアを介した食物網が知られています。シアノバクテリアを始めとして藻類の中には様々な有機物を分泌する種があり、その有機物を利用してバクテリアが増え、さらに混合栄養の藻類や従属栄養生物がそのバクテリアを餌にしているといった関係です。従って、藻類は植物プランクトンを底辺とする古典的食物連鎖ばかりでなく、微生物食物網を介した炭素の循環においても重要な役割を果たしているといえます。そのほかに、窒素を固定したりイオウやケイ素の循環においても重要な役割を果たしています。

3:保存株の品質を維持するには日常業務が重要

  • Q:どれほどの数の藻類を保存しているのですか。
    笠井:NIESコレクションには20門、50綱、430属、850種、3000株の藻類と原生動物が保存されています。種数や属数では、世界の他のメジャーコレクションに及びませんが、門や綱といった高次の分類群の数は他に比べて多く、その意味で多様な系統が保存されているといえます。もっとも、現在知られている藻類の種数約4万種、存在すると考えられる推定種数は30万種以上といわれ、それに比べると全世界の藻類コレクションに保存されている株数を合計しても微々たるものとしかいえませんが。
  • Q:実験用の藻類も保存しているのですか。
    笠井:はい。バイオアッセイ*にもちいられる株や光合成や有性生殖のモデル生物として使われているクロレラやクラミドモナスといった株も保存しています。クロレラやクラミドモナスは、2007年に東京大学分子細胞生物学研究所のコレクションが閉鎖された際にNIESコレクションに移管された株ですが、古くから生理・生化学、遺伝学の研究材料として使われ、多くの論文が発表されています。
  • Q:培養株はどのように保存されているのでしょうか。
    笠井:受け入れが決まった株はまず継代培養します(図4)。これは藻類の増殖が定常期を迎える頃に新鮮な培地に少量植えて増殖させるという方法です。種類によって増殖速度が異なるため、次の植継ぎまでの期間は短い場合は1週間、長い場合は6ヶ月ほどです。種類によって培養液の組成や培養温度、光の好みも異なるので、継代培養は非常に手間のかかる保存法です。藻類には液体窒素の中で凍結保存することができる種類もあります。そこで、これまでに凍結保存が成功している種の場合は凍結条件や凍結後の生存率を確認してから凍結保存に移行します。凍結保存の前例がない種でも、凍結保護剤の濃度を検討し、凍結後の生存率がある程度確保できれば凍結保存に移行します。現在、約1000株(全保存株の3分の1)が凍結保存されています。

     凍結保存は、一度凍らせてしまえばその後の手間がかからないため非常に効率的な保存法ですが、藻類で凍結保存ができる種はまだ限られていて、多くの種が継代培養されているのが現状です。継代培養では生きた細胞を植え継ぐため、途中で死んでしまう可能性もあります。また、植え継ぎ作業は無菌室で行われますが、雑菌が混ざってしまう可能性もあります。目視や実体顕微鏡を使って増殖状況を調べたり、無菌検査を実施したりするのも系統保存のためには必須の業務です。
図4 保存業務の流れ
  • Q:保存されている培養株を研究に利用したい場合はどうすればよいですか。
    笠井:NIESコレクションのホームページを見ていただくと、そこから直接分譲依頼ができるようになっています。分譲の際には必ずMTA(材料の移転に伴う同意書)を交わすことになっていますので、ホームページで注文した後には必ず署名捺印した「微生物株分譲依頼書兼同意書」を郵送していただいています。これを確認してから培養株を発送します。藻類の培養経験のある方への分譲が原則ですが、そうでない方からの依頼もしばしばあり、培養法の講習会などが必要ですが、手が回っていないのが現状です。
絶滅危惧藻類の採集と保存の写真
絶滅危惧藻類の採集と保存

4:見る目をふやすことが絶滅危惧種の保全につながる

  • Q:絶滅危惧種のコレクションもNIESコレクションの特徴ですね。
    笠井:現在NIESコレクションで保存しているのは、絶滅が危惧される藻類の中でも淡水産の紅藻の仲間とシャジクモの仲間です。本来は生息している場所で保護されるのが理想で、いくつかの機関によってそのような試みも行われているようです。しかしそれが実を結んで生息場が保全される前に絶滅してしまう種もあるでしょう。せめてその種がなくなってしまわないように培養株として保存しよう、培養株にして保全研究の研究材料を提供しようというのが絶滅危惧藻類保存の目的です。

     国立環境研究所では1990年代半ばに湖に生息するシャジクモ類の調査が行われ、その時の調査結果は多くの湖からシャジクモ類が消えてしまったことを示していました。そして、その時に採集されたシャジクモの仲間が絶滅危惧種の保存のスタートです。

     2002年に環境試料タイムカプセル化事業が開始された時に、藻類についても本格的に絶滅危惧種の保存を開始しましたが、この時同時に、今度は湖ではなくため池などの浅い水界を対象にしたシャジクモ類の生育調査も始め、主に香川県をフィールドにしました。
  • Q:シャジクモ類に着目しているようですが、どのくらいのシャジクモ類をコレクションしていますか。
    笠井:現在までにシャジクモ類は30種類ぐらいが培養株になっています。当初、過去に調査記録のあるため池、これは主に平地にある大規模ため池なのですが、こういった所を調査しても全くと言っていいほどシャジクモの仲間を見つけることはできませんでした。ところが、山間の小さなため池の調査を始めてから、格段に保存株の種数が増えました。2007年にレッドリストの改訂があり、それまでの湖に生息する種に加え、ため池などの浅い水界に生息する種が加えられ、シャジクモ類の絶滅危惧種は52種に増えました。ですから、まだやっと半分程度しか培養株になっていないことになります。しかし、やっとこれだけ収集できたというのが実感です。過去の記録を見ているともともと生育報告の少ない希少種もあり、今回の調査ではそれらはほとんど見つかっていません。
  • Q:絶滅危惧種の保存で難しい点は何ですか。
    笠井:絶滅危惧種の藻類について、どの種がどの程度の量(個体数)、どの程度の範囲に分布しているのか、といった定量的な調査報告は日本では全くありません。また、種によって光の利用効率が異なることが知られていることから、ある特定の種が絶滅しやすいかもしれないし、反対に分布を広げている種もあるかもしれません。まだまだ調査不足です。その原因の1つはシャジクモ類の研究者が足りないためですが、シャジクモの仲間がどこにいるのか知っている水草研究者やアマチュアの方達は結構いるのではないかと思っています。ところがその人たちの大きな障害になっているのは、専門外の研究者にわかりやすい解説書や図鑑がないことです。私たちも種の同定にはとても苦労しました。専門書を参照し、たくさんのサンプルを観察し、分子系統解析までして、なんとなく藻体の形からある程度の同定ができるようになった段階で、その経験をまとめて「しゃじくもフィールドガイド」という小冊子を作りました。そして主に水草研究者に、まるで押し売りのように送ったのです。これまでの「シャジクモの仲間は全くわからない」から少しでも脱却することに役立ててもらえればと思っています。見る目を増やすことがシャジクモの仲間の本当の「危機」を見極めることへつながるからです。
図5 香川県のため池におけるシャジクモ類の変遷
1940年代と1980年代のシャジクモ類調査報告があるため池を2004年~2011年に再調査しました。緑丸はシャジクモ類が見つかった池(18池、写真上)、黒丸は見つからなかった池(25池、写真下)。現在もシャジクモ類が生育しているため池の多くは丘陵地の小規模ため池であり、平野部の大規模ため池からは消滅したことを示しています。 [分布図はプロアトラスSV(株式会社アルプス社)を使って作成されました]

5: 藻類の魅力を伝えたい

  • Q:藻類コレクションの今後の課題は何でしょう。
    笠井:第一に品質管理です。NIES株はこれまでも品質には定評がありましたが、今後はそれが絶対的なものであることが求められる時代になります。科学技術が高度化すると、研究材料にも精度が求められるわけです。
     具体的には、ISOなど国際的に認められた機関の認証を受けることも視野に入れる必要があると個人的には思っています。また、「品質管理」の中には、DNAバーコーディングによる系統管理のように株の科学的な裏づけ作りも含まれ、今後ますます重要になるでしょう。

     2番目はデータベースの活用です。現在は学名や産地などの基礎情報、サイズ、遺伝子情報などが株情報として公開されています。しかし、株を利用した文献からその中の情報をデータベースに登録する作業が追いついていない状況です。今後は、株情報を充実させ株の利便性を高めることがますます重要となるでしょう。研究者としては情報がたくさんついている株の方が使い勝手がよいのです。
  • Q:最後に藻類の魅力は何でしょう。
    笠井:研究材料としては多様性、同じ性質をもった細胞を増やせる、微細藻類の場合は取扱いやすさといったところでしょうか。単純に生き物としての魅力はというと「色」と「形」です。研究材料を藻類にかえて初めて顕微鏡でのぞいた時の感動は、初めてカラーテレビを見た時の感動と同じでした。研究材料としていたミカヅキモは、顕微鏡でみると草や葉と同じ緑色なのですが、とてもきれいでした。その後、国立環境研究所に来てから様々な藻類を観察したり分離したりする機会がありましたが、今度は青緑色、薄紫色、黄金色と、色も様々な上に形も様々で、小さな生き物の巧みさに感動しました。毎年7月に行われている「夏の大公開」では、生きた藻類を性能のよい顕微鏡で観察することができます。また、教育用に使う藻類培養株は無料で提供しています。小中学校の先生に利用していただき、子供の頃から藻類に親しみをもってもらえたらと思います。
  • Q:ありがとうございました。

メモ

  • オルガネラ
    細胞内にある葉緑体やミトコンドリアといった小器官のこと。
  • ナショナルバイオリソースプロジェクト
    世界標準となるような研究材料を整備するため、様々な生物種(例えばマウス、ショウジョウバエ、メダカ、イネ、シロイヌナズナなど)のそれぞれに保存と提供の拠点機関を整備することを目的とした文科省の推進するプロジェクト。
  • 基礎生産、一次生産者
    光合成や化学合成によって無機物から有機物をつくることを基礎生産といい、その過程を担う生物を一次生産者という。
  • バイオアッセイ
    生物をもちいて水質や化学物質などの生物に対する影響を総合的に測定する方法

コラム

河地正伸 生物・生態系環境研究センター主任研究員の写真
  • DNAバーコーディングによる藻類の種の同定
     微細藻類の種を同定するには、通常、顕微鏡で観察して、形態的な特徴を調べる方法がとられますが、形態的な特徴だけでは同定が難しい種や長年の培養で形が変わってしまうようなことがあります。一方で、最近ではDNA配列の相同性を基に種を同定する手法がよく使われるようになりました。Web上で公開されているDNAデータバンクには多数のDNA配列が登録されていて、目的のDNA配列に近い配列を検索することが可能です。特に18SrRNAや16SrRNA遺伝子は、多数の生物種で登録されていて、種の同定によく使われています。何だかよく分からない生物でも、こうした遺伝子のDNA配列を決定して、DNAデータバンクで検索すると、種名や近縁な種の情報を容易に得ることができます。

     こうした考え方を発展させたのが、DNAバーコーティングです。特定の遺伝子領域を使って生物種を同定する手法で、Consortium for the Barcode of Lifeという国際組織から提案されました。DNA配列を商品バーコードのようにとらえて、商品名や価格等の情報を読み取るように、種を簡便に同定するというものです。動物や昆虫などの多くの後生動物では、ミトコンドリアのCOI遺伝子がよく使われています。種内の変異が少なくて種間変異の大きい領域であること、多数の配列情報が登録されていることがよく使われる理由ですが、こうしたメリットは、多様な系統群で構成される藻類の場合、うまく当てはまらないようです。登録数が充実していて、種をある程度の精度で同定できる点で、18S rRNAや16S rRNA遺伝子の方が、藻類のDNAバーコーディングに向いているようです。

     NIESコレクションでは、現在、形態的な特徴で種同定が難しいものを優先して、18S rRNA や16S rRNA遺伝子などの配列を決定して、相同性の検索や系統解析などを行っています。解析の結果、種名や所属分類群の誤りを訂正することもあります。保存株の利用者や種の同定等に広く利用できるように、随時DNAデータバンクに登録して、その登録番号を保存株情報として公開しています。分類学の進展とともに種名が変更されることがありますが、保存株番号や遺伝子登録番号は変わることのない、保存株のアイデンティティを示す情報です。コレクションの品質管理を行う上で、こうしたDNAバーコーディング情報は必須の情報と言えます。

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