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衛星「みどり」による海洋観測

環境問題豆知識

原島 省

 1996年に宇宙開発事業団によって打ち上げられた衛星「みどり」には,OCTS(海水色水温スキャナー)という,全球規模で海洋の植物プランクトンの分布を計測するセンサーが搭載されていました。この原理と用途について述べてみましょう。

 海水中では,青い光が比較的通りやすいので,植物プランクトンは,進化の過程で,主にこの青い光を吸収する光合成色素を身につけてきました。したがって,海水中の植物プランクトンが多くなるほど,海面から上がってくる光のスペクトルの緑色光/青色光の比が大きくなってくるのです。1978年にNASAによって打ち上げられたニンバス7衛星にはCZCS(沿岸海域水色スキャナー)センサーが載せられていましたが,このセンサーがこの原理を利用した最初の海水色センサーで,OCTSの兄貴分になります。

 ニンバス7衛星のTOMS(オゾン計測センサー)によって南極のオゾンホールが明らかになったのはあまりにも有名ですが,CZCSの働きも,決してひけをとらなかったのです。このセンサーは,大陸棚や沿岸海域で植物プランクトンが多く,黒潮などの亜熱帯海域で少ないこと,プランクトンの春季大増殖が中緯度から高緯度に桜前線のように伝播してゆくことなど,私たちの「水の惑星」が,休みなく息づいているありさまを写し続けてくれたのです。

 近年,アジア域では,人口増加,経済的発展,土地利用・水利用の変化などが顕著で,このために,海洋の植物プランクトン分布など,広域の生態系が変化してゆくことが懸念されています。この海域の環境保全のために,UNEP(国連環境計画)によってNOWPAP(北西太平洋地域海行動計画)が策定され,この海域を取り囲む5カ国の共同による海洋モニタリングや,データベースづくりを今後どうするかについて議論が始められています。

 国立環境研究所地球環境研究センターでは,東海大学,遠洋水産研究所との協力により,兄貴分のCZCSセンサーのデータから,北西太平洋域の1978〜1986年の各月ごとの複合画像をデータベース化し,CD-ROMを作成しています。図はそのうちの,1980年4月の画像です(この色は植物プランクトンの濃度をコンピュータの配色で表したもので,本当の海の色ではありません)。CZCSが稼働を休止してから,10年近く海水色センサーの空白時代が続いておりました。そのため,跡を継いだOCTSセンサーには世界中の期待が寄せられていましたが,残念なことに約7カ月の稼働の後に休止してしまいました。私たちはこのような事態にくじけることなく,得られたデータから海洋の変動を読みとる努力をする必要があるでしょう。

図
図 北大西洋域の1980年4月の植物プランクトン分布(CGERデータベースD015 (CD) -‘97より抜すい)
衛星「みどり」OCTSセンサーの兄貴分である CZCSセンサーの1カ月分のデータから作成した複合画像による。

(はらしま あきら,地球環境研究グループ 海洋研究チーム総合研究官)