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国立環境研究所特別研究報告(特別研究) SR-35-2001
「超低周波電磁界による健康リスクの評価に関する研究」(平成9~11年度)(平成13年1月発行)

 電力利用の増加した現代社会では日常的となっている超低周波電磁界への暴露によって白血病や脳腫瘍などのリスクが上昇している可能性についていくつかの疫学報告が指摘している。これらの報告で示されているレベルは、これまで安全とされてきたレベルより極端に低いレベルであり、さらに超低周波電磁界への暴露をうけている人口は非常に大きいことが予想されるため、示唆される健康影響の検証が急務である。本研究では,日常の生活で実際に経験しうる暴露レベルの範囲内で、精密にコントロールした実験条件下でのヒトへの暴露実験を行って,生理・生化学的変化の有無を観察したが,超低周波電磁界への暴露による変化は観察されなかった。さらに、電磁界に対して感受性を持つとされているヒト由来培養細胞を用いた暴露実験を行い,その結果について報告した。また,高圧送電線沿線の住民等を対象として超低周波電磁界への暴露レベルの実測調査を行い,暴露にかかわる要因を明らかにした。

(PM2.5・DEP研究プロジェクト 新田 裕史)

国立環境研究所特別研究報告(特別研究) SR-36-2001
「湖沼において増大する難分解性有機物の発生原因と影響評価に関する研究」(平成9~11年度)(平成13年1月発行)

 近年,多くの湖沼において,流域発生源対策が精力的に行われているにもかかわらず,何らかの難分解性溶存有機物(DOM)による水質汚濁が進行している。湖沼環境および水質保全上,この新しいタイプの有機汚濁現象を理解する必要がある。
 本研究では,湖沼で蓄積する難分解性DOMの発生原因と難分解性DOMが湖沼生態系や水道水源としての湖沼水質に及ぼす影響について研究を実施した。成果として,典型的な難分解性DOMであるフミン物質の分離に基づいてDOMのマクロ分画手法が開発・確立され,湖水DOMや難分解性DOMの特性・動態がかなり具体的な形で明らかとなった。湖水で蓄積する主要な難分解性DOMは,フミン物質(疎水性酸)ではなく,わずか分子量600の親水性酸であった。下水処理水の難分解性DOMへの寄与は無視できない程大きく,冬季には全流入河川水の寄与に匹敵した。また,フミン物質は鉄との錯化反応を介してアオコを形成するラン藻類の増殖・種組成に大きな影響を及ぼすことがわかった。さらに,トリハロメタン前駆物質としては,従来代表的と考えられていたフミン物質よりも親水性DOMのほうが重要であることが明らかとなった。

(水土壌圏環境研究領域 今井 章雄)

国立環境研究所特別研究報告(特別研究) SR-37-2001
「環境中の『ホルモン様化学物質』の生殖・発生影響に関する研究」(平成9~11年度)(平成13年1月発行)

 近年の急速な化学工業の発展によって,多数の化学物質が環境中に放出され,環境汚染を引き起こしている。これらの化学物質の中にはホルモン様作用を示すものがありホルモン様化学物質=環境ホルモンと呼ばれている。ホルモン様化学物質は野生生物において生殖・発生影響を及ぼすことが報告され,ヒトにおいてもその影響が懸念されている。本研究では,さまざまな内分泌かく乱作用を有し,典型的なホルモン様化学物質であるダイオキシンをとりあげ,ダイオキシンの生殖・発生影響のリスク評価のための基礎的データを得ることを目的とした。本研究では主にラットを用いて,妊娠期に投与したダイオキシンの仔への影響を,胎盤機能,雄性生殖機能,甲状腺機能,免疫機能を中心に検討し,いくつかの指標については,きわめて低濃度から影響が見られることを示した。また,ダイオキシンの作用メカニズムの解明,スクリーニング手法の開発に関する細胞を用いた研究,ヒト試料中のダイオキシン濃度と病態との関連についての研究についても報告している。

(環境ホルモン・ダイオキシン研究プロジェクト 米元 純三)

国立環境研究所特別研究報告(開発途上国環境技術共同研究) SR-38-2001
「富栄養湖沼群の生物群集の変化と生態系管理に関する研究」(平成7~11年度)(平成13年1月発行)

 本研究では,まず揚子江中下流域の浅い富栄養湖沼の環境問題(特に生物資源の劣化)の現状を文献調査から把握するとともに,三峡ダムの直下に位置することなどから,今後生物相が大きく変化することが予想される,中国で第2の面積をほこる洞庭湖の水質と生物の調査を行った。洞庭湖の生物調査は漁獲統計以外これまで全く行われていない。さらに,都市近郊に位置する東湖の長期生物データを整理し,人為的変化による生態系の変化とその要因を検討した。この結果を踏まえ,中国都市郊外に位置する過栄養湖の生態系管理手法として,ろ食性魚類ハクレンを用いたバイオマニピュレーションの有効性について,霞ヶ浦において行った隔離水界実験によって検討した。

(生物多様性研究プロジェクト 高村 典子)

国立環境研究所特別研究報告(革新的環境監視計測技術先導研究) SR-39-2001
「大気有害化学物質監視用自動連続多成分同時計測センサー技術の開発に関する研究」(平成9~11年度)(平成13年6月発行)

 本報告書は,平成9年度から11年度にかけて実施した革新的環境監視計測技術先導研究の成果をとりまとめたものである。大気中の化学物質がもたらす健康リスクが懸念されるようになり,平成8年度に大気汚染防止法が改正され,化学物質の大気汚染リスクに対する取り組みが強化された。汚染状況の継続的なモニタリングがリスク管理の根幹となるが,数多い化学物質を連続自動モニタリングする実用的な装置は開発されていなかった。そこで,大気中に高濃度で存在する揮発性有機物を対象に自動モニタリング装置の開発を行った。GC/MSを中心として,精度管理を自動的に行えるシステムも組み込んだ装置を作成し,手分析との比較を行ってこの装置で31物質を連続自動モニタリングできることを明らかにした。また,この装置では測定不能なアルデヒド類については,誘導体化したのち,GCで定量する装置を別に開発した。

(化学物質環境リスク研究センター 中杉 修身)

国立環境研究所の研究情報誌「環境儀」No.1(平成13年7月発行)

 国立環境研究所ではその研究成果を国民各層に分かりやすく伝えるための研究情報誌「環境儀」を創刊した。生身の研究者の姿を知ってもらい,分かりやすく親しみやすい出版物を目指す。「環境儀」の命名には,地球儀が地球上の我々の位置を知るための道具であるように,我々を取り巻く多様な環境問題の中で,今どこに位置するのか,どこに向かおうとしているのかを示すしるべとしたいという意図が込められている。
 本創刊号では,平成9~11年度に実施した特別研究「環境中の『ホルモン様化学物質』の生殖・発生影響に関する研究」(国立環境研究所特別研究報告SR-37-2001として発行済)について,特にラットを用いたダイオキシンの生殖・発生影響に関する研究を中心に取り上げた。内容としては,研究担当者へのインタビュー,研究の概要と成果,今後の研究のほか,環境ホルモンとダイオキシンに関する解説等で構成されている。

(編集委員会「環境儀」班主査 清水 英幸)