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国立環境研究所研究報告 R-175-2003(平成15年1月発行)
「Global Taxonomy Initiative in Asia」

 生物多様性保全計画の基盤となる科学技術は何かと言えば,「どんな生物がどこにどれぐらい生息しているのか」というインベントリー構築である。ところが,実際には容易でなく,地球上に生息している生物種に関する知識は全体の3割か,微生物のような研究対象では1パーセントにとどまるのではないかと言われている。このため生物多様性条約締約国会議は2002年に生物多様性の実態を理解するためには分類学の振興と情報共有をはかる必要があるとして,世界分類学イニシアティブの作業計画を採択した。国立環境研究所は生物多様性条約事務局,マレーシア,オーストラリアおよびアジアオセアニア地域NGOなどと協力して,上記作業計画に基づいた地域協働による生物多様性研究とその国際的な情報共有についてワークショップを開催した。本書はアジア地域から分類学情報を発信するための方途をさぐった記録(論文34編,地域ワークショップレポート1編,付属書8)である。

(環境研究基盤技術ラボラトリー 志村 純子)

国立環境研究所研究報告 R-176-2003(平成15年2月発行)
「福井県敦賀市中池見湿地総合学術調査報告」

 この報告書の「中池見湿地」は,水系がせき止められ形成された袋状埋積谷に発達した特異的な内陸低湿地である。地下の泥炭層の深さは40mにも達する極めて特異的な泥炭湿地に,2,000~2,500年前には直径が3mにも達するスギの巨木が林立していた。その後江戸時代末期から新田開墾され,水田として耕作された時期が長く続いていた。学術調査の期間は1998年~2002年の秋までの約4年間であったが,25haの湿地とそれを取り巻く丘陵地帯から発見された動植物種の総数はなんと2,000種を越える「生物多様性」を包容する極めて特異的な「内陸低湿地」であることが判明した。各章には,中池見湿地の地質・地形学的にみた立地環境,高等植物,付着珪藻,付遊珪藻類,底生動物相,魚類,両生・爬虫類,鳥類,哺乳類,節足動物昆虫類,クモ類,ササラダニ類,さらには動植物共生系など,さまざまな動植物分類群に関する生息環境,生態,分類,共生系に関する調査結果が集約されている。今後,「中池見湿地」の保全・保護を考える上で本報告書が役立てば筆者らの望外の喜びである。

(生物圏環境研究領域 野原 精一)

「環境儀」N0.8 黄砂研究最前線 科学的観測手法で黄砂の流れを遡る(平成15年4月発行)

 黄砂研究最前線というテーマで,国立環境研究所化学環境研究領域計測技術研究室の西川雅高さん,大気圏環境研究領域遠隔計測研究室の杉本伸夫さん,大気物理研究室菅田誠治さんに話を聞いた。どうして黄砂の研究をはじめたかにはじまり,黄砂はどこで発生し,どのように運ばれるのかを解明するためのライダー観測網と多点サンプリング網のこと,黄砂の発生や動きを予測するモデルの役割,黄砂の研究を進めるのに必要な国際的な共同研究の進め方などについてインタビューした。また,世界初の黄土と黄砂エアロゾルの標準物質を作ったことの目的やそれを応用することによる新たな研究の広がりについての記事もある。「発生直後の“汚れていない黄砂エアロゾル”があれば」都市大気中で起こっている大気の変化を実験室で検証することもできるというのは,思ってもみなかったことである。黄砂研究に関する世界と日本の動向,そして国立環境研究所の取り組みについても紹介している。

(「環境儀」第8号ワーキンググループリーダー 鈴木 茂)