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生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)に参加して

【研究所行事紹介】

五箇 公一

 10月18日から2週間に亘って、名古屋市国際会議場において生物多様性条約第10回締約国会議COP10が開催されました。筆者も、前半の1週間、本会議に参加して外来種対策に関するサイドイベントを環境省と共同で開催しました。

 サイドイベントとは、本会議の合間に、会場の中あるいは周辺にある様々なスペースで、NGOや企業や研究者グループが自主的に開催するイベントのことです。我々は10月20日と21日の2日間に亘って、会場内で我が国における外来生物対策に関する政策者向けのシンポジウム「食べて考えよう!外来種問題」を開催し、さらに23日の土曜日に会場外に隣接して設けられた交流フェア会場にて、一般向けの公開シンポジウム「見て、聞いて、考えよう!外来種問題」を開催しました。

 まず、20日と21日は、環境省自然環境局外来種対策室と研究者たちが列席し、日本の外来生物法の仕組みや、法に基づいて実施されている外来生物防除の実態について、様々な国の参加者に向けて説明しました。この際、タイトルの「食べて考えよう」の通り、琵琶湖に定着した外来魚オオクチバスから作られた「オオクチバス・バーガー」を100食、日ごとに用意して来場者に配布しました。もともとオオクチバスは食用目的で導入された北米原産の外来魚です。それが今は食べられずに、スポーツフィッシングを楽しむためだけに、日本各地に密放流されて問題となっています。実際に食べてもらって、外来魚の本来の利用目的を知ってもらい、それが今や有害な「特定外来生物」として問題視されている現実を知ってもらうことが目的でした。

 サイドイベントで配布された
「オオクチバス・バーガー」

 このバスバーガーは予想以上に好評で、筆者も実際に食べてみましたが、確かに美味しかったです。食べ物に「釣られた」という表現は良くないかもしれませんが、お陰で来場者は、両日とも100名を超える盛況な会となりました。実際のシンポジウムの中身では、日本の外来生物対策の具体的事例の紹介を様々な国から来た参加者が熱心に聞き、質疑応答も大変活発で、外来種問題は、先進国、途上国に関わらず深刻な環境問題となっていることが浮き彫りとなりました。

 バスバーガーを食べながら
熱心に発表を聞く来場者の皆さん

 23日は、会場の外にある交流フェアと呼ばれる様々な団体がブース展示をしているエリアで、政府専用テントにおいて、「マングース物語」という紙芝居を上演しました。マングースは、毒蛇のハブ退治目的で南アジアから沖縄・奄美に導入された動物です。結局、島で増えることに成功はしたけれどもハブ退治には余り役に立たずに、島の貴重な固有種であるヤンバルクイナやアマミノクロウサギを捕食してそれらの数を減らしていることが判明したため、環境省の法律で「特定外来生物」に指定され、駆除されているという、悲しい現実を紹介しました。紙芝居上演前には、当研究室のスタッフがヤンバルクイナの着ぐるみを着たり拍子木を打ったりしてお客さんを集めるのに奔走しました。その甲斐あってか、130名の来場者を迎え、立ち見が出るほど盛況な催し物となりました。

 紙芝居「マングースものがたり」を
熱心に聞く来場者たち

 紙芝居上演後は、専門家たちが壇上に並んで、会場から質問を受け付けるというコーナーを設けました。ここでもまた熱心な来場者たちから多数の質問が出ましたが、それ以上に熱心な専門家たちがひとつひとつの質問に対して全員で答える(意見をいう?)という、ちょっと迫力がありすぎるコーナーとなってしまいました。

 こうして、準備にも大きな時間をかけて臨んだサイドイベントは全て成功に終わりました。いずれのイベントも、2時間という限られた時間の中で準備、開催、撤収を行わなければならず、環境研スタッフも環境省もまるでイベント業者のようにかけずり回りました。会議全体からみればささやかなイベントではありましたが、少しでも多くの人の心に、外来生物問題というキーワードが残っていればと今は願っています。

 ちなみに今回のCOP10では200以上ものブースの展示が行われたとのことですが、閉会後に撤収されずに放置された配布物が膨大な廃棄物と化したと聞いています。その総重量は6トンにも上ったそうです。生物多様性保全とは自分の好きな生き物のことだけ考えるのではなく、ゴミを出さないという当たり前の環境保護から始まるのではないかと思うのですが。

 

(ごか こういち、環境リスク研究センター 
主席研究員)

ヤンバルクイナのクイちゃんと筆者