ユーザー別ナビ |
  • 一般の方
  • 研究関係者の方
  • 環境問題に関心のある方
2019年8月26日

第23期マンスフィールド研修での経験

Michele Tempel

2019年5月27日から6月21日まで、国立環境研究所(NIES)でマンスフィールド研修生のミシェル・テンペル氏を受け入れました。マンスフィールド研修は、米国の連邦法であるマイク・マンスフィールド・フェローシップ法(1994年4月に成立)に基づくもので、日米両国の協力関係の推進に資するよう、連邦政府の行政府、立法府、司法府の職員に対し日本政府内における研修の機会を与えることを目的とした研修です。今回、本研修についてテンペル氏よりご寄稿いただきました。

 こんにちは、ミシェル・テンペルと申します。

 私は、米空軍のエンジニア士官として、世界中での米軍基地で、施設・設備全般、滑走路などの営繕及び建設に携わっておりますが、2018年7月から2019年6月の1年間は、この仕事を休ませて頂き、マンスフィールドフェローとして、来日しました。

 マンスフィールドフェローシップは、1977年から1988年にかけて、日本で米国大使として勤務したマイク・マンスフィールドと言う方にちなんで名付けられました。米国と日本各国の政府職員間のネットワーク作り、政策課題の勉強、専門的な目的の研究、そして日本の理解を深めることを目的としています。

 このフェローシップでは私の使命を果たすために、努力して参りました。まずは、エンジニアとして、日本における持続可能な開発とエネルギー効率の高い施設がどのように実現されているか探ることでした。二つ目は、軍人として、日米統合された地域安全保障努力及び防衛の施設や環境管理について学ぶことでした。そして最後に、日本語及び日本文化を勉強することでした。このフェローシップで得た学びは、期待した以上に素晴らしかったです。

 この1年間、15の職場で様々な話題について勉強しました。都庁では、持続可能な開発の理解について、首都の環境及び交通管理に加えて、来年のオリンピックゲームのために持続可能な建設計画について学びました。また国土交通省の官庁営繕部では、政府施設管理、エネルギー消費管理、災害対策基準について勉強しました。さらに、環境省で福島第一原発の現状について学びました。持続可能な目標を達成するために原子力を使うのは温室効果ガス排出削減の方法の一つなので、日本の原子力計画や福島第一原発の回復について勉強するのは大切だと思いました。

 民間部門でも二つの会社で研修する機会を頂きました。パナソニックとトヨタでの研修では、民間企業が持続可能な社会のために、何を、どのように行っているかを勉強しました。

 持続可能性に関して、気候変動の分野も勉強しました。

 このフェローシップが始まる前は、気候変動についてあまり知りませんでした。ところが、外務省の気候変動課、地球環境戦略研究機関、NIESの皆様のおかげで、温室効果ガスの排出削減のために実施されたパリ協定、国際努力、環境研究などについて知りました。さらに国会で、日本において、持続可能な開発の目標実現のために、どのように政策が作られているかを知りました。

 持続可能性に加えて、米国軍人として、日米統合された地域安全保障努力活動について学びました。防衛省での研修では、太平洋地域の安全性と安定性のための、日米の作戦能力と相互運用性について学びました。それと、日米同盟の地位協定、基地での環境管理、施設建設、在日米軍の基地使用、施設の予算管理などを勉強しました。

会食の様子の写真
写真1 Welcome Lunch Partyでのひととき
報告会の様子の写真
写真2 研修成果報告会の様子

 一番最後の研修は、つくば市におけるNIESの本部で、素晴らしい経験をさせていただきました。この研修で、私は様々な環境専門家や研究者から詳しく教えていただきました。バイオトロンと言う植物研究施設で、イネに対するオゾンの影響やマングローブ研究を知ったり、光化学チャンバーでオゾンを作る実験を見学したり、環境試料タイムカプセルについて習ったりしました。

 また資源循環・廃棄物研究センターで、NIESによる持続可能な循環社会への転換方策の研究と提案を知りました。この研究プロジェクトでは、色々な社会動向に対する他の政策と結合されて循環型社会の実現方策を提示しています。例えば、高齢化や人口減少社会における循環経済の進展に向けた廃棄物処理政策を提案しています。

 さらに琵琶湖及び霞ヶ浦における環境研究センターを見学させてもらいました。このセンターで、全国の中で一番広い湖での生物学、水質、汚染対策の研究について知りました。具体的に二つの研究テーマについて聞きました。一つは、健全な水環境保全のための水質や底質環境に関する研究、もうひとつは、湖沼の生態系の評価と管理再生に関する研究でした。

 水道水に関しては、PFOSと言う化学物質の研究について学びました。最近、米軍は基地周辺の水質にも配慮してきたので、この話題はとても大切だと思いました。1970年から2016年にかけて、世界中の米軍基地の飛行場で、消火器にPFOSと言う化学物質が使われていました。軍の飛行場だけではなく、民間空港でも使われていました。しかし2016年に、環境研究によってこの化学物質は健康に良くないことが発表されました。このため、我々がその化学物質を調査して、対策を研究しています。NIESでの研修の間に、国立保健医療科学院に行って、日本でこの問題について一番詳しい研究者に相談させていただきました。この方と、米軍によって引き起こされた日本の水質問題の現状について話させていただきました。

 さらに、気候変動政策指標の研究も勉強しました。この研究で、G20国で実施している政府政策とそれぞれの国での温室効果ガス濃度の関係について学び、どのように政策が排出量に直接影響しているかを知りました。この気候変動政策指標に関する研修で、国際社会がどんなことにチャレンジしているのかについて知りました。研究者によると、世界的な平均上昇気温を2度以下に保つには、世界中で決定した貢献目標が低すぎると習いました。現在自分の国はあまり貢献していないので、これを聞くと大変に遺憾で、アメリカで温暖化対策の意識を推進したいと感じました。

 最後に、この研修で環境問題解決のための、日本における科学的なアプローチを知り、日本でも有数の環境専門家と話す機会も頂いたことを大変光栄に思っています。7月からは米空軍に戻り、青森県にある三沢基地に赴任する予定です。三沢基地では、基地の環境管理の担当者になるので、NIESで学んだ色々な事を生かすのを楽しみにしております。このような一期一会の素晴らしい機会をくださったNIESの皆様に深く感謝しております。貴重なお時間を割いてご指導いただき、本当にありがとうございました。これから、日米関係の強化の為に、頑張り続けたいと思います。

 今後とも、どうぞ宜しくお願い致します。

(ミシェル・テンペル、米国国防総省 空軍 大尉)

執筆者プロフィール

筆者のミシェル・テンペルの写真

空軍士官学校でのルームメイトが日系人だったことをきっかけに日本に興味を持ち、日本語の勉強を始めました。この一年間で、日本語の一番の上達方法は日本人の友達や同僚と話すことだと発見しました。