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2022年10月31日

持続可能な地域づくりに向けたキーワード
~災害からの復興に向けて~

特集 災害からの復興と持続可能な地域づくり
【環境問題基礎知識】

大西 悟

1.災害と地域づくり

 災害と地域づくりは切っても切り離せない関係にあります。戦災まで含めると世界各国の地域は、災害で何度も何度も人命を奪われ、ときに移動を余儀なくされ、ときに同じ地域で復興を遂げてきました。日本に目を向けると、ここ1世紀で起きた大きな災害だけでも、関東大震災(1923年)、第二次世界大戦による戦災(1945年ごろ)、伊勢湾台風(1959年)、阪神淡路大震災(1995年)、東日本大震災(2011年)および福島第一原子力発電所事故災害を経験しました。現在は、特殊災害に分類される新型コロナウイルス感染症パンデミックの渦中です。1918~1919年にスペイン風邪が流行したこともあります。災害のたびに、教訓を得て復興に向けた地域づくりを進めてきた歴史があります。

 一方で、地域づくりは、普段の生活の基盤を創りだす営みです。その中で、災害を想定しながら、生活の質を高める対策を蓄積していくことが重要です。例えば、防災施設や災害時の地産地消型エネルギー拠点等のインフラ整備は重要です。その整備の際に、ハード面に地域の特性にあわせたデザインをすることやコミュニティの意識醸成を含めた関係者(ステークホルダー)の参画により対話と協働を通じた地域づくりのソフトな基盤づくりをしていくことが望ましいといえます。災害のないときに関係者でコミュニケーションをしながら地域づくりをしておくことで、いざ災害が起こった際に、適切な対応が取れ、強靭さ(レジリエンス)を高めることができます。本特集は、今後重要になると考えられるキーワードを選び、解説します。

2.地域循環共生圏(ローカルSDGs)

 地域循環共生圏という考え方をもとに地域づくりを行うことは、災害時のレジリエンス強化の観点からも重要です。これは、第五次環境基本計画(2018年閣議決定)で提唱された、各地域が自立・分散型の社会を形成しつつ、地域の特性に応じて資源を補完し支えあう考え方です。農山漁村および都市の各地域を主体にしつつ、近隣地域等と共生・対流し、より広域的なネットワークとして、自然的なつながり(森・里・川・海の連関)や経済的つながり(人、資金等)を構築していくことで、新たなバリューチェーンを生み出すことを志向しているため、ステークホルダーが自然と地域との関係を見つめ直し、より持続可能な地域づくりを進める契機になります。

 また、地域循環共生圏は、SDGsを地域で実装(ローカライズ)し、その達成に向かう取り組みと考え方とも捉えられています。各地域がSDGsの17のゴールと169のターゲットの達成をバックキャスティングで検討することで、ステークホルダーの目指す地域のあり方を見据えることができます。災害と直接的に関連する目標として、目標11「住み続けられるまちづくりを」の中で、「災害に対する強靱さ(レジリエンス)を目指す総合的政策及び計画」の導入をターゲットとしています。それ以外でも貧困、水環境などが災害と関連する重要項目となります。

3.環境・社会・経済で考えるトリプルボトムライン

 SDGsの理念を用いて地域づくりを考える取り組みは、各地で見られます。ただ、17のゴールと169のターゲットを同時に考え、理解するのは大変な労力がいります。そこで、より少ない分類でとらえる方法があります。もともと持続可能な社会を目指す際に用いられたトリプルボトムラインという考え方です。これは、個人、所属する組織、地域、国の活動や事業などを評価する際に環境・社会・経済的側面の3つの観点から整理するものです。主に、企業活動の評価で活用されることが多かった観点ですが、SDGsの策定に大きく貢献した科学者ヨハン・ロックストローム氏は、SDGsの17のゴールをトリプルボトムラインの3つの層で整理したSDGsウェディングケーキ(図)を提唱しています。3つの層は、生物圏(環境的側面にかかわるゴール)が土台にあり、そのうえに社会圏(社会的側面にかかわるゴール)があり、そこに経済圏(経済的側面にかかわるゴール)が乗っかっており、順番にも意味を持たせています。いずれにせよ、地域づくりには、様々な観点を検討する必要がありますが、環境・社会・経済的側面から考えることは基本となります。

図 "The SDGs wedding cake"
(引用:ストックホルム大学ストックホルム·レジリエンス·センター)

 災害対策や復興に向けた地域づくりを考えるうえでも、トリプルボトムラインは重要です。まず、環境的側面では、自然環境が健全でないと土砂災害や洪水時の被害が大きくなります。また、温室効果ガスの排出が増加し気候変動が進むと災害の規模が変わったり、植生や農作物への影響も大きくなったりします。一方、復興の際にも、災害の被害が起きやすかった地域環境を見直すこと、被害を軽減する土地利用を検討することなど、対策を練ることができます。

 社会的側面は、災害が起きた際の地域での円滑な防災活動、心理的な支えあいのために、普段から地域コミュニティの活動が行われていることが望まれます。これは、災害時にのみ機能されるのではなく、普段の地域づくり、復興の際の基盤としても大きな役割を果たします。

 経済的側面からは、災害というリスクに対して、経済活動の脆弱性を見直し、適切に対応策へ投資していく必要があります。復興の際には、地域づくりが円滑に進むよう、出来るだけ早急に、かつ地域の合意が得られる形で経済の復興を進めることが望ましいといえるでしょう。

4.共創による地域づくり

 持続可能な地域づくりは誰が担うのか?を考えてみましょう。まず頭に浮かぶのは、お住まいの地域の自治体・役所かもしれません。あるいは、地域循環共生圏(ローカルSDGs)は前述したとおり、環境基本計画に位置付けられているのだから国の牽引に期待するかもしれません。最近は、地域づくりを専門にしたり、楽しみとして参画したりする方々もいます。外部の企業も地域課題への投資はビジネスチャンスです。もしくは、例えばこの特集記事の執筆者たちは、持続可能な地域づくりを研究しているのだから、しっかりやってくれとお思いかもしれません。4者とも、持続可能な地域づくりに携わっていくはずです。しかし、地域の課題や将来の方向性をよく知っているのは、住んでいる方々やそこで活動をしている事業者やNPOなどです。そのため、それぞれの持ち味をしっかりと活かしあいながら、地域づくりを進めていくことが重要です。

 もちろん、現状では、そもそも地域づくりや復興に関して、関係者の間でコミュニケーションが取れていないことが多いです。ですので、そんな理想論は難しいことは想像がつくと思います。そんな中、地域に関わる方々が一致団結して持続可能な方向に進める方法論が提唱されてきています。前記事のパターン・ランゲージも一つの手段になりえます。加えて、ここでは、コンサルティング会社を経営しながら、学術誌に寄稿しているジョン・カニア、マーク・グラマーが2011年に提唱したコレクティブ・インパクトを紹介します。成功の条件として5つを挙げています。①共通のアジェンダ、②共通の測定システム、③相互に補強し合う取り組み、④継続的なコミュニケーション、⑤活動をサポートするバックボーン組織です。何もないところから、5つを構築するのは大変ですが、これらを関係者で構築していくと災害に強い持続可能な地域づくりの大きな基盤となりえます。

5.まとめ

 日本は、災害リスクの高い国です。各地において、日頃から持続可能な地域づくりを進めていくことが、災害にも強く、復興に向けてもたくましく立ち向かえる基礎となります。本特集では、地域循環共生圏(ローカルSDGs)、トリプルボトムライン、共創による地域づくりをとりあげました。なお、国環研での地域共創に向けた取り組みは、国環研ニュース41巻3号「特集 地域と共に創る持続可能な社会」で紹介されているので、あわせてご参照ください。復興を含めた持続可能な地域づくりを考えるきっかけとなれば幸いです。

(おおにし さとし、福島地域協働研究拠点 地域環境創生研究室 主任研究員)

執筆者プロフィール:

筆者の大西 悟の写真

島中通りに移り住み2年目になります。浜通り・会津を行ったり来たりしながら、福島の風景を楽しんでいます。現場を大切にした地域づくり研究をしています。J2時代から川崎フロンターレを応援。

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