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浅海域における干潟・藻場の生態系機能に関する研究(平成 22年度)
A study on ecological functions of tidal flats and macrophytes beds in coastal sea

予算区分
AH 地環研
研究課題コード
0911AH003
開始/終了年度
2009~2011年
キーワード(日本語)
藻場,干潟,生態系機能
キーワード(英語)
seagrass bed, tidal flat, ecological function

研究概要

良好に保存された浅海域において干潟・藻場は水辺の移行帯の主要構成景観要素で、浅海域を里海(さとうみ)とするために不可欠である。干潟・藻場はその多くが隣接し、モザイク状に配置されていることも多い。そこでは海域と陸域からの水、栄養塩の供給や流出を受け、潮汐のリズムと相まって多様な環境が形成される。その結果、干潟は水鳥の来訪を支える場を提供し、藻場は魚貝類の産卵場、生育場、隠れ家を提供する。さらに干潟の付着藻や藻場の海藻、海草は栄養塩を吸収し酸素を放出する。このように干潟・藻場は景観上の重要性のみならず、生物多様性と物質循環の観点から重要な役割を果たし、それらの生態系機能に基づく環境浄化能は浅海域の環境保全に必要不可欠である。しかし、近年は干潟・藻場の減少が指摘され海域環境改善が停滞している一因となっており、これらの再生が各地で個別に試みられているが必ずしも期待通りの結果が得られていない。
本研究では、底泥からの汚濁負荷の制御、ベントスの生物生息環境の保全手法、藻場構成種の生態学的特性に関する比較検討、それらの移植と大量増殖手法にわたる多様な視点を通じた干潟・藻場の生態系機能に関する知見の集積を行い、これらの保全・修復のための有効な手法(住民活動・NPO等への普及および企業等への技術移転を含む。)の集積と共有を目標とする。

研究の性格

  • 主たるもの:行政支援調査・研究
  • 従たるもの:技術開発・評価

全体計画

 兵庫県では、底生微細藻類による底質表面への酸素供給の有効利用を検討し、底質に含まれる有機物の酸化分解等の底質改善等を検討する。山口県では、NPOでも実施可能な簡易な干潟モニタリング手法を開発することを目的として「干潟における底生生物の生息環境に関する簡易調査・評価手法の検討」を行う。三重県では、『英虞湾における既設干潟・藻場の長期変化の把握』として、既設人工干潟の自立安定性について検討を行う。また『沿岸遊休地等の干潟・藻場再生手法の開発』として、沿岸遊休地に海水導入することによる、干潟再生実験を行い、その生物生産性の向上効果について検討する。さらにその中でコアマモの大量増殖技術の開発に向けた地下茎生育条件の解明も同時に行っていく。
鳥取県では、『水草を活用した湖沼環境の再生に関する研究』として、水生植物の浄化効果と漁場形成効果を検討し、平成22年度以降には、住民と連携した現場での水草帯造成試験と本手法の普及を図る。広島県では,保健環境センターが『湖沼等における水質環境改善技術の開発』として,「酸素透過性に優れた膜を利用して貧酸素化した底層に酸素を供給し、環境を改善する技術」について,実用化に向けた技術移転に取り組む。また、水産海洋技術センターが『実生苗によるアマモ場再生技術の開発』として確立した、「実生苗床シートによる移植技術」の技術普及と実用化に向けて、シートの改良と移植手法の効率・低コスト化について検討するとともに、苗床シートの量産〜移植までの過程をマニュアル化し、実証試験を実施する。茨城県では、『湖水−底泥間の酸化還元環境と栄養塩類動態の検討』として、底泥中の酸化還元電位の律速因子の探索と栄養塩類溶出の応答を検討し、測定および評価手法に関する情報の共有を図る。国環研では、これまでの生態系機能評価に関する研究成果を生かし、各地の浅海域に残存する干潟・藻場において生態系機能の評価手法の比較を行い手法の標準化を目指す。また平成20年度までの先行研究で浅海域の藻場優占種となることが多かった海草コアマモと海藻アオサについては、前者が浅海域における自然再生の対象種として、後者は都市化・富栄養化による汚染指標種として、また侵入外来種としての意義を持っていた。これらの生活史は繁殖過程を中心に各地で異なることが明らかになったため、平成21年度より相互の情報交換を重ね、その理由の解明に取り組む。

今年度の研究概要

 茨城県では、閉鎖性水域における酸素環境および酸化還元環境の計測と直上水および間隙水の各態窒素およびリンの動態との関係を検討する。広島県・保環研では、閉鎖性水域における貧酸素化状態を改善するために膜を用いた緩速酸素供給技術の有効性と膜の酸素供給能力や特性等の評価を行う。兵庫県では、干潟の一次生産者である底生藻類と海中光量子量との関係について現地調査を行う。山口県では、簡易環境調査手法として土壌硬度計を用いた底質硬度の測定と有機物量など底質関連項目との相関を確認する。広島県・水技セは新提案の播種マットの海底敷設法のコスト・省力面を検証をする。鳥取県では、コアマモの発芽及び子葉形成に対する至適塩分域を把握するため、試験実験を行う。三重県では、コアマモの大量増殖技術の開発に向けた地下茎生育条件の検討を行なう。また、今年度より参加する横浜市・川崎市・栃木県とは情報交流をはじめる。国環研では、上記をまとめ干潟および藻場の生態系機能評価に関する研究成果として各手法の標準化と取りまとめを行ない、年二回の連絡会議(そのうち一度は参加自治体各地の課題対象地における相互エクスカーション)と学会(主に水環境学会年会)における発表による学術報告を進める。

備考

  

関連する研究課題
  • 0 : その他の研究活動

課題代表者

矢部 徹

  • 生物多様性領域
    生態系機能評価研究室
  • 主任研究員
  • 博士(理学)
  • 生物学
portrait

担当者

  • 石井 裕一