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植物の広域データ解析によるホットスポット特定とその将来の定量的予測(平成 24年度)
Hot spot analysis of Asian plant species: its present and future status

予算区分
BA 環境-推進費(委託費) S-9
研究課題コード
1115BA002
開始/終了年度
2011~2015年
キーワード(日本語)
植物,ホットスポット,アジア,分布推定モデル,多様性評価指標
キーワード(英語)
plants, hot spot, Asia, predictive distribution model, surrogates of biodiversity

研究概要

アジアスケールでの植物の分布データにもとづいて、広域的な分布を高精度で推定する統計モデルを構築する。この分布推定モデルを用いて、人口増加・経済成長に伴う土地利用の変化や温暖化などの環境の変化に関するシナリオの下で、植物の分布の変化を予測する。さらにこの予測から、現在の多様性が高いにも関わらず、将来的にその著しい低下が予測される保全のホットスポットを特定する。ホットスポット評価では、多様性の指標として種数のほか、機能多様性等の複数の指標を比較検討する。また、推定されたホットスポットと現存する保護区の対応とずれを定量化するギャップ分析を実施し、新たな保全施策を講じる際に優先度が高い地域を選ぶ。

本課題においては数千種の植物(とくにマメ科、シダ類)を分析対象とする。そこで、分布推定モデル構築に際しては、多種の情報を統合的に扱えること、景観や生物分布の空間的な構造を考慮した解析を効率よく行えること、の2つの観点から手法の開発を行う。このようなモデルの特質は、既知の生息情報が少ない希少種の分布を他種の情報を利用することなどによって精度よく推定し、さらに、広域スケールで多数の種を対象とする上で極めて重要性が高い。さらに、既知の生息情報の量や精度の違いに起因する分布推定の不確実性を定量化・可視化(地図化)するためのフレームを構築する。このような可視化は保全のための政策決定において有用なツールを提供するものである。

土地利用・開発、温暖化といった人間の活動による環境変化は、地球規模で生物種の存続を脅かす要因となっている。このような環境変化に関していくつかの典型的な社会シナリオをまとめ、それぞれのシナリオの下でアジア地域での植物の分布がどのように変化するかを予測する。社会シナリオは、国際的に広く用いられているものを基盤として活用すると同時に、急速な開発の進展などアジア地域特有の状況を反映させた新たなシナリオを構築する。
なお、上記の分布推定モデルおよび土地利用変化シナリオの手法開発と精度検証は、すでに極めて詳細な分布データの集積が進んでいる日本国内を対象として行う。日本を除くアジアの植物分布や土地利用に関する基盤データは、国内に比べて解像度や種の同定精度が低いことが想定されるため、国内の高精度データを間引いて精度を下げたデータセットを用いてモデルの有用性の検証を行い、その上でアジアスケールの植物分布データに適用する。

研究の性格

  • 主たるもの:応用科学研究
  • 従たるもの:技術開発・評価

全体計画

平成23年度:アジア太平洋地域における土地利用・気候条件・保護区・人口予測等の基盤データを整備し、アジアスケールの植物種の分布推定に試験的に適用する。国内の既存データを用いて、群集組成を考慮して希少種の分布を効果的に推定するモデルを開発する。

平成24年度:国内の高精度データに基づいて開発した手法を、解像度・精度の低いデータに適用した際の分布推定モデルの動作の検証・キャリブレーションを行い、アジアの植物種の分布推定法を改良する。既存の地球規模の社会シナリオを整理し、モデルに組み込む。

平成25年度:空間構造を考慮したモデリングの効率化手法を開発し、アジアの植物種約200種のデータに適用する。アジア地域特有の状況を反映した社会シナリオを構築する。

平成26年度:アジアの植物約1000種に分布推定モデルを本格的に適用し、社会シナリオに基づく植物の将来の分布予測を行う。また、多様性評価指標の検討、予測の不確実性を可視化する地図化手法の開発を行う。

平成27年度:植物の分布予測に基づくホットスポット検出とギャップ分析を行い、保全対策を提言する

今年度の研究概要

日本国内の高精度の生物分布データに基づいて開発した分布推定手法を、空間的な解像度および精度の低いアジア地域のデータに適用した際のモデルの動作の検証・キャリブレーションを行う。特に、環境依存性が類似した希少植物をグルーピングし、一括して分布推定を行う手法を検討する。グルーピングにあたっては、前年度に開発した、分布の類似性の定量的指標に基づく方法、植物社会学的な情報に基づく方法を検討する。グルーピングされた分布情報により、MARS(Multivariate adaptive regression splines)、階層GL、混合分布を利用したロジスティック回帰モデルなどによる分布推定を試みる。

複数の社会シナリオの下で想定される、温暖化や降水量変化などの環境変化が生物におよぼす影響を定量的に評価するために、これらの要因に関する既存の情報を整理・統合し、広域的な生物分布推定モデルに組み込む。

外部との連携

本課題は東京大学・大学院農学生命科学研究科の宮下直准教授がテーマ代表者である「S-9-1 生物多様性評価予測モデルの開発・適用と自然共生社会への政策提言」を構成するサブテーマの1つである。テーマを構成するサブテーマ担当機関である、東京大学・農業環境技術研究所・九州大学・総合地球環境学研究所・横浜国立大学と連携して研究を行う。

関連する研究課題

課題代表者

竹中 明夫

担当者