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北極高緯度土壌圏における近未来温暖化影響予測の高精度化に向けた観測及びモデル開発研究(平成 24年度)
Observation for evaluation of vulnerability in future warming of the Arctic terrestrial ecosystem and their modeling research

予算区分
BA 環境-推進費(委託費) A-1
研究課題コード
1012BA007
開始/終了年度
2010~2012年
キーワード(日本語)
北極,温暖化,アラスカ,古炭素
キーワード(英語)
Arctic, global warming, Alaska, preaged carbon

研究概要

 地球温暖化を引き起こす温室効果気体で最も大きな影響を持つものは二酸化炭素であるが、その大気中の濃度は、人為的な化石燃料の使用という直接的な要因のみならず、気候変動を介した炭素循環の変動からも大きな影響を受ける。これまで冷涼かつ湿潤な気候ゆえに大量の土壌炭素が蓄積されてきたアラスカなどの北極高緯度地域では、温暖化と関連した環境変動によって炭素循環の様相が大きく変化し、温室効果気体放出のホットスポットとなることが懸念されている。
すでに、北極域では様々なシミュレーションによる環境変動が予測されている。しかしながら、IPCC報告書での北極海氷変動予測に見られるように、予測と実際の減少量の実態とは必ずしも一致していない。一方陸域でも、夏の気温上昇や積雪期の短期化により、永久凍土融解と活動層の拡大が進んでいる。永久凍土中に存在する大量の易分解性有機物(古炭素)は、新たなCH4・CO2の発生源として危惧されている。しかし、これまで行われてきた北極・高緯度域土壌圏炭素動態の実態解明に関する観測研究は、アラスカ、シベリア永久凍土地帯ともにスナップショット的な事例にとどまっており、古炭素の分解メカニズムも明らかになっていない。また、炭素分解をコントロールする土壌温度、水分量等、土壌の物理状態を把握できる環境要因の連続的データは、無電源かつ極寒条件のアラスカでは乏しい。一方、既存の土壌炭素動態モデルでは、気候変動下での影響評価や予測を行うために重要な、北極域に特有の永久凍土と活動層に関する物理プロセスや、古炭素の活性化などの化学プロセスが欠如している。このように、モデルを用いて将来予測を行う上で、新たなモデルの開発とともに、北極高緯度土壌圏の温暖化に対する応答性に関し、信頼出来る観測ネットワークの構築およびモデルに必要な観測データの取得・蓄積が早急に求められている。

研究の性格

  • 主たるもの:基礎科学研究
  • 従たるもの:モニタリング・研究基盤整備

全体計画

本研究では、近年温暖化影響が顕在化している北極域における、温暖化による土壌炭素蓄積量の変化とそのメカニズム解明のための観測とそれらのデータを用いた北極土壌炭素動態モデルの開発と高精度化を目指す。具体的には、北極高緯度域を代表する生態系(タイガ・ツンドラ)を縦断する観測ラインを設定し、各観測点で炭素分解をコントロールする土壌温度、水分量等の土壌の物理状態を把握するとともに、土壌の化学組成、有機炭素現存量、土壌から温室効果ガス放出速度(CO2やCH4)などを観測し、炭素動態モデルの開発を行う。また開発したモデルの検証・改良を行うため、放射性炭素(14C)を用いて土壌有機炭素の平均滞留時間を実測する。土壌有機炭素の滞留時間は、温度などの環境条件や有機炭素の質によって変動すると考えられているが、北極域における平均滞留時間実測データは皆無である。さらに、北極域土壌炭素特有の炭素動態を考慮にいれた観測とそのモデル化にも取り組む。具体的には、北極域に特有の永久凍土・融解に伴う物理プロセスや、古土壌中の炭素の活性化といった化学プロセスの導入である。凍土融解とそれに伴う古土壌の有機物分解の活性化を評価するために、土壌有機物、土壌内CO2、土壌内微生物脂質レベルの14C測定を行い、温暖化に伴い土壌有機物の滞留時間(分解率)がどのように変化していくのか、滞留時間の異なるプールの有機物の形態も考慮にいれた最先端のモデル(Ise et al. 2008, Nature Geoscience)のさらなる高精度化を進める。また、fossil carbon分解の活性化のメカニズムの解明においては、土壌有機物・土壌内微生物脂質レベルの14C測定と微生物代謝活性、微生物群集構造の関係を解析し、微生物生態学的視点からの考察も行う。加えて、自然火災によって土壌炭素の一部が焼失したタイガでも他の観測点と同様の観測を行い、自然火災によって、土壌炭素蓄積・分解のプロセスがどのような影響を受けうるのかについても、14Cを指標に用いて検討し、その結果をモデルに反映させる。

今年度の研究概要

(1)土壌有機炭素分解の実態把握と生物地球化学的メカニズムの解明
 14Cを指標に用いて、土壌炭素の滞留時間を推定および土壌からのCO2発生源について検討し、土壌有機炭素蓄積の実態を把握するとともに、その温暖化による古炭素(fossil carbon)分解のプロセスを評価する。ツンドラ生態系から北方森林が広がるアラスカ北部において、代表的な植生を選び、土壌、大気CO2、土壌CO2、および土壌呼吸CO2の採取を実施する。土壌試料について、仮比重、炭素・窒素含有率、同位体(13C、14C)分析を行い、土壌炭素蓄積量を求めるとともに、これら炭素の平均滞留時間を推定する。加えて、土壌CO2、土壌呼吸CO2、および土壌から抽出した微生物膜脂質の14C分析を行い、分解基質および分解に関わる微生物の特定、fossil carbon の分解量の算出を試みる。

課題代表者

内田 昌男

  • 地球システム領域
  • 主幹研究員
  • 博士(農学)
  • 化学,地学,理学
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担当者