- 予算区分
- CD 文科-科研費
- 研究課題コード
- 1719CD005
- 開始/終了年度
- 2017~2019年
- キーワード(日本語)
- 干潟生態系,生態系機能,津波,大型底生動物,個体群回復
- キーワード(英語)
- tidalflat ecosystem, ecosystem function, tsunami, macrozoobenthos, population recovery
研究概要
東日本大震災時に発生した津波は干潟の底生動物にも大きな影響を与えた。津波による干潟生物の減少は生態系機能や生態系サービスの大幅な低下をもたらしたことが予想され、その定量的な把握が喫緊の課題となっている。本研究では、干潟生物の中でも特に大きな生物量を占める巻き貝のウミニナ類に注目し、津波によるウミニナ類の減少が系内の物質循環や水質浄化作用にどのような変化をもたらしたのか、失われた生態系機能の回復にどのくらいの時間が必要なのかを、津波前から継続して収集してきた現場の個体群変動データに基づいて定量的に推定する。
干潟は埋め立てや開発により急速に失われており、1945 年以降の60 年間でその約4 割が消滅した。震災後には防潮堤や水門の復旧工事が急速に進み、多くの干潟が影響を受けつつある。このことは、震災で1 度失われた干潟生物の多様性や生態系サービスが、再び失われる危険性が高まっていることを示唆している。干潟は、水産有用種の育成の場となるのみならず、有機物を分解して沿岸域の富栄養化を防ぐなど、人間活動にも多大な貢献をしている。私たちは、干潟の生態系機能・サービスを裏付ける基礎データを集め、その成果を社会へと公表していくことで、失われゆく干潟の保全へとつなげていきたいと考えている。
研究の性格
- 主たるもの:基礎科学研究
- 従たるもの:応用科学研究
全体計画
申請者らは2005 年から2016 年にかけて、ホソウミニナ個体群の人口学的パラメータ(生息密度と体サイズ組成)の記録を行ってきた。本研究ではこれまでの調査を継続して行うことで、津波によるホソウミニナの減少と回復過程を明らかにする。このような、定量的手法に基づく基礎データを蓄積することで、ホソウミニナが津波によりどれ程の攪乱を受けたかを克明に記録し、個体群の回復にどれ程の期間を要するのかを推定する。
ホソウミニナの減少が干潟生態系に及ぼした影響を定量的に評価するためには、食物連鎖の中での位置づけや生物量、そして有機物分解能などを明らかにする必要がある。そこで本研究では、野外観察や室内実験を駆使して干潟生態系中でのホソウミニナの機能を明らかにし、現場で得られた密度や体サイズのデータと融合させることで、ホソウミニナの生物量変化により、干潟のエネルギー循環や水質浄化作用がどのように変化し、今後どれくらいの期間をかけて回復していくのかを予測する。
今年度の研究概要
1.メタ個体群動態−現地調査:仙台湾近隣の6干潟(長面浦、万石浦、潜ヶ浦、松島湾奥、鳥の海、松川浦)でホソウミニナの個体群動態(密度・サイズ組成)を追跡するための現地調査を、年に1度春季に実施する。各干潟において方形枠を用いた定量採集を行い、生息密度と体サイズのデータを得る。本調査は本研究期間中に毎年実施予定であり、得られたデータをもとに震災後の個体群回復状況とその速度を生息地間で比較する。ここで、小型個体については同所的に生息するウミニナとの判別が困難な場合もあるため、PCR-RFLP法による分子遺伝学的な種同定手法も併用する。また、調査期間中は各干潟にデータロガーを設置し、水温の連続測定を行う。
2.有機物除去能の評価−室内チャンバー実験:ウミニナ類は剥ぎ取り食者であると考えられてきたが、ろ過摂食も併用することが報告されている。そこで、温度管理した実験室の飼育チャンバー内でホソウミニナを飼育し、炭素・窒素含量既知の餌(培養濃縮珪藻を予定している)を与えてその摂食速度を測定し、体サイズと水温から摂食量を予測する関係式を得る。
3.密度操作による生態系機能評価−野外ケージ実験:静謐で波浪の影響の少ない干潟において野外実験を行う。金属製のケージを現場に設置してホソウミニナの密度操作を行い、ホソウミニナが「底質−水柱間の物質フロー」「生息場の質」「付随生物群集」へ及ぼす影響を見積もる。本実験は主に平成30年度に実施する予定であるが、ケージ等の準備を含めた予備実験を初年度から進める。実験期間は8〜11月の3ヶ月を予定している。
外部との連携
本研究は以下の研究者との共同で実施する。
三浦収(高知大学)、中井静子(日本大学)、伊藤萌(東京大学)
- 関連する研究課題
課題代表者
金谷 弦
- 地域環境保全領域
海域環境研究室 - 主幹研究員
- 博士 (理学)
- 生物学