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気候変動と都市化による河川の水温・水質への影響(令和 2年度)
Effects of climate change and urbanization on river water temperature and quality

予算区分
AH 地環研
研究課題コード
2020AH001
開始/終了年度
2020~2020年
キーワード(日本語)
水循環
キーワード(英語)
water cycle

研究概要

気候変動と都市化は同時に進行している現象である。都市化が進行し不浸透面が増えると、雨水の地下浸透量が減少する。関東平野のような平坦な台地と沖積平地からなる地形の場所では、台地上の都市化が進行すると、台地から低地への排水経路において地下水の寄与が小さく、地表水の寄与が大きくなる(地下/地上水比の低下)。
 地下/地上水比の低下は、さまざまな側面に影響しうる。治水に関わる影響としては、都市化に伴い大雨・洪水時の流量ピークが早く現れることが指摘されている。しかし水質や水温への影響は必ずしても明瞭ではない。都市域からの負荷量は原単位法などにより推定されているが、大雨・洪水による負荷量の増大などは考慮されていないため、年間のフラックスを過小評価している可能性がある。大雨の際のファーストフラッシュの効果が大きければ、調整池での負荷軽減などの方策が、治水と水質浄化の両面で重要になり得る。
 一方、地下/地上水率が高い場合には、河川のピーク流量が低下するなど、治水の面からは安全性が高いことが予測される。しかし水質の面では一概には良いとはいえない。特に農業地域では施肥による土壌や地下への栄養塩の蓄積により、地下水を経由することで下流域の水質がより悪化する可能性も考えられる。このように都市化と気候変動(気温変化・降雨パターン変化)は相互に関連して河川の水環境を変えている可能性がある。その実態を明らかにすることは、有効は適応策(たとえば地下/地上水比の回復)の検討の基礎として重要である。
 本研究は、気候変動(降水パターンや気温の変化)と水源域の都市化が、河川に供給される水の水質と水温にもたらす影響を明らかにする研究の、フィージビリティスタディとして、流域が都市化された河川と、流域が主に農地として利用されている河川において、降水と流量・水温・水質の関係を解析する。

研究の性格

  • 主たるもの:基礎科学研究
  • 従たるもの:応用科学研究

全体計画

台地と低地の2層の地形構造が明瞭で、水循環が把握しやすい印旛沼流域を対象域とする(図1)。水源域が都市化した河川と、農地で占められる河川において、降水量に対する河川への流出量、流出水の水温・水質の応答の関係を、野外観測と統計解析で明らかにする。ま今年度、都市型・農地型の両極的な河川で手法を確立し、次年度以降に中間的な測定対象を増やし、より一般性の高い研究に展開する予定である。

今年度の研究概要

<野外観測>
 水源域が都市化され地下/地上水率が低いと考えられる河川(船橋市・駒込川を想定)と水源域が農地・樹林であり地下/地上水率が高いと考えられる河川(富里市・高崎川を想定)の水源地付近(一次水路)において、温度と流量の連続測定を行う(図2)。同時に、自動採水器を用いて、平常時(1サンプル/日程度)と出水時(1サンプル/時程度)の高頻度サンプリングにより、栄養塩濃度とフラックスを観測する。
 なお千葉県環境研究センターはすでに道路からの排水の流量・水質の観測を開始しており、本研究では住宅地からの排水の測定を追加することで、都市域からの流出特性をより総合的に把握する。
(採水・水質分析は主に千葉適応Cが、流量・水温観測は主に環境研が行う。)
<解析>
 都市型河川と農地型河川のそれぞれにおいて、多数の降水イベントを抽出し、流量データを活用し、流域への降水量と流出量の関係を解析する。解析では測定地点の集水域を地形および地下水面推定図から設定し、両流域における比流量を比較する。また降水量(あるいは流出量)と、栄養塩濃度・フラックスとの関係を解析し、流域間で比較する。水温について、平均だけでなく変動パターン(季節的変動、降水イベントの影響など)についても比較する。これらを総合し、気温や降水パターンが河川流出水に及ぼす影響を解析する手法を確立する。
(両機関が分担・協力して行う。)
<発展的展開>
 今年度測定手法を確立し、次年度、さらに2点程度の測定点を追加することで、気温・降水パターンと河川流出水の水温・水質の関係性を明らかにすることで、都市的流域と農地的流域のそれぞれで、将来気候条件での流出特性を予測する研究へと発展させる。これらから得られた結果を分散型河川流出モデルのパラメータとして活用し、流域の土地利用と河川環境・災害との関係を検討する(次期中期課題とも関連)。さらに、都市的流域の排水経路に湿地を造成した場合の効果など、有効な適応策の検討につなげる。
 また千葉県環境研究センターは、対象流域の末端に位置する印旛沼の水質やプランクトンの長期データを分析しているため、流域と湖沼をつなぐ研究への展開も検討する。

外部との連携

千葉県環境研究センター(地域適応センター)との共同研究

課題代表者

西廣 淳

  • 気候変動適応センター
  • 副センター長
  • 博士(理学)
  • 理学 ,生物学
portrait

担当者