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包括的富のマクロ経済的基礎付け—生産、消費、割引とIWとの関係性の理論と実証(令和 2年度)
Macroeconomic foundation of inclusive wealth: theory and evidence on its relationships with production, consumption, and discounting

予算区分
CD 文科-科研費
研究課題コード
1921CD026
開始/終了年度
2019~2021年
キーワード(日本語)
包括的富,ジェニュイン・セイビング,割引率,グリーンGDP,収益率,持続可能性指標
キーワード(英語)
Inclusive wealth,Genuine savings,Discounting,Green GDP,Rate of return,Sustainability indicator

研究概要

人工資本・人的資本・自然資本を集計した包括的富(IW)の変化は、持続可能性指標の一つとして注目されている一方で、経済学的な意味合いは明らかになっていない点も多い。そこで本研究では、IWのマクロ経済学的研究を行う。第一に、GDPとIWとの理論的関係を明らかにし、時系列データによりGDPとIWとの関係を分析する。第二に、IWの変化が実際に人々の福祉向上に結びついているかどうかを分析する。その際、人口や環境アメニティの変化も考慮する。第三に、割引率がIWに与える影響について、理論とデータによる実証を行う。第四に、制度の質がIW変化に与える影響を検討する。最後に、IWの道徳哲学的位置づけを検討する。

研究の性格

  • 主たるもの:基礎科学研究
  • 従たるもの:政策研究

全体計画

第一に、GDPやNNPとIWとの関係については、まず基本的な定義式を確認し、IW成長率をGDP成長率の関数として導出する。この関係式から、IWはグリーンGDPの一種であると位置付けられ、IW成長率とGDP成長率との間には、共通項と異なる項目とがあることがわかる。これにより、GDP成長率を要因分解する成長会計のような形でIW成長率を要因分解できる。さらに、クロスセクションデータにより、GDP成長率はプラスだがIW成長率はマイナスといった興味深いケースを対象に、何が両者の違いをもたらしているのか、そして何を改善すればGDPだけでなくIWのプラス成長に結びつけられるのかという示唆を得る。また、IWに基づいた持続可能性分析では、対象期間中の各資本のシャドー価格は一定とされる。短期的には資本の限界的な便益は一定と考えられるためである。今後中長期的にIWを測定することを視野に入れ、シャドー価格が変化した場合の影響を検討する。その際、相対価格、価格指数、数量指数、要素シェアなどの概念も用いる。
第二に、自然資本の投資をプラスにすれば将来消費が減少しない「ハートウィック・ルール」について、IWとの関係が厳密には議論されてこなかった。そこで本研究では、人口や自然資本のアメニティなども考慮したIWにおけるハートウィック・ルールを、Hamilton and Hartwick(2005)を拡張する形で理論的に検討する。その上で、世界銀行のグローバルデータ(World Development Indicators)を使ってハートウィック・ルールが成立しているかを実証する。計量経済モデルも使い、理論が予測する消費変化の符号を確認する。
第三に、割引率がIWの変化に与える影響を理論的に示す。割引率(純粋時間選好率)の増加は、一方で、福祉に対する収益の増加をもたらすため、今期に消費に回してよい分が増え、持続可能性基準が緩くなる。他方で、IWに対してはシャドー価格の減少を通じて影響する。各資本の収益率も重要となると思われる。これらの関係を明示する際、資本のシャドー価格を算出する際の実質的な割引率(自然資本フロー割引率)についても定式化を行う。その上で、Inclusive Wealth Reportのクロスセクション・データを用いて、割引率の変化がIW変化率に与える影響分析を行う。
第四に、制度の質がIWに与える影響について、森林資源・土地開発を含むマクロモデルとグローバルデータをもとに分析を行う。
最後に、Arrow et al. (2012)が定式化したIWは割引功利主義に基づくが、福祉は、権利の概念も含む広範なものである。そこで道徳哲学の理論を使うと、IWがどう位置づけられるかを検討する。これによりIWの長所と短所を議論し、短所を克服して政策適用にさらに有意義に使えることを目指す。

今年度の研究概要

本年度は、1.GDPとIWとの関係、2.IWと福祉の関係、3.割引率とIWの関係、4.制度の質とIWとの関係、5.IWの道徳哲学的位置づけ、のうち、既に着手している2.と4.の分析を、学会等で得られたコメントを元に精緻化することを中心に進める。

2.については、理論的には社会厚生関数の定義によってIWと福祉との関係が異なることを論理的に説明できるようにし、データによる実証においては、より良い計量経済モデルがないかを引き続き検討する。

3.については、理論分析に着手し、割引率が各資本に与える異なる影響を明示化する。

4.については、より当てはまりの良い計量経済モデルがないかを検討しつつ、論文化を行う。

また2.に関連して、新型コロナウイルス感染症対策のIW指標を用いた分析を行う。そのため1.および5.については、余力に応じて着手したい。

外部との連携

共同研究ではないが、神戸大学、九州大学、沖縄科学技術大学院大学、ケンブリッジ大学、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス、イェール大学、ボルドー大学等の研究者とのディスカッションを適宜行う。

備考

統合研究プログラム

課題代表者

山口 臨太郎

  • 社会システム領域
    経済・政策研究室
  • 主任研究員
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