ユーザー別ナビ |
  • 一般の方
  • 研究関係者の方
  • 環境問題に関心のある方

災害環境研究プログラム(令和 4年度)
-

研究課題コード
2125SP060
開始/終了年度
2021~2025年

研究概要

-福島県内における地域環境の再生・管理と地域資源を活かした環境創生に資する地域協働型研究を推進する。また、東日本大震災等過去の災害からの経験と知見の集積・活用・体系化により、国内の大規模災害時の廃棄物処理システムの強靭化と化学物質リスク管理に係る非常時対応システムの構築に取り組む。。3年を目途に地域資源利活用や災害廃棄物処理支援等に関する主たる技術・システム開発等を行う。さらに、それら成果に基づいて、福島の環境復興に資するシナリオや災害時の廃棄物処理や化学物質管理に係るシステムの構築と提案と、それらの実装支援とそのフォローアップを目指す。これにより、「福島における持続可能な地域環境の構築」と「将来の災害に対する地域のレジリエンスの向上」の実現に貢献する。

研究の性格

  • 主たるもの:技術開発・評価
  • 従たるもの:応用科学研究

全体計画

 過去の災害から得られた経験と知見の集積と活用に基づいた研究の実用化及び体系化を図りつつ、地域ステークホルダーとの協働の下、自然環境の再生・管理と地域資源を活かした環境創生に資する地域協働型研究の推進と、大規模災害時における廃棄物処理システムの強靭化と非常時対応システムの構築に取り組む。
 本研究プログラムでは、以下の6つの課題に取り組む。
? 住民帰還地域等の復興と環境回復に向けた技術システム構築。
? 被災地域における環境影響評価及び管理。
? 地域再生と持続可能な復興まちづくりの評価・解析。
? 避難指示解除区域における地域資源・システムの創生。
? 広域・巨大災害時に向けた地域の資源循環・廃棄物処理システムの強靭化。
? 緊急時に備えた化学物質のマネジメント戦略。
 ?については、国が定める戦略目標の設定期限2024年をターゲットとし、除去土壌等の減容化及び再生利用並びに県外最終処分に向けた技術開発を行うとともに、シナリオ評価や社会受容性を考慮して適正な技術システムを提案する。木質バイオマスや資源作物等を原料として再生可能エネルギーを製造する技術及びコンバインド技術システムを脱炭素化や安全性に着目して開発する。同時に、処理過程における放射性セシウム等の有害元素の挙動を明らかにし、バイオマスの利活用シナリオを提案する。以上の研究成果について社会実装等を通じて、住民帰還地域等の復興や環境回復に役立てる。具体的には、3年を目途に、減容化技術については技術シナリオの確認を、バイオマス利活用については技術システムの提案をそれぞれ実施し、5年を目途に、除去土壌利用に係る社会実装支援と県外最終処分に向けた詳細技術試験とシナリオ提案を行うとともに、放射性セシウムの挙動解明に基づくバイオマスの利活用シナリオを提案する。
 これらの取組により、県外最終処分等に係る一連の技術システムのシナリオ評価を通した開発、有害元素の挙動に着目したバイオマスの利活用シナリオと技術システムの提案し、国の施策や地域社会に実装する。
 ?については、避難指示区域内外を対象に、自家採取食物の採取活動と摂取に伴う被ばくリスク評価と低減手法の開発を行うとともに、淡水環境における生物利用性放射性セシウムの生態系移行と除染シナリオを想定した生態系サービスへの影響評価、及び生態系モニタリングに基づいた里地・里山環境における人と野生生物との関係性の変化による影響評価を行う。具体的には、3年を目途に里山における内外部被ばく低減手法の開発や、放射性セシウムによる淡水魚汚染リスク低減のための山林及びダム湖除染シナリオを設定する。また、生態系サービス管理指標生物を用いた里地里山の管理効果指標・予測モデルの提案及び環境試料から感染性ウイルスを簡便に検出する方法を開発する。さらに5年を目途に里地里山での生業における内外部被ばく線量の低減手法の効果の提示や、山林及びダム湖除染シナリオによる費用便益評価を達成する。また、生態系サービス管理効果指標・予測モデルの確立と一般化を行うとともに、避難指示区域内における感染性ウイルスの分布状況を提示する。
 これらの取組により、避難指示が解除された地域において、住民の生活様式に即した科学的データを提供することで、帰還住民の安心安全の醸成や未帰還住民の帰還の意思決定に際し判断材料を増やすことを目標とする。
 ?については、原子力災害の被災地を中心とした復興のデータベースを構築し、持続可能性の各側面から復興過程の定量的分析を行う。将来シナリオを分析する地域統合評価モデルを開発し、避難指示解除地域における持続可能な発展に向けたシナリオを構築する。また、震災後の復興が円滑に進んだ地域を先導モデル地域として選定し、適切な事業・技術を選定し環境まちづくりを実現するための地域解析システムを開発する。具体的には、3年程度で復興のデータベースを用いた持続可能性の各側面から復興過程の定量的分析と、それを活用して大規模避難後のマクロ的な地域再生を描写し将来シナリオを分析する地域統合評価モデル(R2-AIM)を開発する。また、先導モデル地域を対象とした、環境まちづくりの実現のため適切な復興事業・技術を選定し得る地域解析システムを開発する。また、5年を目途に、これらモデルやシステムを活用し、将来シナリオの構築や環境復興計画、環境に配慮したまちづくりの実現に向けた具体的な提言を行う。
 これらの取組により、避難指示解除地域等における復興、再生、持続可能社会実現に向けた環境まちづくりに貢献する。
 ?については、放射線災害を受けた対象地域において、地域資源、里地里山生態系サービス、地域社会システムの統合的研究を行い、?と?の課題との連携のもと、環境放射能汚染に係る環境影響評価や修復、バイオマス等地域資源の利活用に基づく環境創生を一貫して推進するプロジェクト研究として取り組む。具体的には、3年程度で環境放射能汚染による影響評価も含めた地域資源ポテンシャル調査や地域社会システムに係る調査結果を基に、避難指示解除区域における地域資源利活用に関する地域システムの創生研究を実施する。また、5年目を目途に、それらを踏まえ、本システムを活用した地域資源の利活用を柱とした持続可能な地域環境構築に向けた取組に対する自治体等の計画、方針などへの反映や、災害後のバイオマス利活用、林産物などに関する技術導入のガイドラインの作成を行う。
 これらの取組により、対象地域における放射線災害からの里地里山、生態系サービスの回復に向けた事業化や放射線災害後のバイオマス利活用、林産物などに関する技術的知見、ガイドラインの確立を目指す。
 ?については、南海トラフ・首都直下地震のような巨大災害、広域的な豪雨災害時には、処理主体である基礎自治体を中心とした、広域行政主体・民間事業者・市民等の資源循環・廃棄物処理に関わる地域主体のガバナンスが重要課題である。また、技術的観点からは、大量のコンクリートがらや解体系木くずなどの出口確保が大きな課題となる。いつ発生するか分からない巨大災害に対応するためには、上記の課題に対して、平時と災害時のコベネフィットを実現する対策が求められる。そのため、災害廃棄物処理に係る平時とのシームレスなガバナンスシステムと再生資源の利活用戦略を検討し、ガバナンスの在り方とその実装を支援するオンラインツール、事前復興計画の理念を踏まえた具体的な技術・社会システムを提示する。さらに、?と?の課題と連携し、レジリエントな社会構築に向けた他の社会システムに係るガバナンスの在り方についても検討する。具体的には、3年程度でモデル地域における廃棄物ガバナンスプロセスの試行を開始し、それを支援するオンラインツールの基本システムを構築するとともに、土石系及び木質系循環資源の推計と利活用に係る需要・コストの整理・予測を行う。また、5年を目途に、レジリエントな廃棄物処理システムを実現するためのガバナンスガイドの提示と地域の関係主体の能力向上・連携醸成に活用できる「災害廃棄物対策支援ツール」の本格運用を始めるとともに、土石系及び木質系循環資源の平時とシームレスな出口戦略を提示する。
 これらの取組により、災害廃棄物処理に係る平時とのシームレスなガバナンスシステムとその実装を支援するツールを実装し、事前復興計画の理念を踏まえた具体的な再生資源の利活用技術・社会システムを提示する。
 ?については、緊急時に備えるべき化学物質の管理システムやモニタリング体制の在り方等、化学物質のマネジメントへの取組として、災害を含めた突発的事故に対処するための情報基盤構築とリスク管理体制の体系化に加えて、それら発災による化学物質の影響を迅速且つ的確に把握するための包括的調査手法の開発と実用化を図り、リスクに対処する科学的手法と将来的な化学物質の管理システムの方向性を環境施策として提示する。具体的には、3年程度で過去事例の解析に基づいた災害事故時における化学物質のリスク管理体制を体系化する。一方、漏洩した化学物質の迅速な汚染実態の推定とその曝露評価の点では、親水性の調査優先物質についてデータベース利用に基づく迅速簡易同定定量システムの基礎データを収集するとともに、災害時環境疫学及び環境曝露をより効果的に調査可能なツールと手法を開発する。また、陸域で漏洩・放出された化学物質の溜まり場となる沿岸海洋生態系に着目し、事例解析も含めた定量的な災害影響予測法を提案する。また、5年を目途に、早期復興に求められるリスクに対処する科学的手法と将来的な化学物質の管理システムを行政施策に提供する。
 これらの取組により、緊急時を想定した化学物質のリスク管理基盤の構築に加えて、漏洩した化学物質の汚染状況、災害時環境疫学及び環境曝露を迅速かつ適切に把握可能なツールを開発し、リスクに対処する科学的手法と将来的な化学物質の管理システムの方向性を環境施策に提示する。

今年度の研究概要

 ?については、除去土壌の実証盛土試験を継続し、溶融スラグの実証盛土試験を新たに開始する。また、県外最終処分に向け、イオン交換反応理論を用いた吸着剤評価の手法開発に着手し、技術合理性を考慮したシナリオ・コスト評価を進める。さらに、木質バイオマス発電技術開発については、施設調査等により放射性セシウムの挙動を明らかにするとともに、メタン発酵技術に関して木質、草本バイオマス発電の残渣等を利用した発酵促進資材の作成と効果検証に取り組む。
 ?については、野生山菜への放射性セシウム移行低減技術について現地試験により短期効果を検証するとともに、開発中の自家消費に関するアンケート調査票FFQのバリデーションを行う。また、福島県内の河川等を対象に淡水魚汚染の将来予測を行うため、河川水・ダム湖水を対象とするセシウム動態モデルの構築により溶存態放射性Cs濃度の長期的予測を行うとともに、溶存態放射性Cs濃度及び餌の放射性Cs濃度と生物放射性Cs濃度の関係について解析を進める。淡水魚汚染経路の解明を検討する。さらに、生物相モニタリングデータ等を活用し、里地里山指標生物群候補の動態・分布モデルの精緻化や豚熱等のモニタリング手法の開発改良を行う。
 ?については、原子力災害の被災地を中心とした復興状況データべースの構築を継続し、人口回復の要因分析を行うとともに、地域統合評価モデルへの帰還進捗への影響係数の組み込みおよび、資源循環、生態系などの新規モジュール開発に着手する。また、地域解析システムの開発を継続し、建物シミュレーションによるエネルギー需要予測システム開発とデマンドレスポンス制御モデル開発を進めるとともに、浜通り地域での社会実証・実装に向けて対象自治体の担当者との協議を開始する。
 ?については、避難指示解除された地域における森林資源の詳細モニタリングを実施するとともに安全な地域資源利用と廃棄物処理システムの概略を設計する。これら研究途中結果を参照しながら社会実装に向けた課題を整理する。また、同地域において地域ニーズ、ステークホルダーネットワークに関する基礎調査を実施し、地域社会システムの動態を把握するとともに、先進事例との比較に基づいて地域再生のための環境制度・技術導入のための地域社会システム創成についての研究を開始する。さらに、大熊町において役場・民間ステークホルダーとの連携強化のための現地拠点設置の検討に着手する。
 ?については、災害廃棄物処理に係る地域ガバナンス事例の分析を進め、初動対応における地域主体の効果的な連携方策について仮説を検討・確認するとともに、地域における仮置場や広報の準備に活用できる災害廃棄物対策支援ツールの開発と実装を進める。また、巨大災害時に大量発生する土石系及び木質系について、首都直下型地震を想定してコンクリート殻の処理シナリオ評価、及び環境安全性評価のスキームにおける要件を明らかにし、溶出リスク等に係る知見の集積を図る。
 ?については、災害時の円滑な化学物質管理の実現に向けて既存のリスク管理手法と過去事例の解析を実施する。リスク管理システムでは、事業所に対する聞き取り調査や具体的事例を想定した机上演習による情報基盤の改良を進める。自動同定定量システムは親水性成分まで対象を拡張し、ケーススタディを通して手法の最適化を図る。環境予測では、船舶や陸上施設由来の重油・鉱物油の類型化を引き続き実施するとともに、東日本大震災後の干潟調査データを精査し、生物群集の類型化と変動要因を推定する。災害疫学・曝露評価ツールの公開に向けた質問票の整備にも取り組み、これまで災害環境研究プログラムで得られている情報に基づいて曝露予測・推計を試みる。

備考

以下の個別の事業科目を統合する形で研究計画を作成(予算コード)
・最終処分に向けた除去土壌等の減容化・処分技術システムの開発(241QI10)
・対策地域内等におけるバイオマス利活用技術及びシステムの開発(241QI20)
・里地里山における放射線被ばくリスクの低減に関する研究(241QJ10)
・淡水環境における魚類への放射性セシウム移行のメカニズム解明と将来予測(241QJ20)
・生態系モニタリングに基づく被災地の里地里山環境評価と管理手法の開発(241QJ30)
・地域再生過程の定量的分析と将来シナリオ構築手法の開発(241QK10)
・復興地域における環境まちづくり支援手法の構築(241QK20)
・避難指示解除区域における地域資源・システムの創生研究(241QL10)
・災害レジリエントな廃棄物処理ガバナンス戦略(241QM10)
・広域巨大災害における災害廃棄物の出口戦略(241QM20)
・緊急時における化学物質のマネジメント戦略(241QN10)

課題代表者

林 誠二

  • 福島地域協働研究拠点
  • 研究グループ長
  • 博士(工学)
  • 土木工学,林学
portrait

担当者