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土壌炭素のターンオーバー速度に関する陸域モデルの改良(令和 4年度)
Refinement of terrestrial model in terms of turnover rate of soil carbon

予算区分
基盤B
研究課題コード
2123CD006
開始/終了年度
2021~2023年
キーワード(日本語)
炭素循環,地球温暖化,生態系モデル,土壌炭素,ターンオーバー速度
キーワード(英語)
Carbon cycle,Global warming,Ecosystem model,Soil carbon,Turnover rate

研究概要

土壌は持続可能な社会に必須の資源であるだけでなく、地球温暖化に対するフィードバック機構としても注目されている。しかし、土壌中のプロセスは複雑であり、既存のモデルは土壌の構造や機能を満足に再現できていない。そこで本質的な役割を果たす有機炭素量は、植生からの枯死物などのインプットと、土壌中での平均的な回転(ターンオーバー)時間・速度で決定されるため、土壌炭素のターンオーバー時間を正確に把握することは極めて重要である。言い換えれば、鍵パラメータであるターンオーバー時間を究明することで、土壌中での諸過程に関する理解が深まり、環境変動に対する土壌応答を正しく予測できるモデルを構築できる。本研究の基本的着想は、ターンオーバー時間の決定要因を理解し制約することで、土壌全体の挙動をモデルで現実的に評価することである。本課題の実施項目は以下の4点である。?データ整備:土壌炭素ターンオーバーと影響要因に関する実測・モデル出力データを全球スケールで整備する。?生物地球化学:土壌炭素の分解・安定化と関連性がある鉱物質等の作用を検証する。?モデル:現在の土壌ターンオーバーと影響要因(気候、植生、鉱物質など)との関係を表す統計モデルを開発する。?検証:生態系炭素循環モデルに組み込んで全球シミュレーションを実施し、土壌炭素ストックや二酸化炭素放出量に関する検証を行う。これらを通じて土壌炭素動態のモデル再現性を向上させることは、炭素循環に関する科学的理解が深化するだけでなく、土壌管理や気候予測など応用面も期待される。

研究の性格

  • 主たるもの:基礎科学研究
  • 従たるもの:応用科学研究

全体計画

本課題の目的は、土壌炭素の分布や動態に関する理解を深め、それをより現実的に再現するモデルを構築するため、土壌有機炭素のターンオーバー時間に注目し、その実態や変動メカニズムを解明して、炭素循環モデルの高度化につなげることである。グローバルな土壌データとモデルと土壌分析を組み合わせることで、温暖化研究などの広域を対象とした研究や土壌管理などの実用に応用可能な知見やモデルを構築する。
学術的独自性および創造性:土壌炭素動態に関する研究例は多いが、素過程でなく土壌全体のターンオーバー時間に着目した例は少なく、特にモデル研究では土壌シミュレーション結果の相互比較に留まっていた。本研究では、近年の土壌データセット、統計アルゴリズム、プロセスモデルを用いることで、炭素循環モデルの制約につなげる新しい試みを行う。土壌炭素の広域分布や環境応答に関する新しい知見がもたらされると期待される。また本申請では、生態系モデル研究者と土壌研究者が共同研究を行うことで分野融合的な取り組みを行い、将来的な土壌科学、生態系生態学、地球環境科学への展開が有望視される。
2021年度 土壌炭素ターンオーバーとその影響要因に関する観測データ、モデル推定出力データを全球スケールで整備する
2022年度土壌炭素ターンオーバー時間とその影響要因(気候、植生、鉱物質など)の間の関係を表す統計モデルを開発する
2022–2023年度土壌炭素を安定化しターンオーバー速度と関連性が強い生物地球化学的要因、特に鉱物質の影響を解明する

今年度の研究概要

2022年度は、本課題で収集した土壌データおよび測定データを用いて、グローバルスケールで土壌炭素ターンオーバー時間を推定する統計モデルを作成する。研究の進捗に応じて機械学習など新しいアルゴリズムを試行する。出発点として、現在の炭素ストックと分解速度のメッシュデータを用いて、各格子で「炭素ストック/分解速度」値の分布を求める。分解速度の分布は、分担者(橋本)がグローバルな統計モデルを作成しており(Hashimoto et al. 2015の推定をアップデート)、その計算結果を用いる。他の研究者による分解速度の全球マップも可能な限り取り寄せ、分解速度推定の不確実性に起因する不確実性をターンオーバーのモデル推定に組み込む。使用する土壌炭素マップ、あるいは統計モデルに入力する気象データなど推定方法に起因する不確実性も評価する。平行して最新の土壌呼吸データベースを利用し、土壌炭素ストックとCO2フラックスから求めたターンオーバー時間と、気象条件、土壌性質、植生、地形、土壌深度などとの間の要因を、一般化線型モデルなど統計手法を用いて分析する。土壌炭素量や鉱物組成は深さ方向の変化もあるため、異なる層位ごとの特徴を調べるとともに、土壌全体の特徴を代表する指標を探索する。特に、初期マップで考慮されていない撹乱や環境変動を受けた非定常状態にある生態系の土壌ターンオーバー時間について、定常状態を仮定した場合からの差違を確認する。

外部との連携

農研機構、森林総合研究所

課題代表者

伊藤 昭彦

  • 地球システム領域
    物質循環モデリング・解析研究室
  • 主席研究員
  • 博士(理学)
  • 生物学,地学,林学
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