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2017年6月30日

エネルギーとコミュニティを探る~福島県奥会津地域での新研究

特集  国立環境研究所 福島支部を拠点とした災害環境研究の新たな展開
【研究プログラムの研究実地状況3:「環境創生研究プログラム」から】

中村 省吾

 平成23年の東日本大震災と福島第一原子力発電所事故は、私たちのくらしにエネルギーが欠かせないことを再確認する非常に大きな出来事でした。太陽光発電を始めとする再生可能エネルギーへの関心や、計画停電などを始めとする省エネルギーに対する意識の高まりは未だ記憶に新しいところです。

 さらに、地域におけるコミュニティの重要性が改めて認識されたのも震災と原子力事故が発端であったと言えます。近年、少子高齢化や都市化の影響により地域のコミュニティは希薄化していると言われていますが、災害時にはその地域のコミュニティを通じた助け合いが各地で行われ、つながりがより強くなった地域もありました。その一方で、避難生活によってそれまであったつながりが分断されてしまった地域も数多くあると言われています。

 国立環境研究所福島支部では、被災地における地域コミュニティの絆の維持・再生や、さらなる地域活性化に向けた復興支援の一環として、情報通信技術を活用し、地域における環境に配慮したエネルギー利用の効率化や省エネルギー行動支援、および地域コミュニティ活動支援とを目的とした地域情報システム「くらしアシストシステム」*1の開発と研究を進めてきました。被災地域における情報通信技術を活用した取り組みとしましては、日々の様々な生活をサポートすることを目的とした福島県浪江町のタブレット事業が知られていますが、「くらしアシストシステム」では生活サポートに加えて家庭のエネルギー消費量を見える化することで省エネ行動を促進し、環境にやさしい復興まちづくりにも貢献することを目指しています。福島県新地町での取り組みについては『国立環境研究所ニュース』34巻2号や、『環境儀』NO.60で報告しました。今回は、平成28年の福島支部設立後に連携が始まった新たなフィールドでの研究について報告します。

 福島県奥会津地域では、東日本大震災と同年の平成23年7月の新潟・福島豪雨により甚大な被害を受け、現在もJR只見線が一部運休しています。山深い奥会津地域では、少子高齢化が急速に進む中、森林を含めた地域資源を活用した持続可能な社会に向けた取り組みが進められています。福島支部では福島県における森林再生を目指した研究にも力を入れており、平成28年度に奥会津地域の三島町に研究協力の依頼をし、加えて現在奥会津五町村活性化協議会にも研究協力を打診しています。

図1 三島町単身者向け町営住宅(出典:広報みしま2017年4月号)
図2 タブレットによる「くらしアシストシステム」の表示例

 森林再生を推進するためには、従来のように森林を木材として利用することに加え、木材としての利用が難しいものは地域のエネルギー源(電気や熱)として利用するなど、森林資源を総合的に活用できるシステムを考えることも大切になります。そのためには、地域で電気や熱といったエネルギーがどこでどのように消費されているのかを把握し、それに合わせたエネルギー供給のしくみを検討する必要があります。エネルギーの利用状況を把握することで、例えば木質バイオマスを活用するボイラーや発電所を設置し地域で利用する計画に対して、施設の規模や運用、採算性などをシミュレーションすることが可能です。このような取組の一環として、平成29年3月に竣工した定住促進のための町営住宅(図1)に対して、ホームエネルギーマネジメントシステム(HEMS, Home Energy Management System)を設置し、「くらしアシストシステム」と連携させる研究を開始しました(図2)。HEMSとは、家庭内で多くのエネルギーを消費するエアコンや給湯器を中心に、照明や情報家電まで含めてエネルギー消費量を可視化しつつ積極的な制御を行うことで、省エネやピークカットの効果を狙うエネルギー管理システムを指します。

 具体的には、設置したHEMSと住宅に設置済のスマートメーターとを接続し、住宅におけるリアルタイムな電力消費量を計測するとともに、電力使用状況の診断や専門的な知見に基づいた省エネ情報の提供、環境に配慮した行動を促す研究等を行うことを検討しています。スマートメーターとは、ネットワークを通じて遠隔から検針が可能な電力計で、2024年度末までに国内全世帯に設置される予定です。検診データは電力会社に申請することで個人でも閲覧可能となります。入居されている方々は、お手持ちのパソコンやスマートフォンなどから「くらしアシストシステム」へアクセスすることで、モニターとして研究に参加いただきます。また、モニター以外の三島町民の皆さまや町外からの来訪者の皆さまにも、町のホームページの新着情報や電子地図を活用した地域情報マップ、観光アンケートなどが「くらしアシストシステム」から利用可能となる予定です(図3)。

図3 くらしアシストシステム(開発中の三島町向けバージョン)
図3 くらしアシストシステム(開発中の三島町向けバージョン)

 HEMSとスマートメーターの連携により得られたエネルギー消費量データは、地域のエネルギーシステムを考える際の基礎データとして役立てることが出来ます。また「くらしアシストシステム」によるアンケートは、同じ対象者への継続調査が容易に行えるため、長期的な追跡調査が必要な研究に活用できます。既に新地町の「くらしアシストシステム」モニターを対象として、電力の見える化などが環境意識や行動へどのように影響するかについての研究を行いました。

 さらに、自治体からのお知らせや地図による情報提供は、アンケート機能などを使って情報に対する反応を確認することができるため、地域コミュニティの現状やコミュニティを維持するためのニーズの把握が行えます。

 「くらしアシストシステム」は、今後福島県内の各自治体でも利用可能となるように計画しています。また、スマートメーターやHEMSは将来的に100%の普及が見込まれており、今後は特別な機器を用意しなくても「くらしアシストシステム」のすべての機能を使うことが出来る予定です。

 新地町では約80世帯の皆さまのご協力の下で研究を進め、地域の絆づくりに役立つシステムを模索してきました。まだ課題も多く残っていますが、多くの皆さまのご支援に感謝するとともに、環境にやさしい復興まちづくり及び地域コミュニティづくりに貢献できるよう更に研究を進めていきます。


*1 既報では「くらしアシストタブレット」と報告していましたが、その後の研究を元に大幅な改良を行い、タブレット以外の機器でも使用可能となったため「くらしアシストシステム」と改称しました。今後もいただいたご意見も踏まえてよりよいシステムを目指します。

(なかむら しょうご、福島支部 地域環境創生研究室 研究員)

執筆者プロフィール:

福島支部に着任してから早1年が経過しました。初めて経験する東北の冬は思った通り(?)の厳しさで南国出身者には堪えましたが、気がつけばクールビズの季節ということで、毎年恒例のかりゆしウェアに着替えたいと思います。