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環境放射線と人為的攪乱による生物・生態系影響に関する研究(平成 28年度)
Research for Impacts on Organisms and Ecosystem from Environmental Radiation and Evacuation in Fukushima

予算区分
AS 災害環境研究
研究課題コード
1620AS004
開始/終了年度
2016~2020年
キーワード(日本語)
住民避難,環境放射線,生物・生態系影響,DNA損傷・変異
キーワード(英語)
Evacuation, Environmental radiation, Biological and Ecological Effects, DNA damage and DNA mutation

研究概要

空間線量の低下に伴い、近い将来住民が元の居住地に帰還することが予測されるが、その場所はしばらくの間放置されていたため、生態系が変化していることが予想され、帰還住民が直ちにそこで生活を出来るのかどうか危惧されている。そこで、本プロジェクトでは生物・生態系の視点から見た、帰還後の生活への正負の効果に関する知見及び科学的に適正・妥当な放射線影響の知見を提供する事により、「安全・安心」に生活を送るための基礎情報を提供し、生物環境を視野に入れた復興シナリオの策定並びにその実施に貢献することを目的とする。

研究の性格

  • 主たるもの:応用科学研究
  • 従たるもの:基礎科学研究

全体計画

1. 生態系変化の実態把握
・福島県浜通りを対象に多地点での生物の出現頻度をモニタリングし、GISにより可視化する。
・帰還困難区域とその周辺の陸水域、潮間帯、沿岸域の生物調査と核種分析を行う。
・リモートセンシングに基づく植生景観変化の把握とモデル化を行う。
・現存植生の現地調査とそれに基づく集落無人化後の長期植生変化予測モデル構築。
2. 放射線等の生物影響評価
・DNAレベルでの低線量影響検出指標の開発と手法の現地への応用。
・流域圏食物網における放射性物質移動経路と濃縮率の推定により生物を介した放射性物質移動のメカニズム解明を行う。
・現地調査で認められた生物の「異変」の原因特定とメカニズムを実験により解明する。
3. かく乱された生態系の回復研究
・人口減少(無人化)によりかく乱された生態系の管理手法について、特定のモデル地域について提案しその効果をモニタリングする。
・人為的にかく乱(除染活動等)された生態系の調査と管理手法の提案を行う。

今年度の研究概要

(1) 生態系変化の実態把握とかく乱された生態系の回復研究
避難指示区域を含む福島県浜通り地方を対象に、昆虫、鳥類、哺乳類、カエル類を対象とした広域・長期間のモニタリングを継続し、市民や研究者に対する生物多様性に関する情報公開のためのインタフェースを構築する。昆虫については、里地里山を代表するトンボ類について効率的なモニタリングのための手法開発を行う。また、無人化や除染に伴う景観構造の変化を長期的にモニタリングするための手法検討として、衛星・航空写真データと現地踏査によるモニタリング手法の開発を進める。無人化が生態系の構造に与える影響を予測するため、浜通り地方の生物相の地史的背景を考慮した生態系モデルの構造を検討する。
(2) 低線量環境放射線による生物に対する影響調査
環境中の低線量放射線が遺伝子に与える影響を評価するため、前年度までに開発したDNA修復を検出できる遺伝子組換え植物に由来する培養細胞化を用いて、野外において本植物をモニタリングに使用できるかどうかについて検証を行う。また、新たに見つかった低線量放射線による花成促進機構についての研究に着手する。さらに、放射性物質による野生動物への放射線影響を把握するために、野生齧歯類(アカネズミ、ヒメネズミ等)をモデル動物として、福島県に分布する個体群と対照地域の個体群の間でDNA損傷の程度、遺伝学的変異の頻度、生殖細胞の形態等を比較する。対照地域は茨城県、富山県、青森県とする。
(3) 沿岸を中心とする水圏環境の放射能汚染及び水棲生物における潜在影響の究明
今年度は、(i)両生類、(ii)潮間帯生物、(iii)底棲魚介類とその生息環境を対象に調査を進め、必要に応じて、室内実験を行う。(i)両生類については、福島県の帰還困難区域とその周辺を対象にカエル類の生息状況を調べ、土壌表面線量率や植生の変化、除染の程度などとの関連で解析を進める。(ii)潮間帯生物については、コドラート法による付着動物群集解析とイボニシ産卵状況調査を行い、昨年までの結果と比較し変化の有無と程度を明らかにする。また、イボニシに対する放射性核種等の影響を曝露試験により調べる。(iii)底棲魚介類については、松川浦及び福島県沿岸を対象に環境試料の採取を含む定期調査を行い、放射性核種の挙動と生物群集の変化を解析する。とりわけ、放射性セシウムの魚介類への蓄積特性と底棲魚介類の再生産に着目した解析を進める。
(4) 環境放射線の生物・生態系影響に関する調査 淡水魚類に放射性物質蓄積が問題となっている天然湖沼(福島県金山町沼沢湖)においてセシウムの物質循環・水循環を明らかにし、プランクトン及びベントス等のエサ資源経由の汚染メカニズムと規制解除時期の将来予測を行う。 福島県浜通地方の主要河川において河道内湿地における放射性物質量を明らかにし、水生生物(湿地植物、両生類、魚類、甲殻類等)における蓄積量の種間差について生息環境と餌環境の点から蓄積メカニズムを明らかにする。

課題代表者

玉置 雅紀

  • 生物多様性領域
    環境ストレス機構研究室
  • 室長(研究)
  • 博士(農学)
  • 生物学,農学,生物工学
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担当者