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研究者に聞く!!

Interview

藤沼康実の写真
藤沼康実 陸域モニタリング推進室長

 日本は国土の2/3あまりが森林です。しかしながら、森林がどのくらいのCO2を吸収・放出しているかなど、実際のフィールドワークから森林全体のCO2収支を直接調べた例はあまりありませんでした。地球温暖化問題の高まりの中、今回は、森林のCO2収支観測プロジェクトチームをまとめた藤沼康実さんにお話を伺いました。

森林をまるごと観測する-CO2フラックス研究

1: 研究のはじまり-フィールドワークから

  • Q: まず、研究者になったきっかけからお願いします。
    藤沼: 私は、もともと植物の生育や栽培などに関心が強かったのです。組成やメカニズムを探るサイエンス系ではなく、技術面、つまりテクノロジー志向でした。ですから、大学時代は実験室にこもるというよりは、野外のフィールド調査が好きで、夏休みなどほとんど畑の中で暮らしていたといってもよいほどでした。
  • Q: 国立環境研究所では、当初どのような研究に携わっていたのですか。
    藤沼: 私が入ったのはまだ国立「公害」研究所という名称の頃でしたが、当時は各分野でいっせいに大型の実験施設を作った時期でもありました。植物部門でも、植物の環境制御実験施設(ファイトトロン)という施設ができたばかりでした。この施設は、簡単にいうと大規模な空調付きの温室ですが、さまざまな環境を作ることができる、世界でもトップクラスの施設でした。大気汚染が大きな問題になっていた頃で、私は、ファイトロンで大気汚染の植物への影響を研究していました。汚染された空気の中で植物がどのように反応するか、あるいは植物がどのくらい大気汚染を吸収できるのかなどの両面からの研究です。

2: 森林の炭素収支-長期モニタリングの道

  • Q: さて、今回の研究は、「森林生態系のCO2収支を調べる」ということですが、森林全体から探るということでかなりの規模の研究ですね。
    藤沼: 森林の炭素収支を調べる際、樹木などの葉で行われる光合成からCO2吸収をとらえる研究はこれまでも多く行われてきました。もちろん、これも必要なことですが、CO2収支を測るためには、森林生態系全体から考えることが重要です。まず樹木があって林床には草や笹などが生えています。これらも光合成によりCO2を吸収したり、呼吸によって放出もします。土壌中ではモグラやミミズなどの地中生物も呼吸していますが、それ以上にたくさんの微生物が活動し、CO2を放出しています。この吸収と放出の関係は森林の立地条件によって大きく変わってきます。

     たとえば、森林が密の場合と疎の場合では、日当たりも違い光合成量も変化します。また気温や水分などの環境、さらに樹齢によっても違います。このような関係を全部調べて森林全体のCO2収支を観測する必要があります。しかも、森は生きていますから、その収支は朝、昼、晩でも、季節によっても変わります。ですから、そうした変化を毎日、毎月、毎年連続してモニタリングすることが大切です。
  • Q: なるほど。たいへんな作業になりますね。
    藤沼: そうです。森全体のデータを集める必要がありますから、とにかくモニタリングしてデータを積み重ねなければなりません。こうしたプロジェクトは自然相手ですから短期間では成果は上がりません。一方、多大な経費がかかり、予算がつきにくいのです。

     この研究分野に対する風向きが大きく変わったのは、1997年12月の京都議定書の採択がきっかけでした。CO2吸収源としての森林が注目され、1999年に予算がつきました。
  • Q: 地球温暖化問題の高まりから初めて本格的な研究ができるようになったんですね。
    藤沼: 実は、森林生態系全体規模の研究としては国際生物学事業計画(International Biological Program:IBP、1965~1974)という世界中の森林や耕地などの生産性を調査した国際プロジェクトがありました。日本も参加しましたが、それ以来ですから実に30年ぶりということになります。

3: 観測地を探す-カラマツの森林

  • Q: 予算がつきました。いよいよ研究ですね。
    藤沼: まず観測地の選定です。観測には、均質な森林がフラットに広がっていると非常に都合がよいのです。日本中を探し回り、苫小牧にあるカラマツ林を選びました。大がかりなプロジェクトですし、大規模の森林での観測研究は久しぶりとあって全体をデザインできる経験者が見あたりませんでした。そこで、研究所内だけでなく広く外部の林学・生態学や気象学の研究者などに集まってもらい、まずどのような観測をやるべきかの意見交換、さらに将来の研究の発展を見通し、それを念頭に置いた観測システムを整備することから始めました。

     まず初めにやったことは観測地点まで電線を敷いたことです。観測システムが安定的に使えるように、実に6km、しかもすべて地中埋設です。おかげで、初年度の予算の半分近くが飛びました。
  • Q: どうして、そんなに経費のかかる電源を引かなければいけないのですか。それも地中埋設なのでしょう。
    藤沼: 観測サイトは人為的な影響を受けないところですから当然電気はありません。多くの項目を長期間継続して観測するためには、安定した電源の確保が不可欠です。そのため、電線を敷いての観測は、この分野に携わる研究者全員の希望でもありました。それと地中埋設は、景観上や電線が野生動物に噛まれたり、倒木での断線を防ぐなど保安対応のねらいもありました。それらの整備が行われ、研究がスタートしたのは2000年の初夏でした。

4: 苫小牧の観測-台風の襲来

苫小牧観測サイトに建てられた40mタワー。ここでCO2フラックスを観測しました。
  • Q: 苫小牧での観測はいかがでした。
    藤沼: 樹齢40余年のカラマツが広がる100haの植林地に、高さ40mと25mの2つの観測塔を建て、渦相関法(コラム参照)を用いて1年間のCO2フラックス(移動量)を調べました。まず、それを簡単に紹介します(図1)。

     図1は2001~2003年のCO2フラックス(樹木など植物の光合成によるCO2吸収量(GPP)と植物や土壌微生物の呼吸によるCO2放出量(RE))を示しています。雨により渦相関法が使えない場合もあります。その時は補完式を用いて温度や日射量から森林の正味のCO2吸収量(NEP)を推定しています。結果は、すべての数値が夏に大きく冬に小さいという季節変化の傾向をはっきり示しています。太陽の光の強さの影響が大きいGPPは初夏にピークとなり、一方、温度の影響が大きいREは盛夏がピークとなります。両者の差であるNEPは、初夏にピークを迎えます。しかしこれらの値は年々変化します。
図1 苫小牧カラマツ林におけるCO2移動量の推移(図中の数値は、それぞれの年間総量(gC/m2))
GPP、RE、NEPの用語memo 詳細は上述の通り
  • Q: それはなぜですか。
    藤沼: :森林のCO2固定量は森林植物の光合成能力と、森林生態系の呼吸とのバランスによって決まります。したがって、年ごとに太陽の光の強さや温度などの気象条件は異なるために、決して同じ結果にはなりません。

     なお、図では表していませんが、吸収したCO2を炭素に換算して1年間の合計を計算すると、光合成によるCO2吸収量は16.3~16.4tC/ha/年、正味のCO2固定量は1.6~2.5tC/ha/年となりました。計算結果に幅があるのは、呼吸によるCO2放出量の計算(光合成の起きない夜間のCO2放出量を元に呼吸を温度の式として表し、これを用いて昼間の呼吸量を推定します。)や正味のCO2固定量の推定部分における不確実性を考慮に入れているからです。得られた1年間の値は、北米の温帯の落葉広葉樹林での観測例と同程度でした(表1)。

表1 森林生態系の炭素固定量(観測例)
  • Q: これが、苫小牧での最初の成果ですね。
    藤沼: 実は、この観測の半年前から、プロジェクトチームの梁主任研究員が、直接、土壌呼吸の通年観測を始めています。土壌呼吸はまだ解明されてないことが多いのです。その中で複数の大型チャンバー(写真1)を使用した通年観測、しかも土壌呼吸の細分化(土壌と根に分けて)観測は、当時としては世界的にもあまり例のない研究でした。観測はフタが自動開閉する16個の大型容器(チャンバー)を使いました。観測時には数分閉じ、その間チャンバー内のCO2濃度上昇から土壌呼吸を算出するしくみです。これを1時間間隔で行いました。観測値は微生物呼吸のみを測る区(チャンバーの設置位置の土を堀り、根を取り除き、再度土を戻す)と、根+微生物、いわゆる土壌呼吸全体を測る区(何の処理も行わず土壌にチャンバーをかぶせる)を比較しました。この差で根の呼吸が分かります。
写真1 苫小牧フラックスサイトに設置された大型チャンバー
(左:土壌呼吸(Rs)、右:微生物呼吸(Rh))
  • Q:細かい配慮が必要ですね。
    藤沼: このようにして調べた結果、土壌からのCO2の放出量は炭素換算で9.6tC/ha/年と推定できました。具体的な推移は図2のようになります。土壌呼吸(速度)は、夏季に多く、冬季には極めて少ない値を示しています。地温との相関も高く、温度の上昇とともに高くなっています。ただ、土壌水分との相関は見られませんでした。北米などの先行研究では、土壌呼吸は水分の制限の影響を受けることが多いのですが、東アジアの温帯では降水量が多いため、水分の制限が影響しにくいことが、この違いを生み出していると予想されました。

     次に、これまでの森林と間伐して光の通りをよくした場合の1年間の比較観測を始めました。条件を変えてCO2フラックスがどのように変わるかを見たかったのです。ところが、観測を行っていた2004年9月、北海道を直撃し全道に大きな被害を及ぼした台風18号のせいで森林や施設がめちゃくちゃになり、実験は不可能になってしまいました。北海道大学の有名なポプラ並木の半数以上が倒壊したことがニュースで報じられましたので、ご記憶の方もいると思います。研究自体はその後、場所を富士北麓に移し進めています。

図2 苫小牧カラマツ林における土壌からのCO2放出(2003年)

5: 天塩での実験-樹木を丸ごと掘る

樹木を丸ごと測るため、根の一本一本まで丁寧に掘り出す。
  • Q:北海道・天塩でも観測をしていらっしゃいますね。苫小牧との比較などはできましたか。
    藤沼: 苫小牧から1年遅れの2001年夏から研究を開始しています。しかしCO2フラックスについては土壌などの立地条件も違いますし、ここでは森林を伐採して新たにカラマツを植林し、その成長過程を通した炭素収支機能を調べるという苫小牧とはコンセプトの違う研究を行っていますので、直接比較はできません。

     ここではまず樹木を種類別、大きさ別に数本根こそぎ掘り出し、その全部を量るという肉体的にもハードな研究をしましたのでそれを紹介します。
  • 具体的にはどのようなものですか。
    藤沼: 従来から、木の材木としての量(材積量)は胸高直径(地面から1.3mの木の直径)と木の高さ(樹高)が分かれば、材積量が推定できるという経験式がありました。しかし、これは林業としての材木量を量るためのもので、枝や根、葉など商品にならないところは含まれません。CO2吸収という観点からは木のすべてが対象となり、全体を調べることは非常に重要なことです。こうしたデータを積み重ねていけば、それぞれの樹木全体の炭素蓄積量が分かります。日本には林業データが充実していて、全国各地の森林が把握されていますから、それに当てはめていけば、全国の森林の炭素蓄積量も推定できます。そのための基盤ともいえる研究です。
  • Q:実際の作業はたいへんそうですね。
    藤沼: そうですね。3種類の樹木で胸高直径別(30~40cm、15~20cm、10cm前後)にそれぞれで計5~7本の木について調査しました。高さが15mを超える木もあります。大型重機を使ったり、根の泥を落とすのに放水銃を使ったり、さらには乾燥も必要です。現地作業だけでも40人のスタッフが1週間かかり、その後の乾燥は1年もかかりました。

     図3がその結果です。広葉樹と針葉樹では葉量が大きく違い、樹木全体から見ると葉の割合は広葉樹で2~3%、針葉樹でも10%程度と小さいことがわかります。
    また、材として経済価値の高い幹が樹木全体としてみると約1/2に過ぎないことが分かりました。
図3 北方3樹種のバイオマス量の比較

6: アジアフラックスネットワークへの貢献

  • Q:苫小牧には多くの研究者が集まったそうですね。
    藤沼: 実は森林のCO2フラックスの研究は、欧州や北米に比べアジア地域は遅れています。圧倒的にデータが少ないのです。「これはいけない。何とかしよう」と1999年9月にアジア地域の観測研究ネットワーク;アジアフラックス(AsiaFlux)が発足し、わたしども地球環境研究センターに事務局が置かれました。苫小牧サイトの立ち上げとAsiaFluxの発足がほぼ同じ時期になり絶好の機会でした。そこで、苫小牧サイトで行う研究課題を募しました。私たちのプロジェクトも所外の研究者が参加することで幅が広がりますし、やってくる彼らにとっても研究環境のよい場所はほしいわけです。たくさんの研究者が集まりました。
  • Q:フラックス関係の研究者が中心ですね。
    藤沼: 基本はそうですが、他にも大気関係、植物の生理生態、造林関係などさまざまで、集まった研究の題目だけでも30を超えたほどです。この研究で博士号を取った院生も数人おり、若い研究者も育てたことになります。苫小牧サイトにおけるカラマツ壮齢林の観測は台風の影響で不可能になりましたが、山梨県・富士北麓に拠点を移して観測を行い、AsiaFluxへの貢献は続いています。

7: 新たな取り組み-研究の今後

  • Q:今回は野外研究が中心ですが、フィールドワークだからこそ見えてくるものや、野外活動での苦労話などをお願いします。
    藤沼: 富士北麓でも、観測地周辺の4haのどこに、どのような木がどのくらいあるのか、下草もどのくらい生えているのか、人海戦術で全部調べています。こうした地道な努力の積み重ねがあって初めて、そこにどのくらいの炭素が固定されているかの正確なデータを把握することができます。

     とはいえ、研究上はいろいろな障害もあります。木を丸ごと掘り出すサンプリング調査も、複数の関係機関に説明し、許可を得ることが必要ですが、これがなかなか一筋縄ではいかないのです。今回、ようやく10本の伐採許可が下りて喜んで始めたところ、そのうちなんと3本も芯が腐っていました。しかし「3本追加します」と簡単にはいきません。再度、説明し、許可を得なければなりません。こんな試行錯誤の繰り返しが続いています。

     この分野の研究は、まだ発展途上の段階で、肉体をフルに使う研究の基盤づくりに加え最先端の研究も行わなければなりません。まさに走ったり止まったりしているのが現状です。しかし、私たち以外の研究グループでもこうした観測は始まっています。連携を進めて、森林のCO2収支を詳細に比較できる地域を点から面へ、そしてそれをアジアへも広げ、具体的な社会貢献をめざし、今後も、一歩一歩研究を続けています。
  • Q:ありがとうございました。

コラム

  • 森林のCO2の吸収と放出
     植物は光合成により大気中のCO2を有機物にします。この有機物のうち、およそ半分は植物体の生命活動を維持するエネルギー源として利用され、その結果、数日から数週間後には再び葉や幹、根などを通してCO2として大気に戻ると推定されています。残りは葉や枝、幹そして根など植物の体として固定されます。しかしこのように植物中に固定された有機物も、やがて落葉や落枝、枯死木や枯死根として土壌に移行します。土壌表層にたまった落葉などの分解しやすい有機物は、土壌微生物により数カ月から数年間で分解されCO2となって再び大気に戻っていきます。分解しにくい木質成分を多く含んだ残りの有機物は、土壌の中でさらに数十年から数百年(高緯度地域)という長い時間をかけて分解され、やはりCO2として大気に戻ります。

     このように、大気から生態系へ移行した炭素は、異なるタイムスケールをもったさまざまな循環過程を経て再びCO2として大気に戻っていきます。一般に「森林のCO2固定量」と呼ばれるものは、「大気から生態系へ移行する炭素」ではなく、それから「生態系から大気へ戻る炭素」を差し引いたものです。ですから、実際の「森林のCO2固定量」は植物が光合成により大気中のCO2を吸収した量の数分の一から数十分の一に過ぎません。大気と生態系の間には、毎年膨大な量の炭素を交換しながら、わずかずつ生態系中に炭素量が蓄積していくという関係があるのです。

     生態系の中で、光合成による大気中のCO2の固定、植物の呼吸によるCO2の放出、土壌中の有機物分解によるCO2の発生などは、環境の変化に対する応答が異なります。気温の上昇や降水量の変化などの気候変動は、これらのバランスを変化させ、結果的に「森林のCO2固定量」に大きな影響を与える可能性があります。その影響を定量的に評価するために、生態系内の炭素循環プロセスを多面的・統合的に理解することが不可欠となっています。
周期表の一部の画像。炭素の原子量は12、酸素のそれは16であることがわかる。
  • 炭素換算
     草木などのバイオマス(乾燥重量)は、一般に半分が炭素量といわれています。「炭素換算」とは排出されるCO2の中に含まれる炭素の重量のことで、CO2排出量を表すときに国際的にこの数値が使われています。

     CO21kgを炭素換算すると、
    1kg・CO2=1×12(Cの原子量)÷44(CO2の分子量)=0.273kg・C

    となります。つまり、1kgのCO2には、273gの炭素が含まれているということです。
森林生態系の炭素収支プロセスの図
森林生態系の炭素収支プロセス
  • 渦相関法とは
     森林や農耕地など陸域生態系が吸収・放出するCO2の量を測定する手法の一つで、群落の上での空気の微少な動きに連動したCO2濃度の変動を、非常に高速な応答性を持った3次元超音波風速計とCO2分析計で計測し、その関連性からCO2フラックス(単位面積当たりのCO2の移動量)を計算するものです。

     この手法は広い空間でも少数のセンサーから代表値を取ることで全体の動きが把握できる他、以下のような長所があります。

    (1) CO2フラックスをほぼ直接的に定量できる
    (2) 数分から数年という広いタイムスケール変動の把握が可能
    (3) データを得る上で省電力化、および人的労力の軽減
    (4) 長期無人観測やアクセスの困難な場所での観測が可能

    一方短所として、

    (5) 水平方向に輸送されるCO2の量が観察できないため傾斜地や複雑地形ではその影響を受けやすい
    (6) 大気の動きが安定した状況では渦拡散によるCO2の輸送が起こりにくく計算式の適用に不適切な条件となる

    —などがあります。そのため、連続した観測データから、計算に不適切な条件下のデータを検出・除外し、信頼性の高い時間帯のデータをもとに欠測期間の補完処理を行うなど、信頼のおけるデータを得るためには現在でも高いスキルとそれぞれの観測値に即したノウハウの集積が必要となっています。

     渦相関法に用いられるCO2分析計には大きく分けて a.閉鎖型のセンサー部にポンプなどで空気を外部から送り込んで分析するクローズドパス型と b.開放型のセンサーにより設置した場所のCO2濃度を直接分析するオープンパス型、の2種類があります。国立環境研究所のフラックスサイトでは、より信頼性の高いデータを取得するためのノウハウを蓄積するために、両方のシステムを長期にわたって並行して稼働させ、技術的な検証を行っています。
微気象学的方法によるフラックス観測の原理と、渦相関法によるフラックス観測センサーの図
微気象学的方法によるフラックス観測の原理と、渦相関法によるフラックス観測センサー
  • カラマツ
     マツ科カラマツ属の落葉高木で、北海道や北日本から中部地方の高原まで幅の広い地域に見られるポピュラーな樹木です。現在、日本にあるカラマツは戦後の木材需要によって植えられた人工林がほとんどです。寒冷地や火山灰の痩せた土壌にも強く、北海道では人工林の30%強を占めています。若いカラマツは成長が早く樹木の密度が低いため、曲がりや割れが出やすく、さらにヤニも出るため建材などには不向きです。昔は炭鉱の坑木として活用されていましたが、現在チップ材として使われています。

     さて、中央~東シベリアの永久凍土に自生している森林はほとんどがシベリアカラマツです。これは、日本のカラマツと同じ属の別種ですが、北東ユーラシアの広範囲な地域を代表する植生であり、北米やヨーロッパの同じ緯度帯を代表している常緑針葉樹林とは異なる特性を持っています。これまで、高緯度の森林植生での観測的知見の多くは欧米の常緑針葉樹林で蓄積されてきていますが、カラマツ林での観測データの集積により、従来のデータから類推できない情報が得られることになります。
カラマツの写真