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急速に充実する森林のCO2フラックス研究

研究をめぐって

 1990年代半ばから、世界各地で陸域生態系のCO2吸収に関して長期的な観測研究が実施されており、FLUXNETという国際的なネットワークが構築されつつあります。一方アジアはシベリアの大規模な炭素蓄積を持つ北方カラマツ林から、南は種の多様性を持つ熱帯林までの広い気候帯にまたがってさまざまな植生が分布しているため、世界中の研究者から注目されています。そしてアジアでのCO2フラックス観測研究は、日本を中心に今まさに広がっています。

世界では

 1990年代の初めごろ、地球化学、植物生理生態学、気象学などの研究者の間で、地球規模の二酸化炭素の収支の解明とその気候変動による影響の評価のためには、大気と陸域生態系の間のCO2交換の観測データの集積とそのモデル化が重要であるとの認識が高まり、学際的な研究グループによる大気・陸域生態系間のCO2交換プロセスに関する大規模な研究プロジェクトが行われるようになりました。

 北米では85の研究チームからなるBOREAS(Boreal Ecosystem-Atmosphere Study)が中心となり、1994年と1996年にカナダで大規模な集中観測を実施しました。また、1996年にはヨーロッパでEUROFLUXが活動を開始し、欧州の18のサイトで共通の手法によるCO2フラックスの長期観測が始まりました。EUROFLUXはその後、より広範な炭素循環研究プログラムを包括したCarboEuropeとして発展しています。1996年にはアメリカを中心にAmeriFluxというフラックス長期観測のネットワークが設立され、北米を中心とした多様な生態系で観測が実施されるようになりました。

 1997年に京都で開催されたCOP3(国連気候変動枠組条約第3回締約国会議)では、陸域生態系による炭素固定量を評価しこれを国別排出量から差し引くことが合意されました。これにより、陸域生態系の炭素固定量を科学的根拠を持って推定するために国際的な観測網の整備の必要性が高まりました。さらに、地域的な観測ネットワークの連携を図り、世界的なネットワークに発展させるために1998年に世界のフラックス研究者のワークショップ(FLUXNET 1998)がアメリカで開催され、ここから始まったFLUXNETがその後、国際的なネットワークとして観測データの共有や統合解析のとりまとめなどを行っています。現在では400を超すサイトがネットワークに登録されています。

フラックスネットワーク概念図
米・オークリッジ国立研究所にあるFLUXNETのHP

日本・アジアでは

 日本の研究機関や大学でも、CO2フラックス観測研究は実施されていました。産業技術総合研究所が1993年から岐阜県の高山市の森林で実施しているフラックス観測は世界的に見ても貴重な長期観測データです。しかしながら、1990年代までの多くの研究は短期的なものであったり、観測項目が偏っていたりしたため、長期的に体系的なフラックス観測データを集積することの必要性が国内で議論されるようになりました。

 1998年には国内のフラックス観測関連研究者により「フラックス研究会」が設立され、このメンバーを中心に1999年にAsiaFluxが発足しました。その後、韓国のKoFlux、中国のChinaFlux、タイのThaiFluxなど各地で地域的なネットワークが立ち上がりました。AsiaFluxでは定期的にワークショップを開催し、情報交換を行うとともに、最近ではトレーニングコースによる若手研究者の育成にも力を入れています。

 アジア域での急速なフラックス観測研究の広がりによる情勢の変化を受け、AsiaFluxと日本の研究コミュニティの関わり方を見直すために2007年には日本の研究コミュニティによるJapanFluxが発足し、AsiaFluxの傘下ネットワークとして活動を開始しています。またJapanFluxは韓国のKoFlux、中国のChinaFluxとCarboEastAsiaというプログラムを開始し、データ共有による統合解析の高度化と、技術交流を進めています。

国立環境研究所では

 国立公害研究所が国立環境研究所へと1990年に改組され、地球環境研究を推進する組織として、地球環境研究の総合化、地球環境研究の支援、および地球環境モニタリングを推進する地球環境研究センター(Center for Global Environmental Reasearch,以下CGER)が発足しました。CGERは地球環境モニタリング事業として、地上ステーションや船舶、航空機による温室効果ガスの長期的観測を推進してきました。

 1997年のCOP3以後、地球環境モニタリングの一環として、温室効果ガスフラックス観測をはじめとする森林生態系の総合的観測研究が開始されました。今回紹介した研究はこれをベースに進められたものです。

 また、1999年のAsiaFluxの発足以後、CGERにAsiaFlux事務局が設けられ、データベースの整備やワークショップの支援、ニュースレターの発行などネットワークの運営に貢献しています。

 さらに、今回の研究の現場となったサイトは、学術研究のプラットフォームとしてだけでなく、一般市民を対象としたCO2フラックス観測研究の実際の現場を紹介する舞台としても利用してきました。

タイ・チェンマイで開かれた2006年のアジアフラックスワークショップの写真
タイ・チェンマイで開かれた2006年のアジアフラックスワークショップ
サイエンスキャンプ(富士北麓)(左)と カラマツ記念植樹(北海道・手塩)(右)の写真
サイエンスキャンプ(富士北麓)(左)
カラマツ記念植樹(北海道・手塩)(右)