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低炭素社会に関する研究動向

研究をめぐって

 温暖化問題への関心は1970年代から始まっていますが、その対策に関する本格的な研究が始まるのはもっと後でした。1988年、国連環境計画と世界気象機関の呼びかけでIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が設立され、温暖化に関する観測や研究が強化されて対策研究も進んでいき、少しずつ実際の政策対応にも反映されていくようになります。

世界では

 1992年ブラジル・リオデジャネイロで開催された地球サミットや1995年のIPCC報告を受けて1997年にはCOP3(気候変動枠組条約締約国会議)にて先進国がまずは削減に取り組むという「京都議定書」に世界各国が署名しました。

 英国は2003年のエネルギー白書で「低炭素経済(Low-Carbon Economy)」という言葉を初めて使いました。2005年7月に英国グレンイーグルズで行われたG8では、初めて気候変動がサミットの主要課題になり、G8と新興経済諸国などとの意見交換(グレンイーグルズ対話)を継続的に行うことなどが決められました。この対話の枠組みが後のG20に発展しています。また2006年10月には英国政府がスターン・レビュー「気候変動の経済学」を発表し、「気候変動に対する強固で早期の対策によりもたらされる便益は、対策を講じなかった場合の被害額を大きく上回る」という結果を提示しました。

 そして2007年2月のIPCCの第4次評価報告書発表から温暖化に関する最新の科学的知見が日本のマスコミでも大きく報道されるようになりました。これを受けて、2007年12月にIPCCと米国のアル・ゴア氏がノーベル平和賞を受賞したことも大きく報道されました。そして、このころから「脱温暖化2050研究プロジェクト」が提唱してきた「低炭素社会(Low-Carbon Society)」という言葉が世界に認識されるようになっていきます。

 2008年の日英共同低炭素社会研究会合の際には、世界全体での低炭素社会研究の重要性が合意され、2008年の神戸および2009年のイタリア・シラクサでのG8環境大臣会合を経て、先進国の低炭素社会研究担当機関が参画する低炭素社会国際研究ネットワーク(LCS Research Network,LCS-RNet)の創設が正式に決定され、活動を開始しています。国立環境研究所は日本の研究担当機関として参画しています。

 2008年11月には、英国で気候変動法が成立し、2050年までに1990年比の80%の二酸化炭素排出量を削減することが法律で明記されています。2009年1月には米国でオバマ政権が発足し、その後紆余曲折はあるものの、グリーン・ニューディール政策を掲げて温暖化対策への積極的姿勢を示すこととなりました。

 2009年7月に行われたイタリア・ラクイラサミットでは、科学の提示した成果を受けて、先進国全体で2050年までに温室効果ガス排出量を80%削減、平均気温上昇を産業革命以前から2℃以内に抑える必要があるとの認識で一致しました。

 そして2009年12月のCOP15コペンハーゲン会合では、EU・米国・日本などの先進国、中国・インドなどの新興国、アフリカや島嶼国など途上国の利害調整が難航して交渉は複雑を極めましたが、首脳会議の結果、コペンハーゲン合意という政治合意文書がCOP全体会合にて了承されました。

アジアでは

 中国は途上国への削減目標義務化には反対を表明しつつも、気候変動への対応を経済・社会発展の計画に取り入れ、第十二次五ヵ年計画に低炭素発展への成長戦略を明示するなど、着実に低炭素社会への布石を打ちつつあります。

 韓国でもLow-Carbon、Green Growthを国家戦略に掲げて「新成長動力と発展ビジョン」を策定し、大規模な省庁再編を実施し、国全体で研究開発投資を推進するなど、さまざまな取り組みに着手しています。

 インドでも、削減目標義務化には反対を表明しつつも、グリーン経済成長戦略を表明しています。石炭使用への課税を導入してその資金を再生可能エネルギーの研究開発・普及の資金とする仕組みを整えるなど、エネルギー分野での低炭素化に力を入れています。

 そのほかのアジア諸国でも「低炭素社会」を目指した経済成長と温暖化対策の両立には強い関心が抱かれています。

日本では

 1997年のCOP3にて議決された京都議定書(2005年発効)により、日本は2008~2013年の第一約束期間に温室効果ガス排出量の1990年比6%削減義務を負うことになり、政府は「地球温暖化対策推進大綱」を策定してその達成に向けた取り組みを進めました。

 その後、第一約束期間が迫るにつれ、京都議定書達成やその後の枠組みに関する議論が活発化し、2007年5月には、安倍首相が「Cool Earth50」を発表し、全世界に共通する目標として、「世界全体の排出量を現状に比して2050年までに半減する」長期目標を提案し、「革新的技術の開発」を軸とする「低炭素社会づくり」という長期ビジョンを示しました。

 2008年6月に出された「福田ビジョン」では、日本の2050年の温室効果ガス排出量を現状に比べて60~80%削減することと、それを実行するために、革新技術の開発と既存先進技術の普及、国全体を低炭素化へ動かしていくための仕組み、地方の活躍、国民主役の低炭素化を掲げ、これらの努力を「低炭素革命」として進めていくと約束しました。この後、2008年7月に北海道・洞爺湖サミットを開催し、最終的に2050年までに世界全体の温室効果ガス排出量を半減する目標をG8で合意するに至り、麻生政権では中期排出削減目標の検討が進められ、2020年までに2005年比15%削減が定められるに至りました。鳩山首相は2009年の国連気候変動サミットにて「2020年までに1990年比25%削減」を表明しています。

国立環境研究所では

 地球温暖化問題に関する対策・影響評価を目的として、国立環境研究所・京都大学・みずほ情報総研(株)を中心とした統合評価モデルの研究・開発が1990年に「アジア太平洋地域における温暖化対策分析モデル(AIM)の開発」としてスタートしました。1994年からは中国・インドほかアジア各国との協働により研究開発が進められており、現在も緊密な連携のもとに各国の低炭素社会研究を推進しています。

 2004~2008年度にかけて、環境省の地球環境研究総合推進費戦略研究開発プロジェクトS-3「脱温暖化社会に向けた中長期的政策オプションの多面的かつ総合的な評価・予測・立案手法の確立に関する総合研究プロジェクト(脱温暖化2050研究プロジェクト)」が実施され、国立環境研究所が中心となって、日本の中長期脱温暖化対策シナリオを構築するための技術・社会イノベーション統合研究を行い、2050年の日本にて、主要な温室効果ガスである二酸化炭素を1990年に比べて70%削減した「低炭素社会」を実現するシナリオを作成しました。

 2006年より地球環境研究センターの重点研究プログラムとして地球温暖化研究プログラムが組織されましたが、その1つのプロジェクト4「脱温暖化社会の実現に向けたビジョンの構築と対策の統合評価」では、地球温暖化の防止を目的として、空間的(日本・アジア・世界)、時間的(短期及び長期)、社会的(技術・経済・制度)側面から、中長期的な排出削減目標達成のための対策の調査・分析とその実現可能性を評価するビジョン・シナリオの作成、国際交渉過程や国際制度に関する国際政策分析、および温暖化対策の費用・効果の定量的評価を行い、温暖化対策を統合的に評価することを目指しています。

 2009年6月より、環境省の地球環境研究総合推進費戦略研究開発プロジェクトS-6「アジア低炭素社会に向けた中長期的政策オプションの立案・予測・評価手法の開発とその普及に関する総合的研究」が開始され、国立環境研究所が中心となりアジア地域において低炭素社会実現のためのシナリオ研究を行っています。この研究では、先進国が歩んできたエネルギー・資源浪費型発展パスを繰り返すのではなく、経済発展により生活レベルを向上させながらも、低炭素排出、低資源消費の社会に移行する方策について検討し、その発展パスを描くことを目的として研究を進めています。