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「子どもの健康と環境に関する全国調査」 が始まります

【研究施設,業務等の紹介】

新田 裕史

 子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)は、環境要因、特に化学物質の曝露や生活環境が胎児期から小児期にわたる子どもの健康に与える影響を明らかにすることを目的として、2011年1月から参加者の募集をスタートする予定の全国規模の疫学調査です。

 子どもの健康については胎児から出生後の成長過程の時期によって環境に対する感受性が異なり、さらにこのような感受性は身体のさまざまな器官の構造や機能によっても異なることが知られています。そのため、子どもの健康と環境との関連性を明らかにするためには、胎児期から成人に至るまでの成長発達過程の時間軸に沿った継続した調査が必要です。エコチル調査では、妊娠・生殖、先天異常、精神神経発達、免疫・アレルギー、および代謝・内分泌の各分野について、環境要因との関係を調べます。また、子どもの健康には環境要因だけではなく、遺伝的背景や社会経済的、および生活習慣などが大きく関わるために、それらの要因も含めた調査を行います。

 エコチル調査は環境省が企画・立案したものです。全国で15地域の大学や研究機関等が中心となってユニットセンターと呼ばれる各地域の調査実施機関を立ち上げ、地方自治体と連携しつつ地域内の協力医療機関と緊密に連携して、参加者の募集やフォローアップを実施することになっています。国立環境研究所は研究実施の中心機関であるコアセンターとして、調査の総括的な管理・運営を行うことになり、担当する2室を新設しました。また、独立行政法人国立成育医療研究センターにはメディカルサポートセンターとして臨床医学の専門的立場からコアセンターを支援していただくことになっています。

■調査研究の実施体制■
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 調査の対象者は全国15地域のあらかじめ指定された市区町村に住んでいる妊婦さんと生まれてくるお子さん、加えてそのお父さんです。全国で10万組の親子が調査に参加することを目標に募集を行うことになります。参加者の募集は2011年1月から開始して3年間実施し、フォローアップは子どもが13歳に達するまで行う予定です。

 本調査では調査対象者全員に対して統一した方法で実施する「全体調査」、全対象者から抽出した一部対象者(数千人規模)に対して詳細な医学的検査などを実施する「詳細調査」、及び各地域での調査を担当するユニットセンター等が独自の企画で行う「追加調査」の3種類の調査を実施する予定です。全体調査では、妊婦さんを対象とした質問票調査、診察記録などの医療情報の収集を行います。このような調査は出産後から6ヵ月おきに継続して実施する計画になっています。また、妊婦さんやお父さんからの採血・採尿、出産時には臍帯血の採取、生後1ヵ月には母乳の採取などをさせていただいて、それぞれの生体試料中の化学物質などの濃度を測定し、環境汚染物質への曝露指標とします。これらの生体試料の一部は遺伝子解析や新たな物質の測定のために長期保存を行います。

 エコチル調査は20年にもわたる長期の大規模疫学調査であり、調査対象者の理解を得て継続的に調査に参加していただけるように、調査実施組織体制、研究倫理、情報セキュリティなど、種々の問題を解決しつつ、調査を実施していかなければなりません。

 エコチル調査の第一の目的は子どもの健康と環境の関わりを解明することです。エコチル調査に関わる多くの研究者と協力しながら、国立環境研究所は調査データを随時とりまとめて、その成果を参加者ならびに国民に向けて発表していくことになります。一方で、調査の成果は環境に関わることに限定されるものではなく、妊娠、出産、子どもの成長発達などに関わる多くの知見が得られることが期待され、疾病予防や福祉の向上に寄与するものと考えられます。さらには、本調査を研究プラットホームとして、独創的なアイディアに基づく追加的な調査研究によって、ライフサイエンスの様々な領域の進展に寄与するものと信じます。

 

(にった ひろし、エコチル調査コアセンター次長)

執筆者プロフィール

新田 裕史

 約30年間の研究者生活のほとんどを大気汚染の疫学に携わってきて、昨年、念願の微小粒子状物質の環境基準設定に関わることができました。しかし、その達成感に浸る間もなく、エコチル調査の開始に向けた準備に忙殺されています。最近の夢は、エコチル調査の完了まで、老後を健康で長生きをすることです。