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2020年12月28日

コロナ禍での英国カンタベリー生活

【随想】

久保 雄広

Douglas MacMillan教授とカンタベリーでの写真
写真1 Douglas MacMillan教授とカンタベリーで(写真は数年前…新型コロナで対面での打ち合わせは叶わず)

 私は2020年2月から日本学術振興会・海外特別研究員に採用して頂き、イギリス・ケント大学の人類学保全研究科(School of Anthropology & Conservation, University of Kent)で研究する機会を頂いています。ケント大学はイギリス南東部、ケント州カンタベリーに位置しており、大学の傍にはユネスコの世界遺産に登録されている大聖堂や聖オーガスティン修道院を含む歴史的な街並みが広がっています。街には小川が流れており、観光客向けに小舟での川下りが提供されている他、自前のカヌーで楽しむ人、川端でランチや運動を楽しむ人などに溢れています。この贅沢な環境で、私は環境経済学×環境保全を専門とするDouglas MacMillan教授の下、人間行動に立脚した生物多様性保全の促進を目指すプロジェクトに2年間取り組む予定です(写真1)。

打ち合わせスペースにもなる街中の公園の写真
写真2 打ち合わせスペースにもなる街中の公園

 と、このような充実したイギリス滞在予定は新型コロナの拡大により、渡英早々に脆くも崩れ去ってしまいました。まず3月には大学への立ち入りが禁止になり、当然ながら自分のオフィスも使えなくなりました。またレストランやパブも殆どが閉鎖になってしまい、新型コロナが落ち着いた今でも再開に至っていないお店が多々見られます。

 とは言え、このような蟄居生活によりイギリス生活から得られる恩恵がなくなったわけではありません。せっかくなので、この環境下でも享受できているイギリス生活の良さをいくつかご紹介したいと思います。

 まず研究面ではオンラインが一般的になったことにより、当初予定していた以上に幅広い共同研究のお誘いを頂いています。これは一見すると日本にいても変わらなかったような気もしますが、時差がなくなったこと、同僚になったことはやはり大きいことを実感しています。特にイギリスでは野生動物取引(Wildlife Trade)に関する研究に大きな予算がついており、その研究を手伝ってほしいとのお話を頂くことが増えました。なかなか一筋縄でいくテーマではありませんが、ヨーロッパ圏から日本がどう見られているかを肝に銘じながら少しでもお手伝いしたいと思います。また最近はイギリスらしく庭園でミーティングをする機会も出てきました(写真2)。お互いまだ手探りではありますが、ある意味でこの環境では初心者同士、ゆっくりと共同研究を進めていきたいと思います。

カンタベリー近場の観光地の写真
写真3 カンタベリー近場の観光地(a:ウィスタブル, b:ドーヴァー, c:マーゲート)とコロナ禍での買い占め騒動 Panic buying を捩ったパブの看板(d)

 また、生活面においても少しずつイギリスらしい自然や文化に触れられるようになってきました。特に今年は海外からの観光客が減ったことで、どこにいっても殆ど混雑を感じずにのんびりと過ごすことができています。同じケント州内のウィスタブルやドーヴァー、マーゲート等、近場の港町には週末の度にお世話になりました。身近ゆえにこんなことがなければ夏の訪問は逃していたかもしれません。また、街中においてもそこはかとなく暇そうな店員がよく話しかけてくれるようになりました。イギリスの社交場であるパブの機能が十分に戻ったとはまだ言い難いかもしれませんが、店員のいつも以上に熱心なビール講釈を聞きながら楽しむ地元のエールが私にとって格別であることは言うまでもありません。

 まだ予定していた「贅沢な」イギリス生活にはほど遠い日々ではありますが、こちらでのイギリス生活を充実したものに、そして健康に気をつけて、貴重なイギリスでの研究生活を楽しく過ごしていきたいと思います。

(くぼ たかひろ、生物・生態系環境研究センター 生物多様性保全計画研究室 主任研究員)

筆者プロフィール:

筆者の久保 雄広の写真

この原稿を執筆している最中に受入教官が大学を去ることに… 人間万事塞翁が馬、クラフトビールを楽しみながら人事を尽くしたいと思います。