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外来動物の根絶を目指した総合的防除手法の開発(平成 23年度)
Development of integrated control methods and systems for invasive alien animals

予算区分
BA 環境-地球推進 D-1101
研究課題コード
1113BA005
開始/終了年度
2011~2013年
キーワード(日本語)
外来生物,セイヨウオオマルハナバチ,アルゼンチンアリ,防除
キーワード(英語)
alien species, Bombus terrestris, Linepithema humile, control

研究概要

2005年6月に施行された外来生物法では、在来の生態系、農業環境、および人の健康な生活に悪影響を及ぼす、または、及ぼすおそれのある外来生物を「特定外来生物」に指定して、それらの国内への持ち込み、国内の移送、飼育、および野外への放逐を禁止する。2010年3月現在までに102種類の外来生物種がこの特定外来生物に指定されている。既に野外に定着している特定外来生物は、政府および自治体が主体となって、これを駆除することが必要とされる。
 しかし、法律施行から5年経った現在において、駆除もしくは防除に成功した特定外来生物は1種も存在しない。特に特定外来生物指定に際して大きな話題を呼び、象徴的な存在ともなっているオオクチバス、マングース、セイヨウオオマルハナバチなどですら、環境省・自治体・NPOおよび住民らの多大な努力にも関わらず、未だ防除の見通しは立っていない。また、当初、広島県でのみ確認されていたアルゼンチンアリは、確実に分布を広げており、瀬戸内海沿岸地域、静岡、横浜などの港湾都市、さらには京都市内や岐阜県等、内陸部にまで侵入が始まっている。折しも本申請書作成中に新たに東京都においても侵入が確認された(2010年10月)。さらに輸入資材から、ヒアリやアカカミアリなどの危険な種の混入が認められるなか、水際での侵入阻止のための技術開発は緊急の課題とされる。
 これまでに防除が成功には至っていない要因としては、1)防除に必要とされる生物学的情報の整備が遅れている、2)農業被害や健康被害が出ている現場で場当たり的に防除が実施されており、総合的防除に至っていない、3)低密度時の効率的な防除手法が確立されていない、4)防除事業が地域ごとにばらばらに実施されており、事業間の緊密な連携と情報交換が不足している、5)薬剤使用等、新しい防除手段の開発が遅れている、6)問題に対する国民的な認知が不足していること、などがあげられる。
 2010年10月に第10回生物多様性条約締約国会議COP10を名古屋で迎え、本会議の中で初の侵略的外来生物対策の作業部会が開催され、「外来生物の侵入防止や駆除の方法等の情報を各国が共有できるよう、専門家で作る国際的な研究グループを新たに設置する」という声明が発表された。さらに本会議で打ち出された新しい生物多様性保全のための国際目標「愛知ターゲット」の中にも、重要な外来生物の速やかな防除法の確立が「Target9」として盛り込まれた。議長国である我が国は、外来生物対策に特化した法律を作り出した点で世界をリードしており、上記のCOP10で発表された外来種対策目標に対しても、科学的データに基づき革新的防除手法を開発するとともに様々な問題点を解決し、世界に先駆けて成功事例を作り上げ、さらにその情報を国際発信することは、生物多様性国家戦略の観点からも、国際貢献の観点からも、重要な課題と位置づけられる。
 本研究課題では、生態学的にも環境政策的にも問題性が大きく、早急な防除が認められる外来生物のうちの動物分類群について、確実な防除の成功を目指した集中的な調査・研究を行うことで貢献を目指すものである。対象生物は特定外来生物に指定され、かつ火急的対策が求められるものとして、昆虫類ではアルゼンチンアリを含む外来アリ類およびセイヨウオオマルハナバチ、魚類はオオクチバスおよびブルーギル、爬虫類はグリーンアノール、哺乳類はマングースおよびアライグマを選定し、これらの種の国内外における防除実態(失敗や成功事例)の情報収集を行い、防除に関する情報の整備と分析を行うとともに、必要とされる外来生物の生態学的情報の収集と防除手法の開発を行う。得られた情報をもとに、防除の有効性を評価するとともに、効率的な防除戦略を立案する。防除事業ネットワークを構築し、得られた研究成果に基づき全国レベルでの防除体制の強化を行う。

研究の性格

  • 主たるもの:応用科学研究
  • 従たるもの:技術開発・評価

全体計画

 本研究課題では、特定外来生物のうち特に防除対策が急がれる重要な種を対象として、調査研究を進める。各生物種の生物学的特性および防除手法をサブテーマ(1)〜(5)が専門的に調査・研究し、サブテーマ6がそれらのデータに基づき、モデル開発を進める。また中核研究機関である国立環境研究所が、成果を取り纏めて、広く情報発信とネットワーク構築を図る。

サブテーマ(1)外来昆虫類の防除手法開発および外来生物防除ネットワークの構築
1)防除単位の設定
 個体群生態学および集団遺伝学的解析に基づき、アルゼンチンアリ・セイヨウオオマルハナバチの野生化地域におけるメタ個体群構造を解明し、防除単位の設定を行う。これらの種の生活史特性・行動特性を明らかにし、個体群構造とあわせて防除モデルのためのパラメータ化を行う。
2)薬剤防除法の開発 
 ベイト剤による防除効率向上のための誘因トラップの開発を実施する。薬剤防除による生態影響評価も実施し、影響を受ける生物種の分布および生態特性を考慮した低リスク薬剤使用方法の検討を行う。セイヨウオオマルハナバチについては北海道鵡川町および平取町を、アルゼンチンアリについては、神戸市および廿日市市をモデル地区として、開発された防除モデルに基づき、防除試験を実施して効果の評価を行う。
3)外来アリ類の水際対策
 さらにアリ類侵入の水際対策としての、燻煙処理法を含む薬剤処理法についての検討を行い、手法を確立する。また、侵入個体の確実な発見を目指して、検疫マニュアルの見直し・強化を図る。
4)防除戦略シナリオ
 最終的に上記の研究成果に基づき、具体的な防除戦略シナリオを策定し、環境省に提出する。
5)外来生物防除ネットワークの構築
 研究統括機関として、各サブテーマの成果とりまとめを行い、国立環境研究所・侵入生物データベースに「外来生物防除戦略データベース」を構築し、環境省、自治体、防除事業関係機関への情報提供とネットワーク強化を図る。適宜勉強会を開催し、国立環境研究所を中核として、バーチャルな外来生物防除システムの完成を目指す。

サブテーマ(2)外来魚類の防除手法開発および防除体制強化
1)総合的防除手法の開発
 複数の水域における現地調査に基盤を置き、本種の生態的・行動的特性を効果的に利用した新たな防除手法の確立をめざすとともに、水域ごとに各種の手法を有効に組み合わせた「総合的防除」の方策の確立をめざす。
2)防除マニュアルの確立
 複数の研究調査水域での取り組みを総合することにより、全国各地における効果的な防除事業の実施に資することができるよう、水域の類型別に汎用性の高い「防除マニュアル」の確立し、環境省および水産庁に提出する。

サブテーマ(3)グリーンアノールの生物学的特性に基づく防除戦略開発
1)新規な有効防除法の開発
 本種の行動学的、生理学的な特性を踏まえて、これまでの防除では行われていなかった有効な防除技術を開発する。主に侵入の水際対策として必要性のある、薬剤を用いた捕獲についても検討を行い、新たな技術を提示する。
2)防除シナリオの確立
 これまでに実施されている防除の考え方及び手法と、本研究で得られた成果に基づき、具体的な防除戦略シナリオを策定し、環境省に提出する。

サブテーマ(4)マングース超低密度個体群の根絶技術開発
1)避妊ワクチンの開発
 マングース繁殖抑制を目指した避妊ワクチンを、免疫学的手法を駆使して開発し、実用化試験を行う。
2)トゲネズミ類の混獲防止技術の開発
 最も混獲数の多いアマミトゲネズミを用いて、飼育実験に基づき忌避物質を探索して、トゲネズミ類の混獲防止技術の開発を目指す。
3)新規侵入阻止技術の開発
 ネット素材を基本に越柵できない最低高の構造物を試作するとともに、忌避物質の探索を併せて行い、これらの単独あるいは組み合わせにより、マングースの移動を制限できる構造物を考案する。飼育下のマングースを用いて、学内に既設のマングース行動実験観察施設において、試作した構造物に対するマングースの行動を把握するとともに、移動を制限できる能力の評価を行う。これらの行動観察と評価の結果から施策構造物を改良し、移動を制限する構造物としての完成度を向上させる。
4)防除シナリオの構築
 サブテーマ6と連携して、開発された防除技術の有効性およびコストをシミュレーション解析するとともに問題点の洗い出しを行い、技術開発にフィードバックする。最終的に、最も効率的な防除シナリオを構築し、マニュアル化して、環境省事業に供する。

サブテーマ(5)アライグマの根絶を目指した防除技術開発
1)低密度時における効率的捕獲技術の開発
 アライグマ探索犬の育成・訓練の強化及びアライグマの行動特性を応用した巣箱型捕獲ワナの改良等といった新たな技術の開発を進める。アライグマの行動・生態調査を実施し、解析されたデータをもとにアライグマ侵入初期状況から侵入後の高密度状況、さらには捕獲対策後の低密度状況にまでを考慮して各地の侵入状況に応じた対策が提言できる総合的アライグマ防除プログラムの構築をサブテーマ6と連携して行う。
2)防除重点地域における防除技術有効性評価
 ウミガメの繁殖に対する影響が確認された和歌山県でのアライグマ対策構築、及び対策が進められてきている北海道の野幌森林公園においてニホンザリガニの生息状況モニタリングによるアライグマ対策の評価を実施し、アライグマ対策における生物多様性保全的側面の社会的認識拡大に努める。
3)防除ネットワークの構築
 さらに、現在全国各地で独立して実施されているアライグマ対策について、サブテーマ1と連携して、地方自治体や対策実施団体等をとりまとめ、目的・手法・進捗状況・効果などといった情報を一元的に集約するシステムを構築するとともに、情報をシステム参加メンバーにフィードバックすることから、各地での対策促進を目指す。

サブテーマ(6)防除実践のためのモデル解析
1)個体群動態を考慮した根絶事業の成功確率予測モデル
 防除に伴うコストの定量化と様々な不確実性を考慮した上で、根絶事業をどのように進め、どの程度の予算を投下すれば、どの程度の確率で根絶を成功させることができるかを予測するための個体群動態を記述したシミュレーションモデルを開発する。モデル構築に必要なデータ収集を各サブテーマに依頼するという形で実証とモデルの相互フィードバックを図る。
2)意思決定理論を用いた最適防除戦略の導出
 個体群の増減のメカニズムを考慮した個体群モデルをつかって根絶に至るまでに必要な費用を推定する。個体群の現況を初期値として、費用を最小にする戦略を求める。サブテーマ1からサブテーマ5までの対象について検討し、モデルが満たすべき仕様を明らかにする。
3)将来の個体群動態に応じて防除努力量や空間配置を変えて行く事を考慮した様々な防除シナリオを構築する。Information-Gap 理論などの意思決定理論を用いて、限られた予算の中で根絶確率を最大化する防除シナリオを導出する数理モデルを開発する。
4)防除のリスク予測モデルの開発
 外来生物の駆除事業が、在来生物の個体群にとってプラスであるのか、マイナスであるのか、を推定するためのモデルを構築する。
5)防除戦略の意思決定システムの構築
 課題によって構築されたモデルに基づき防除シナリオを構成し、侵入生物データベースによる公開・パブコメおよび関係者への説明により意思決定を図るシステムを試験する。

今年度の研究概要

セイヨウオオマルハナバチ・アルゼンチンアリの詳細な分布情報を収集するとともに、メタ個体群構造を明らかにする。繁殖虫およびワーカーの発生消長や個体群動態を明らかにする。防除薬剤および剤型の選定を行う。誘因トラップの開発を行う。研究調査水域の候補地のなかから、本研究における集中的なフィールドワークが実施できる地元の協力体制が確立できる見通しのある水域を試験モデル水域として選定し、開発途上にある新たな生息抑制技術の開発に努める。他の爬虫類の防除事例をレビューするとともに、主として室内において、薬剤のグリーンアノールに対する効果について検証し、今後のアノール防除手法研究に資する基礎的な情報を整備する。避妊ワクチン作成のための抗原開発において抗血清の作製を達成する。アマミトゲネズミ10匹を奄美大島より導入し、飼育繁殖個体群を確立し、飼育室内での繁殖までを目指す。侵入阻止技術の開発として、最低高の構造物を試作し、単独あるいは忌避物質と併用したマングースの移動を制限できる構造物を考案する。国外における防除情報の継続的収集を行う。アライグマ探索犬の嗅覚訓練強化と対策現場での実戦訓練及び巣箱型ワナへの誘引オプションテストの実施、北海道でのアライグマへのGPSテレメータ装着作業を進めてハビタット選好性データの収集体制の整備、和歌山におけるウミガメ被害状況の把握とアライグマ侵入ルートの確認調査の実施、ニホンザリガニモニタリング体制の確立と生息状況調査、ならびに全国地方自治体及びアライグマ対策実施団体への対策情報集約システムへの参加要請と集約情報に関する要望アンケートの実施である。サブテーマ1〜5の現場視察と数理勉強会を開催し、モデルのフレームワークを検討して、必要とされるデータを明らかにして、各サブテーマの調査計画にフィードバックする。

外部との連携

滋賀県立琵琶湖博物館研究部主任学芸員 中井克樹
財団法人自然環境研究センター第3研究部主席研究員 戸田光彦
琉球大学・農学部・准教授 小倉剛
北海道大学大学院文学研究科人間システム科学専攻地域システム科学講座教授 池田透
横浜国立大学・大学院環境情報研究院・教授 小池文人

課題代表者

五箇 公一

  • 生物多様性領域
    生態リスク評価・対策研究室
  • 室長(研究)
  • 農学博士
  • 生物学,農学,化学
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担当者