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2024年3月18日

国環研のロゴ
ニホンミツバチの分蜂回数の増加
 -2000年から2022年の養蜂者の飼育記録から-

(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ、環境記者会同時配付)

2024年3月18日(月)
国立研究開発法人国立環境研究所
 

ポイント

  • 2000年から2022年の23年間でニホンミツバチの分蜂回数は増え、分蜂開始日は早まっていた
  • 早春に分蜂を開始したコロニーは分蜂回数が多かった
  • 分蜂回数の増加は、冬から早春にかけての気温が近年上昇していることに起因する可能性がある

 分蜂(図1)は、ミツバチの女王が多数のワーカー(働きバチ)と共に元の巣を離れて新たに営巣をする繁殖行動です。分蜂には季節性があるため、近年の気温上昇に伴って変化している可能性がありますが、これまで長期的なデータを取りまとめた研究はありませんでした。国立環境研究所生物多様性領域の森井清仁特別研究員と坂本佳子主任研究員は、ニホンミツバチ養蜂者から過去の分蜂記録を収集し、分蜂回数の長期的な変化を解析しました。その結果、2000年から2022年の23年間に、ニホンミツバチの分蜂回数は緩やかに増加し、分蜂開始日は早まったと推定されました。さらに、早春、特に3月に分蜂を始めたコロニー(蜂群)の分蜂回数は、4月以降に分蜂を始めたコロニーと比べて多いことがわかりました。近年、日本の冬から早春にかけての気温が上昇傾向であることを考慮すると、分蜂の開始日が早くなった結果、分蜂回数が増加した可能性があります。ただし、気温上昇と分蜂回数の因果関係を検証するためには、さらなる研究が必要です。本研究の成果は、2024年3月6日付でSpringer Science+Business Media社から刊行される生物学分野の学術誌『The Science of Nature - Naturwissenschaften -』に掲載されました。

図1の画像
図1.分蜂時に作られる蜂球(ほうきゅう)(撮影:小松貴氏)

1. 研究の背景と目的

全球規模で生じている気温上昇により多くの動物の行動が変化しています。ミツバチでは、特定の花に訪れる回数が多くなることと、越冬後の活動開始が早まることが報告されています。繁殖行動である「分蜂」においても、春に多く観察され、季節性があるため、気温上昇に伴って変化している可能性がありますが、これまで長期的なデータを取りまとめた研究はありませんでした。分蜂は、女王が多数のワーカー(働きバチ)と共に巣を離れて新たに営巣する行動です。一つのコロニー(蜂群)から次世代の女王が複数羽化した場合、分蜂は複数回生じることがあります。本研究では、各分蜂を「分蜂イベント」、一連の分蜂イベントを「分蜂サイクル」と定義します(図2)。
筆者らは、ニホンミツバチ養蜂者から過去の分蜂回数の記録を収集し、越冬群(越冬後、その年最初の分蜂サイクルを行ったコロニー)と再分蜂群(その年2回目の分蜂サイクルを行ったコロニー)を区別したうえで、分蜂回数(分蜂サイクルあたりの分蜂イベント数)および分蜂開始日の長期的な変化を解析しました(図2)。また、分蜂を開始した月によって分蜂回数が変化するかを検証し、分蜂回数の長期的な変化を近年の気温上昇の視点から説明する仮説を提示しました。

図2の画像
図2.本研究における分蜂サイクルと分蜂イベントの関係図

2. 研究結果と考察

253例のニホンミツバチの分蜂サイクルを解析した結果、2000年から2022年の間、分蜂回数は緩やかに増加し(年間約1.03倍,図3a)、越冬群は再分蜂群よりも多く分蜂したことが示されました。また、解析した23年間で、分蜂開始日は早まったと推定されました(平均して年間約0.44日,図3b)。さらに、第1分蜂が生じた月と分蜂回数の関係から、越冬群と再分蜂群ともに、その年の早い時期に分蜂を開始したほうが多く分蜂することが示されました(図4)。特に、3月に分蜂を開始した越冬群の分蜂回数は、4月以降に分蜂を開始した場合よりも多いことがわかりました。これらのことから、分蜂開始日が早まったことで、ニホンミツバチの分蜂回数が増加した可能性が考えられます。日本において冬から早春にかけての気温が近年上昇していることを考慮すると、採餌ができない低温期が短縮され、多くのワーカーが死亡することなく分蜂期を迎えることが分蜂回数の増加の要因である可能性があります。しかし、気温の上昇と分蜂回数の増加の因果関係を明らかにするためにはさらなる研究が必要です。

図3の画像
図3.分蜂回数(a)と第1分蜂日(b)の時間的変化.(a)の各プロットの大きさはサンプル数を示す.
図4の画像
図4.第1分蜂が記録された月ごとの平均分蜂回数.エラーバーは標準誤差を示す.

3. 今後の展望

本研究では、気温上昇が分蜂回数の増加に影響したという仮説を提唱しましたが、コロニーサイズや飼育管理法、気象条件、地域性なども分蜂回数に影響する可能性があるため、今後は、これらと分蜂回数の関係を詳細に分析・考慮したうえで、気温上昇による影響を解析していく必要があります。
また、分蜂回数の増加が個体群内のコロニー数の増加につながるとは限りません。過度に分蜂が繰り返された場合、コロニーの成長が遅れ、越冬に失敗するリスクが高まります。さらに、分蜂によって一時的に採餌圏内のコロニーの密度が高くなると、花蜜や花粉をめぐる競争が激しくなることが予想されます。今後は、分蜂回数とコロニーの生残率との関係を調べ、分蜂回数の増加が及ぼす集団への影響評価と将来予測を実施する予定です。

4. 研究助成

本研究は、JSPS科研費(JP20H00425, JP23K13970)の助成を受けて行われました。

5. 発表論文

【タイトル】Japanese honey bees (Apis cerana japonica) have swarmed more often over the last two decades 【著者】森井清仁、坂本佳子(国立環境研究所・生物多様性領域) 【掲載誌】The Science of Nature - Naturwissenschaften - 【URL】https://doi.org/10.1007/s00114-024-01902-y(外部サイトに接続します) 【DOI】10.1007/s00114-024-01902-y(外部サイトに接続します)

6. 発表者

本報道発表の発表者は以下のとおりです。
国立環境研究所 生物多様性領域
生態リスク評価・対策研究室 特別研究員 森井 清仁

7. 問合せ先

【研究に関する問合せ】
国立環境研究所 生物多様性領域
生態リスク評価・対策研究室 特別研究員 森井清仁

【報道に関する問合せ】
国立研究開発法人国立環境研究所 企画部広報室
kouhou0(末尾に”@nies.go.jp”をつけてください)

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