ユーザー別ナビ |
  • 一般の方
  • 研究関係者の方
  • 環境問題に関心のある方
2024年3月12日

共同発表機関ロゴマーク
妊婦の血中およびさい帯血金属濃度と在胎不当過小(SGA)児の追いつき成長について
子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)

(環境問題研究会、環境記者会、文部科学記者会、科学記者会、筑波研究学園都市記者会、千葉県政記者クラブ同時配布)

2024年3月12日(火)
エコチル調査千葉ユニットセンター
千葉大学大学院医学研究院小児病態学
  講師      高谷 具純
千葉大学予防医学センター
  センター長   森 千里
国立研究開発法人国立環境研究所
エコチル調査コアセンター
  コアセンター長 山崎 新
  次長      中山 祥祠

 

 エコチル調査千葉ユニットセンター、千葉大学予防医学センター 高谷具純講師らの研究チームは、国立研究開発法人国立環境研究所(以下「国立環境研究所」という。)と共同で、エコチル調査の約10万組の母子のうち、在胎不当過小(SGA)*であった約4,600人の子どもの母親(妊婦)の血液およびさい帯血と医療記録による調査データを用いて、妊婦の血中およびさい帯血の金属(鉛、カドミウム、水銀、マンガン、セレン**)濃度とSGA児の出生後の成長との関連について解析を行いました。その結果、さい帯血中のカドミウム濃度が高いと、3歳および4歳時点で子どもの身長が年齢の基準範囲に達しない可能性が高まることがわかりました。
 本研究の成果は、令和6(2024)年2月10日付でBMC (Springer Nature)から刊行される環境保健分野の学術誌 ” Environmental Health” に掲載されました。
*在胎週数に見合う標準的な出生体重に比べて小さく生まれた状態(下から10パーセント未満)
**セレンは半金属に分類されます。

 ※本研究の内容は、すべて著者の意見であり、環境省及び国立環境研究所の見解ではありません。

1.発表のポイント

1.本研究では妊婦の血中およびさい帯血金属(鉛、カドミウム、水銀、マンガン、セレン)濃度とSGA児の追いつき成長との関連について解析を行った。 2.大規模コホート調査であるエコチル全国調査の約10万組の母子で、SGAであった約4,600人の子どもと母親(妊婦)のデータを使用した。 3.さい帯血中のカドミウム濃度が高いほど、SGA児の3歳での身長の伸び率が低下するという関係が見られた。 4.さい帯血中のカドミウム濃度が高いほど、SGA児の3歳および4歳時点で身長が基準範囲内に到達しないという関係が見られた。

2.研究の背景

 子どもの健康と環境に関する全国調査(以下、「エコチル調査」)は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、平成22(2010)年度より全国で10万組の親子を対象として開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査です。さい帯血、血液、尿、母乳、乳歯等の生体試料を採取し保存・分析するとともに、追跡調査を行い、子どもの健康と化学物質等の環境要因との関係を明らかにしています。
 エコチル調査は、国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを、また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された15の大学に地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省と共に各関係機関が協働して実施しています。
 SGAはsmall-for-gestational-ageの略で、子宮内の胎児の成長が遅れている状態を示します。今回の研究では、新生児の出生体重が、在胎週数に見合う標準的な出生体重に比べて小さく、小さいほうから10%未満に入る場合にSGAとみなしました。
 SGA児の多くは、出生後2歳くらいまでに身長が年齢の基準範囲内に到達する、追いつき成長がみられます。しかし、中には追いつくことができず、身長が低いままの子どももいます。SGAには、体質や環境など、さまざまな要因があります。これまでの研究により、妊婦の血液中の鉛、カドミウム、水銀といった有害金属などの濃度が高いと、子どもがSGAで出生する可能性が高まることが報告されています。しかし、妊婦の血液中の金属がSGA児の出生後の成長にどのような影響があるかについては、あまり研究が進んでいませんでした。

3.研究内容と成果

参考図

 本研究ではエコチル調査の約10万組の母子のうち、SGA児であった約4,600人の子どもと母親(妊婦)のデータを使用して、妊婦の血液およびさい帯血の金属濃度とSGA児の出生後の体重、身長との関連について解析を行いました(参考図)。血中濃度を測定した金属は、有害金属とされる鉛、カドミウム、水銀と、人体に必須でありながら摂取量が多すぎると有害となることがあるマンガン、セレンです。

1)妊婦血中およびさい帯血中の金属濃度とSGA児の出生後の身長との関係

 それぞれの金属について解析を行ったところ、妊婦血中のマンガン濃度は2歳時点での身長の伸び率の上昇との関連が示されました(図1)。さい帯血中のカドミウム濃度は3歳時点での身長の伸び率の低下との関連が示されました。(図2)

図1の画像
SDスコア:同じ年齢の子どもの平均値から標準偏差の何倍離れているかを示す値
SDスコアの変化量:血中金属濃度が2倍に増えたときにSDスコアがどれだけ変化するかを示す値

図2の画像

2)さい帯血中のカドミウム濃度とSGA児の追いつき成長との関連

 それぞれの金属について解析を行ったところ、妊婦血中の金属濃度は関連がありませんでしたが、さい帯血中のカドミウム濃度が高くなるほどSGA児が3歳及び4歳時点で身長が基準範囲に追いつけない可能性が高まることが示されました。(図3)

図3の画像
低身長:身長が「平均ー(標準偏差×2)」よりも小さい

4.考察と今後の展開

 他のエコチル調査の研究結果から、妊婦のカドミウムの摂取はほとんどが食品由来と推定されます。現在の一般的な日本人において、食品からのカドミウム摂取が健康に影響を及ぼす可能性は低いと考えられています。また、胎盤には妊婦から胎児へのカドミウムの移行を防ぐ働きがあるため、胎児の血液中のカドミウム濃度はさらに低くなります。本研究のさい帯血中カドミウム濃度は、妊婦の血中濃度の6%程度でした。
 本研究では、さい帯血のカドミウムの濃度は低い範囲にありましたが、低い濃度の範囲の中でも、濃度が高いほどSGA児の出生後の成長を抑える影響があることが示されました。カドミウムによって出生後の成長が抑えられることと、子どもの今後の健康や発達がどのように関連するかについては、さらに研究が必要です。
 今後の調査で、子どもの発達や健康に影響を与える化学物質等の環境要因がさらに明らかになることが期待されます。

5.発表論文

題名(英語):Association between maternal blood or cord blood metal concentrations and catch-up growth in children born small for gestational age: an analysis by the Japan Environment and Children’s Study 著者名(英語):Tomozumi Takatani1,2, Rieko Takatani1, Akifumi Eguchi1, Midori Yamamoto1, Kenichi Sakurai1, Yu Taniguchi3, Yayoi Kobayashi3, Chisato Mori2,4, Michihiro Kamijima5, and the Japan Environment and Children’s Study Group6
1 高谷具純、江口哲史、山本緑、櫻井健一、高谷里依子、森千里:千葉大学予防医学センター
2 高谷具純:千葉大学大学院医学研究院小児病態学
3 谷口優、小林弥生:国立環境研究所
4 森千里:千葉大学大学院医学研究院環境生命医学
5 上島通浩:名古屋市立大学大学院医学研究科環境労働衛生学
6 JECSグループ:エコチル調査運営委員長(研究代表者)、コアセンター長、メディカルサポートセンター代表、各ユニットセンターから構成
掲載誌:Environmental Health DOI:10.1186/s12940-024-01061-7(外部サイトに接続します)

6. 参考資料

妊婦の血中元素濃度と新生児の出生時の体格について:子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)https://www.nies.go.jp/whatsnew/20220715/20220715.html

7.問い合わせ先

【研究に関する問い合わせ】
千葉大学大学院医学研究院小児病態学 講師 高谷具純
t-takatani(末尾に@chiba-u.jpをつけてください)

【報道に関する問い合わせ】
千葉大学企画総務部渉外企画課広報室
koho-press(末尾に@chiba-u.jpをつけてください)

国立研究開発法人国立環境研究所 企画部広報室
kouhou0(末尾に@nies.go.jpをつけてください)

関連新着情報

関連記事