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2015年6月30日

使用済み電気製品を
安全に資源として役立たてるために

Interview 研究者に聞く

 使用済み電気製品は、重金属などの有害物質と貴金属などの資源を含んでいるため、有害物質を環境中に排出しないようにしながら資源を活用することが必要です。しかし、実際は多くの使用済み電気製品が日本やアジアで不適正に廃棄されています。資源循環・廃棄物研究センター 副センター長の寺園淳さんは、この実態を調査し、適正にリユース・リサイクルするための研究を行っています。

寺園淳の写真
寺園 淳/資源循環・廃棄物研究センター 副センター長
国際資源循環の研究チームの写真
国際資源循環の研究チーム(左から湯、小口、寺園、南齋、吉田)

使用済み電気製品のゆくえ

Q:研究はいつから始めましたか。

寺園:1996年に国立環境研究所に赴任した後、2001年からアジアの廃棄物問題に関する研究に取り組んでいます。そのころ、国内では使用済み電気製品の不法投棄が問題になり、また日本などの先進国からアジアの途上国への使用済み電気製品の輸出がクローズアップされてきました。

Q:電気製品とは具体的にどんなものを指しますか。

寺園:テレビ、エアコンや冷蔵庫などの大型家電から、掃除機、オーディオ機器、ゲーム機、パソコンや携帯電話など比較的小型のものまで、様々な電気電子機器が含まれます。このような電気製品が使用後に中古品として再び使われなければ廃棄物となり、世界では“E-waste”と呼ばれることがあります。

Q:使用済み電気製品はどのように処理されているのですか。

寺園:家庭から出される廃棄物は各市町村が集めて、処理をします。以前、家電4品目(テレビ、エアコン、洗濯機・乾燥機、冷蔵庫・冷凍庫)は粗大ごみとして扱われ、鉄などを回収するだけで大部分は埋め立てに用いられていました。そのままでは処分場はすぐにいっぱいになり、金属資源のリサイクルや有害物の適正な処理もできません。そこで「家電リサイクル法」が制定され、2001年から家電4品目のリサイクルが始まりました。

Q:家電リサイクル法とは、どんな法律ですか。

寺園:使用済みの家電をリサイクルし、資源を有効利用するとともに、埋め立て処分量を減らすための法律です。消費者は買い替えの時などに小売業者に料金を払って使用済み家電の引き取りとリサイクルを依頼し、小売業者は使用済み家電を引き取って製造業者へ渡します。製造業者はリサイクル(法律上は再商品化の名称)を行い、家電に使われている鉄・銅・アルミや貴金属などの資源を効率よく回収し、鉛などの有害物質を適切に処理します(下部写真)。この法律は3R(コラム1参照)で提唱するリデュース、リユースを推進せず、リサイクルだけを定めているという批判もあります。そのため、地域によっては不法投棄が行われ、また無料で使用済み家電を回収する業者が現れるようになりました。

国内の家電リサイクル施設における液晶テレビの分解の写真
国内の家電リサイクル施設における液晶テレビの分解(2009年)

不正輸出されるおそれのある使用済み電気製品

Q:不用品回収のトラックやチラシはよく見かけますね。

寺園:不用品回収のトラックは、全国で見かけることができ、家電4品目などの様々な電気製品を含む不用品を「壊れていても大丈夫」とアナウンスしながら回収しています。使用済み電気製品の回収の仕組みは、家電やパソコン、小型家電でそれぞれ異なるため消費者には理解しにくく、さらに料金や手間もかかります。これに対して、無料で回収してくれる不用品回収業者はとても便利です。実際に、回収した電気製品はリユース目的で海外へ輸出されることが多いようです。しかし、集めた不用品の行き先などについてたずねても、説明してくれた業者はありませんでした。

Q:不用品回収では、何が問題ですか。

寺園:廃棄物の収集には市町村の許可が必要ですが、ほとんどの不用品回収業者はその許可を持っていません。また、無料回収といいながら荷物を運んだ後に高額を請求する詐欺的な業者もあります。

Q:リユースできる電気製品であれば、不用品回収業者に任せてもよいのですか。

寺園:リユースの中でも望ましいのは、不用品回収業者とは違いリユースショップは厳しく査定をして使用済み電気製品を引き取ります。一方、海外でのリユースもダメではありませんが、最近では中古品の輸入規制を強化する国が増えており、正常に作動しない製品を輸出すれば不適正輸出とみなされる可能性があります。そこで、輸出をする不用品回収業者は、回収目的や輸出先などを消費者に説明した上で回収してほしいのですが、そうなっていません。回収した不用品の中にリユースに適さないものがあれば、国内で金属スクラップ業者に渡されてつぶされてしまったり、最悪の場合は不法投棄されることがあります。

Q:金属スクラップとは何ですか。

寺園:家電や解体した工場の配電盤などが混ざった雑多なスクラップで、ミックスメタルとか雑品ともいわれます(下部写真(左))。鉄や銅などの金属を多く含むので、ほとんどが中国へ資源として輸出され、リサイクルされています(下部写真(中))。しかし、国内で適切な選別をしないで輸出するので、中国から廃棄物とみなされるおそれや有害物質が含まれている場合があります。最近では港などに保管された金属スクラップから火災が発生し、周辺に多大な迷惑を与えています。石油化学タンクに燃え移りそうになるなど非常に危ない例もありました(下部写真(右))。ほとんどの火災は原因が不明で、電気製品が火元とはいえませんが、電気製品には発火や延焼を誘発する金属やプラスチックが含まれていますし、火災防止対策も十分とはいえません。

写真左 洗濯機などが混ざっている家電系の金属スクラップ
洗濯機などが混ざっている家電系の金属スクラップ(2012年)
写真中 日本から輸入された金属スクラップを中国で手選別している様子
日本から輸入された金属スクラップを中国で手選別している様子(2010年)
写真右 港湾での金属スクラップ火災
港湾での金属スクラップ火災
(2012年、尼崎市消防局提供)

Q:使用済み電気製品の不正輸出を取り締まる方法はないのですか。

寺園:国内では、定められた施設や業者以外が電気製品をつぶして金属スクラップに混ぜるなどの処理を行うと廃棄物処理法違反になります。フロンや有害物質が放出されて環境汚染の原因にもなるため、環境省は2012年3月に自治体に通知を出し、使用済み電気製品には廃棄物処理法の厳しい適用を促すなど対策を強化していますが、まだ十分とはいえません。
 また、使用済み電気製品の不正輸出は、バーゼル法(特定有害廃棄物等の輸出入等の規制に関する法律)と廃棄物処理法により輸出を水際で規制しています。有害物質の濃度が基準を超えていれば特定有害廃棄物等という規制対象になり、バーゼル法に則した手続きが必要です。しかし、金属スクラップのような雑多なものは代表的なサンプルの分析が難しいなどの理由で、これらの法律が十分に機能していません。また、リユース目的の輸出は厳密にはどちらの法律も対象外ながら、環境省は中古品輸出基準をつくって2014年4月から適用しています。国内での取り扱いと輸出の水際の両方で、対策が強化されつつあります。

アジアでの使用済み電気製品の実態

Q:日本の使用済み電気製品の輸出先はどこですか。

寺園:リユース目的の電気製品は、フィリピンやタイ、ベトナムなどの東南アジアや、中東、アフリカに輸出され、リサイクル目的の金属スクラップはほとんどが中国に輸出されています。私たちはこれまで貿易統計と現地調査から、使用済み電気製品の輸出の実態を明らかにしてきました。例えば、中古のブラウン管テレビは、日本からアジアの国々にたくさん輸出されてきました。主な輸出先は香港でしたが、現地の輸入規制が強化され、最近はフィリピンやミャンマーへの輸出が比較的多いようです。日本で地上アナログ放送が終了した2011年は283万台も輸出されましたが、その後激減しています。2012年と2014年にフィリピンの視察をしたところ、フィリピンでは日本製テレビの人気が高く、日本製であることを強調して販売していました(下部写真(左))。まだブラウン管テレビが使われており、調子が悪い製品でも修理をして販売していました(下部写真(右))。

フィリピンで日本の中古電気製品を販売しているリユースショップの写真
フィリピンで日本の中古電気製品を販売しているリユースショップ(2012 年)
フィリピンで日本から輸入された中古ブラウン管テレビを修理・調整している様子の写真
フィリピンで日本から輸入された中古ブラウン管テレビを修理・調整している様子(2012 年)

Q:使用済み電気製品の取り扱いはどうでしたか。

寺園:使用済み電気製品の不適正なリサイクルによる健康や環境への影響については海外研究機関の調査事例が多いですが、私たちも現地調査を行っています(コラム3参照)。たとえば、中国には使用済み電気製品の不適正な解体やリサイクルで知られている場所が多数あります。最も有名なのは南部の広東省の Guiyuという村で、世界から多くの使用済み電気製品を輸入しており、そこでは基板の解体やケーブルの野焼きなどで発生する鉛やダイオキシン類による環境汚染が起きています。日本の金属スクラップは中部の浙江省で解体されています。中国の不適正なリサイクルは、規制強化や機械化でかなり改善されたと聞きますが、まだ注意が必要です。

Q:アジアの国々にリサイクルの制度はありますか。

寺園:中国や韓国にはリサイクルの制度や高度なリサイクル設備を整えた施設があります。問題はそれらのリサイクル施設に使用済み電気製品が集まりにくいことで中国では補助金を使って集めようとしたこともありました。ベトナムでは2015年から徐々に新しい制度が始まることになっています。タイやフィリピンでは、新たな制度で回収やリサイクルを試みようとしていますが、簡単ではないと思われます。

不適正なリサイクルを適正にするために

Q:このような不適正なリサイクルを適正にするために研究を行っているのですね。Q:いつからリスク評価の研究を始めましたか。

寺園:そうです。国によって状況が違うので、まず日本とアジアの実態を正確に把握しなければなりません。日本はリサイクルの制度や施設は整備されているのですが、法律の種類が多くて複雑なので、わかりやすさが必要ですし、リデュースやリユースの努力も必要です。一方アジア諸国では、以前は先進国からの輸入ばかりが注目されていましたが、最近はどの国でも電気製品が多数使われているため、自国で発生する廃棄物の対策を考えねばなりません。自発的なリユースが進んでいる国も多いので、リサイクルを適正な方向に導くことが重要です。

Q:どのように研究を進めていますか。

寺園:国内では、使用済み電気製品のフローを明らかにするために自治体での回収状況の調査や貿易統計の解析をしています。金属スクラップに含まれている有害物質を調べ、法律上の課題も検討しています。金属スクラップの火災が発生した場合は、可能な限り現場に駆けつけ、火災原因の調査に協力するとともに、現地の消防署や海上保安庁など関係者との情報交換を行っています。金属スクラップは、自治体の廃棄物・消防当局や環境省など多数の行政にまたがる問題ですが、関係する法制度が異なるため、行政間の連携はほとんどありません。そこで、私は行政間をつなぐ潤滑油の役割を意識して、また制度の適用可能性や消費者へのわかりやすさを重視して提言しています。

Q:アジア諸国の実態を調べるのは難しいのではないでしょうか。

寺園:はい。研究を始めた頃は、アジアの使用済み電気製品の状況に関する論文も少なく、情報を集めるのが難しかったので、2004年からアジアの E-wasteに関するワークショップを開催しました。アジア諸国を中心に専門家を数名ずつ招待して講演をしてもらい、情報を交換しました。2013年まで全部で9回行ったのですが、おかげで情報が集まり、アジア諸国の状況がかなりわかってきました。
 その中の何名かの研究者とは、共同研究を行い、論文を書いたり、現地での使用済み電気製品の実態調査を始めたりすることができました。このような海外の調査では、信頼できる共同研究者をみつけることが大切だと思います。

Q:それはなぜですか。

寺園:使用済み電気製品に限らず廃棄物処理の現場は辺ぴな場所にあることが多く、自力で行くことは難しいからです。政府や地元の行政も実態を知らないことや見せないこともあります。以前、ある国の調査では、不適正なリサイクルの現場に近づかないように、地元政府の人たちに監視されました。一歩間違えると、国際問題にもなりかねませんから、信頼できる現地の共同研究者と調査に行くことはとても重要です。

電気製品の使用後にも関心を

Q:使用済み電気製品の適正な循環に向けて私たちに何ができますか。

寺園:まず、自分たちが使っている電気製品が使い終わった後のことに関心を持ってほしいです。リデュースやリユースをするのが最もよいのですが、それでも不用になった場合は適正なリサイクルの方法で出してください。方法がわかりにくいときはホームページなどを調べるとよいです。適正な許可をもっていることや不用品の行き先が明らかでない限り、不用品回収業者の利用はお勧めしません。
 アジア諸国での不適正なリサイクルについては、排出者が現地の人々である限り、私たちと直接の関係はあまりないと思います。それでも、もし私たちが廃棄した使用済み電気製品が、密輸されたり金属スクラップに混入して輸出された場合は、不適正にリサイクルされる可能性もあるので、それは避けねばなりません。最近では、アジア諸国で適正にリサイクルできない電子部品を日本の非鉄製錬業者が輸入して、リサイクルすることが増えています。これはアジアの使用済み電気製品に対して日本が技術で貢献している例です。

Q:研究の展望は?

寺園:日本とアジア諸国の使用済み電気製品の実態を明らかにし、問題を解決するための提言が行えるよう、これからも研究を進めていきます。使用済みの電気製品を安全かつ適正に循環させるために、回収やリサイクルの方法などについて、国や自治体にご意見を寄せるなど関心を持っていただけたらと思います。

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